見出し画像

フランスから、食関連ニュース 2019.11.05

フランスにおける旬でコアな食関連のニュースを、週刊でお届けします。

1. 今週の一言

徳島県、食材サロン会「阿波ふうど」イベントにて、ヤニック・アレノ氏率いる3つ星レストラン「ルドワイヤン」のスーシェフ、廻神大地さんが作ったブイヨンがとてもおいしく、目を覚まされるほどでした。芋セロリの抽出液(エクストラクション)に、太刀魚の魚醤とすだちの果汁を加えたものです。芋セロリのピュアな繊維質のある甘みと渋み、魚醤のひねた味、それにストレートなすだちが、切れ味を加えてくれる。体の隅々に染み渡るような、奥深いブイヨンに仕上がっていました。

エクストラクションは、フレンチの歴史に刻まれるような、ヤニック・アレノの革命的な発明でした。さまざまな素材を一緒に煮込んで作るのが、フランスのベースとなるフォン(出汁)ですが、素材ごとに火を通して、各々の抽出液(エキス)を取り出し、それらを合わせたらどうなるか。それを得るのに、ブドウを自然凍結させて、凝縮した液を抽出するグラスワインの製法を応用することを思いついた。取り出したエキスには、ミネラル分が豊富に含まれており、塩分を加える必要はないこともわかったそうです。健康にも優しいエキス。こうした方法で抽出した液のことを、エクストラクションと、アレノは呼んでいます。

ところが、エクストラクションは研ぎすまされたピュアな味わいであるため、活力を加えたい。そのときに出合った考えが、発酵したものを加えるということ。発酵を生む微生物の働きは、素材に波動を与えてくれる。エクストラクションに発酵のものを合わせた料理が、今のアレノの料理のベースにあって、廻神さんも、芋セロリのエクストラクションに太刀魚の魚醤を加えることで、エネルギーをプラスしていました。それが、体に染み渡るような味わいとなっていた。まさにルドワイヤンの料理を体現するクリエーションでした。

一方、ゴミ問題は深刻だと認識しています。ルドワイヤンでは芋セロリを1ヶ月に1トンも使用するそうです。食材の残った部分をすべて発酵食品にするわけにもいかない。地方の星付きであれば、庭なり、近隣の菜園との協力で問題も解決できますが、ガストロノミーを謳う、パリという首都の星付きレストランやパラス・ホテルなどの抱える問題でもあるでしょう。食する人間が体を満たされる、あるいは、体に良い食べ物ではあっても、それが環境にいいわけではないという矛盾。食の世界だけに限らず、現代において真剣にものを作ることに取り組んでいる人たちであれば、頭を悩ませている問題ではないかと感じています。ただ、物事を生み出せば、問題が発生するのは必須で、そうやって歴史は繰り返してきました。それに対し、解決法を見つけていく必要を感じ、探求していくことが、人としての知恵であり、進化につながることを祈ります。まずは、問題がある、ということに気づくか否か。

サロン・ド・ショコラにて、20世紀初頭前後に活躍した作家フランソワ・ポンポンの名作である彫刻「白熊」を、ホワイトチョコレートで表現するという作品が飾られていて、私としては衝撃でした。今や、環境問題に直面している白熊を、2.80×1.50×0.90mの大きさで、ホワイトチョコレートを少なくとも200kgは使い、表現していることを誇りにしている。それに対して疑問を投げかけないメディアの愚かさも際立って、時代とは逆行しているクリエーションであると思わざるを得ませんでした。

日本の某ショコラティエの方が「もう自分は、紙媒体は必要はない。どんなに露出しても、今はお客を運んできてはくれない。インターネットを通じ、直接発信することが、お客に声を届けられるという時代だ」と告白していましたが、これは、メディアがフィロゾフィーを持たず、店の宣伝媒体と化してしまった末の結果だと感じさせざるを得ない一言でした。何のために発信しているのか。食の世界も含め、ジャーナリズムについて、再考しなければならない時代がやってきました。

2. 今週のトピックス

【A】世界初の「エア・フード」世界選手権、開催。

ここから先は

2,694字
食関係者にとどまらない多くの方々の豊かな発想の源となるような、最新の食ニュースをフランスから抜粋してお届けします。

フランスを中心にした旬でコアな食関連のニュースを、週刊でお届けします。有名シェフやホテル・レストラン・食品業界、流行のフードスタイル、フラ…

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?