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フランスから、食関連ニュース 2020.12.02

今週のひとこと

お世話になったことのある紙媒体の廃刊や休止が矢継ぎ早に伝えられ、今に始まったことではありませんが、メディアの急速なデジタル化を感じています。活版印刷という言葉はどこへやら。メディアのあり方もそうですが、近未来の料理はどのように変化を遂げるのか?

今年はロシアに生まれアメリカで没した偉大なSF作家で科学者のアイザック・アシモフの生誕100年の年でした。そのため、彼が1964年に執筆した50年後の未来を描いたエッセイ「2014年の万国博覧会」が、今年もう一度発表される機会にもなり、その精密に未来を言い当てた内容には驚かされました。月と太陽系の人類による植民地化など、今の時点においてはまだまだ突飛に思える未来図もありましたが、ロボット工学の名付け親でもある彼は、例えば、どの家庭にもコンピューターがあり、巨大な図書館に接続されていて、誰でも質問でき、答えや参考資料が与えられるようになると、今のネット環境をすでに予測しています。彼が望んでいたのは「誰もが楽しく学ぶことができるという教育の改善」でした。また、iRobot社が普及させた「ルンバ」を彷彿とさせる、ロボット家政婦やら、どの家庭のキッチンにも配置されることになる自動のコーヒーメーカー、「最も退屈な仕事」を軽減する完璧な冷凍食品も、そのエッセイ内で誕生しています。

今週のトピックスは今週のひとことの後に掲載します。【A】アマゾン・オーディブル、レシピコンテンツ「サウンド・シェフ」の販売開始。【B】「コレージュ・キュリネール・ドゥ・フランス」、認証生産者サイト開始。【C】モンマルトルのデザインホテル、路上生活者を収容する緊急宿泊施設に変身。【D】フランスのairbnb、オンライン料理教室開催。

そんなアシモフが作品で描く料理像は、輝かしい化学の未来を信じる彼の心理とは裏腹の、人間の闇を描くようでもあり、そこに実は真理があるような気もしてなりません。例えば短編集「The winds of change/変化の風」の中の作品「Good Taste/美食の哀しみ」。食品の材料や調味料がすべて化学合成化されている衛星都市での出来事。ある若者が、「異世界(おそらく地球)」で得た技術と知識で、毎年開催される「料理コンテスト」に参加したところ優勝。審査員がその秘密を聞き出したところ、土で栽培したニンニクが隠し味だった。この衛星都市では、土で栽培されたものは汚物だと考えられていたために、若者は追放になったというシュールな作品です。「すべての人に当てはまること」として「美味しい食べ物は体に悪い」とも言ったアシモフ。料理に対して偏見があったことも否めませんが、料理という存在は、化学や数式では解明できない、人間のカオス、宇宙の謎であることを、アシモフは見破っていたのだと思います。

化学者が未来の料理を語るときには、決して魅力的にはならないのは、今も昔も変わりません。例えば、Samsungが6名の科学者らの協力を得た50年後の未来予測図「Samsungレポート2069」は、さらにシュールなものでした。食に関する言及では、資源を節約できるタンパク質としての昆虫の摂取、3Dで注文する料理、地球温暖化の影響から干ばつに強い穀物の栽培などがあり、食欲をそそられるものとは程遠い。あるいは、さらに遡った1894年にフランスの化学者マルセラン・ベルテロが化学品製造雇用者組合の集まりにて、未来の食の姿についても触れた有名な演説。「食料の問題は化学的な問題」であり、窒素錠剤、デンプンや砂糖の塊、自分の好みに合わせた調味料の瓶などの合成食品が、食品製造の経済解決策となる。それによって、自然の摂理とは無関係に人は生存でき、最終的には伝染病なども含めた生命の敵から解放されることになると。

ベルテロの予想通りの味気ない食の未来とならなかったことに感謝するばかりですが、19世紀初頭にニコラ・アペールが缶詰を開発したように、技術革新との共存は実現されているという現実はある。また、技術革新により、周辺環境がラディカルに変わり、確実に食生活も影響されています。ダイレクトな技術搭載型食品が好まれないとしても、環境変化によって、求められる食の形も変わっていくでしょう。

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