フランスから、食関連ニュース 2020.07.08
今週のひとこと
毎朝、日本の両親とラインで30分ほど話すのが日課です。毎年、夏のバカンスの時期は長期で日本に帰国しているのですが、今年はコロナ禍のため、リスクを取らず、日本への帰国を諦めましたので、たとえ離れていても、顔を見ながら声を聞けるのはありがたい事だと思います。コロナの東京の感染者の増加や、局地的な集中豪雨など、心配はつきませんが、心温まる話題もあって、一日の活力になります。ちょうどお中元の時期。父が日本酒の小瓶を画面に見せてくれました。「毎年、あるお婆ちゃんが、同じ日本酒の小瓶をお中元にくれるんだ。新聞紙に包んでくれて」と。父は医者で、80を過ぎた今も、週に一度だけ、外来患者さんの診察をさせていただいています。ささやかな贈り物、きっちりと新聞紙に包まれた日本酒の小瓶の出で立ちは、きっと神々しいことだろうと想像しました。物が溢れている今の時代、インターネットのひと押しで簡単にお届けものができてしまう時代ですが、心もお届けするのには、自身の手で、あるいは時間も使って、何かを生み出さなくては伝わらない。包むことに心を込めるという、日本の精神の豊かさを、改めて感じた一件でした。
パリの東に広がる広大なヴァンセンヌの森で、シュマン・ドゥ・ラ・ナチュールという団体が企画する、少人数で行う野草摘みのイベントがあったので、仕事帰りに参加してみました。マロニエの実、杏、ワイルドレタスやマスタードの実、ヨモギ、シロザなど、1時間半の森散歩でしたが、今までは目に見えていなかった、たくさんの野草があるのに驚きました。ヴァンセンヌの森は1000ヘクタール近くもあり、500種もの野草、1000種ものキノコが採れるそうです。野生のマスタードの実と、スマトラのヨモギと呼ばれる葉を少し持って帰ってきました。折しも、野草の研究家で知られる民族植物学者のフランソワ・クプランさんが、「Ce que les plantes ont à nous dire/植物が我々に語りかけること」という書物を3月に出版されたばかりでした。かつて3つ星をならした、アヌシー市のマルク・ヴェイラ氏にも影響を与えた方です。クプランさんもヴァンセンヌの森にはよく出かけられるそうで、野草を摘めば、あとは卵とチーズで、健康的で風味高い完璧な料理ができあがると、ル・モンド紙のインタビューで答えていましたが、もっともだと思いました。クプランさんは、いわゆるスワソン・チュイタール(68年児)。大学に入学したと同時に学生運動時代に突入し、ヴォージュ山地へと逃れたところで、植物学者であり詩人であった師に出会い、この道に導かれたのだそうです。クプランさんは「社会が教養から野生を、動物から植物を切り離した。人間という天才が改造したものこそが、他のよりも優れているという認識を産んだ」とおっしゃっています。「肉を食せるものこそが成功者である」という認識があったとも。しかし、環境破壊が身に迫り、我々の生活も蝕み始めた21世紀、「肉を食せるものこそが成功者である」という認識は時代遅れで、私たちは自然に回帰したいという欲求の高まりがあるように感じます。特にこのコロナ禍を経験している世界においては。しかし、気をつけなくてはならないのは、特に都会の人間の愚かさでも。近年パリでは、都会でつくる蜂蜜が流行っており、環境が良好であることの象徴でもあるように見えましたが、1年ほど前にパリ市から警告が出されました。都市養蜂が野生ミツバチを駆逐してしまっていた、環境を破壊していたのです。他者を思い心を吹き込む、包むという行為とは真逆で、環境を思うなどといった、なんらかの口実のもとの利己的な判断には、常にしっぺ返しが伴うのではないかと思います。進化の原動力の今と昔について考えさせられています。
今週のトピックス【A】『ホテル・ドゥ・クリヨン』のアイスクリーム・トラック。【B】セザール・トロワグロ氏後援、野菜が主題のコンクール『未来のために料理しよう』開催。【C】ブルターニュ地方1つ星もフードトラックに挑戦。【D】『トゥール・ダルジャン』の出張レストラン。【E】プロラインのブランド『シェフ』、100%リサイクル可能なパッケージを開発。
今週のトピックス
【A】『ホテル・ドゥ・クリヨン』のアイスクリーム・トラック。
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