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味噌風味のソーセージ@モンマルトル  フランスの食関連ニュース 2021.06.30

今週のひとこと

「アルノー・ニコラ」という加工肉、総菜店に日本人の職人が務めています。吉川直孝さん。フランスで肉屋の修行をすることを目指して渡仏したのは、6年前。パリの名だたる肉屋をあちこち渡り歩いて、着実にフランスの事情を体で覚えてきた、たくましい職人です。MOF(フランス最高職人章)を持つトレトゥール(惣菜仕出し)を冠するアルノー・ニコラがオーナーシェフの店へ。アルノーが18区に昨年秋に店をオープンし、この18区の店のパテやソーセージの製作を担っています。アルノーは数年前にエッフェル塔も近い7区にレストラン兼のブティックをオープンしていますので、2件目。アルノーの作るボライユとフォアグラ、あるいはピスタチオと洋梨のはいったウズラのパテ・アン・クルートなどは、デュカスの目に止まって、彼が所有するビストロのアントレに供されるそれは、アルノーの店から仕入れているというのは、よく知られた話です。

吉川さんは、18区の店で、自由な製作も任されています。試験的に作った商品で評判が安定すれば、7区の店で出すことも考えてくれるということ。吉川さん製作の味噌風味のソーセージをいただきましたが、黒ごまペースト、パクチー、ライムも入れて旨味の深いジューシーな味わいに仕上がっており、「担々麺」から着想したとの言葉の通りの味わいでした。なかなかの絶品です。確かに、ソーセージに限らず、どんなブランドでも「〜〜風味」と付記された新商品を見かけますが、それは、単純に味のバラエティを増やして、新しいお客を増やすためだけの工夫だったりします。でも、吉川さんの、この味噌風味のソーセージは、全体の味わいのイメージから生まれた必然的な風味づけ。単純に味を加えるのではなく、全体像があるからこそ加えた新しいブレンドには、力があるのだなと感じさせられました。ピエール・エルメが生んだ、今やパティスリー業界の定番の香の組み合わせといっていい、バラ、ライチ、フランボワーズのブレンド「イスパアン」のように。

また「アルノー・ニコラ」の店の素晴らしいのは、100%自家製であるということ。トマトなど野菜のピュレもマセドワンヌも、すべて自身の店で厳選して作っています。作る量が大量になると、どうしても冷凍物や出来合いを仕入れてしまうもの。それにも絶対的にこだわって、手を抜くことを許さない姿勢が、アルノーの店の味わいに現れています。

ソーセージ一つの作り方でも、たとえば中に入れるニンニクはどのように調理して入れるのか、生なのか。あるいは豚の肉の部位をしっかり調合し、脂ばかり入れていないかで、最終の味わいが変わってきます。ニンニク風味のソーセージも絶品ですが、吉川さんの18ヶ月になる娘さんの大好物でもあるそう。美味しい食事は、味わいだけでなく、その背景にある精神的なものも次の世代に伝えていくのだろうなど思いますし、味わいに現れるものは、案外正直だと思いました。大人こそは、気づかなくなってしまっているかもしれませんが。

吉川さんはパリで店を持つことが目標だそうです。6年という短期間ながら、確実に一歩一歩進んでいるのを見ると、それはそんなに遠い将来ではないかもしれません。


今週のトピックスは、今週のひとことの後に掲載されています。【A】9月開催、チーズ&ワインウィーク2021。【B】ジャガー・ルクルト「レベルソ」誕生90年仮説カフェ誕生。【C】クリストフ・ミシャラク、初のブランジュリーを9月にオープン。【D】フランス初のオレンジワインバー、マルセイユにオープン。【E】ラグジュアリーなデリバリーサービス「メゾン・ペピート」。

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