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les pÂtissiersのクグロフ@Hôtel Suisse ALSACE フランスの食関連ニュース 2021.11.03

今週のひとこと

クリスマスに突入する前のアルザス地方に行ってきました。アルザス地方といえば、ライン川を跨いでドイツと国境を接するフランス北東部にある地方。ヴォージュ山脈の東側斜面には110キロにわたるワイン街道も走っており、そんな山々に抱かれた小さな町々は建物も街並みもメルヘンチックで、四季を通して愛される地方です。

日本ではアンリ・シャルパンティエのクリエイティブディレクターを務めるパティシエのクリストフ・フェルデールが、活動の拠点をパリから故郷アルザス地方に移したのは9年前のこと。

1999年にコンコルド広場にある名ホテル「ル・クリヨン」のシェフ・パティシエだったフェルデールの取材をしたのが初めての出会いで、人生においてなくてはならない大切な友人ともなったのですが、忘れもしないその初めての取材の時。のちの「ル・ムーリス」のシェフ・パティシエともなり、多くの人々を魅了するデザートを作ったカミーユ・ルセックを紹介してもらった時のことをよく覚えています。「彼のことをよく覚えておいて。将来必ず偉大なパティシエになるから」。カミーユはその時19歳。フェルデールにすぐに見出され、その時はフェルデールのセカンドシェフとして抜擢されたばかりでした。フェルデールは常日頃、「カミーユは体そのもので、美味しいものを焼き上げることとは何かをわかっている」と言っていました。ブリア・サヴァランの言葉「料理人にはなれるが、焼肉師は生まれつきである」をカミーユの仕事に重ねたものでした。

フランス芸術文化勲章騎士章も持つフェルデールとカミーユは、美味しいお菓子を作る心を共にして、兄弟のように気が合い、カミーユはヤニック・アレノが率いる「ル・ムーリス」のシェフ・パティシエとしてその名を馳せていたのにもかかわらず、フェルデールが故郷に店を構えるというプロジェクトに加わって、一緒にパリをあとにしたのでした。カミーユはノルマンディー地方出身で、アルザス暮らしは冒険でしたが、狩猟が趣味で、アルザスでは仕事の他は狩猟三昧。パリから離れた生活を満喫していると言っていました。

ストラスブール郊外の村に店を2軒構えており、名前は「les pÂtissiers(パティシエの複数形)」。Mutzigという村の店舗には広々とした敷地にアトリエとブティックがありました。アルザスならではのスパイシーなクッキーやパンデピス、季節のタルト、ケーク、そしてクグロフの美味しいことといったら。そして、美味しさから伝わってくる美しさが備わっていました。

ストラスブールではカテドラルの裏にある「HOTEL SUISSE」というホテルに宿泊。フェルデールの幼馴染みが経営しています。その朝食にサービスされたクグロフのいっそうの美味しさに魅了されました。ほんの少しシロップのようなものを染み込ませ、しっとりとさせているのだそうです。美味しいものを味わってもらいたいという、ちょっとしたこだわり。しかし、自分軸のこだわりではなく、あくまでもお客様目線であるということ。こだわり、というと、「こうあらねばならない」、「こうでなければ許せない」といった、頑固一徹な職人気質のような精神に結びつけることが多いのですが、自分軸ではなく他人軸に移したときに見えてくるこだわりこそ、忘れてはならない精神かもしれないと反省したひと時でした。


今週のトピックスは今週のひとことのあとに掲載されています。どうぞご笑覧ください。【A】パリの工場で代替品フォアグラのプロジェクト。【B】5つ星ホテル「マンダリン オリエンタル パリ」が、現地でリクルートデーを開催。【C】グルメ関係では初の SVODTV開始。【D】ミッシェル・ブラスのデザートのスペシャリテCOULANTが40周年を機に、限定でレシピ付きのキットボックスに。【E】マントンの3つ星シェフMauro Colagrecoによる、パリのアルゼンチン料理レストラン。

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