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【資料④】BTS Universe Story 花様年華〈I’m FINE〉全文書き起こし-1


前回の記事はこちら

BTS【花様年華】参考資料のまとめはこちら



表題の通り、『BTS Universe Story』(ゲームアプリ)内で公開されている”花様年華〈I’m FINE〉”の全51のエピソードを全文書き起こししていこうと思います。

まずは簡単に『BTS Universe Story』の説明から入りますので、不要な方は目次より本題へ進んでください。




BTS Universe Story(ゲームアプリ)とは


『BTS Universe Story』とは、2020年9月24日に世界同時リリースされたBTSのモバイルゲームの第二弾(第一弾は『BTS WORLD』)で、BTSのアルバムのコンセプトである【花様年華】=BTS Universe(BU)の世界の物語を読み進めていく新感覚ストーリーゲームです。

ログイン報酬や無料チャージで貯めたジュエルを消費することで無課金でも楽しめたゲームアプリでしたが、残念ながら2023年9月22日12時をもってサービス終了となり、一切の閲覧が出来なくなってしまいました。

そのため、当記事ではアプリ内で無料公開されていたエピソードのみを、今BU contentに出会った方、そしてこれからBU contentに出会う方に向けた資料として残すことを目的として公開します。


『BTS Universe Story』では、メンバーの行動を選択しながら【花様年華】=BUの公式ストーリーを鑑賞できる”花様年華〈I’M FINE〉”の他、キャラクターを使ったオリジナルストーリーの創作・鑑賞やAR撮影を楽しめる機能がありますが、こちらは当noteで扱うBU contentとは異なるので割愛します。(気になる方はリリース時のニュースサイトを参照してください)



■[BTS Universe Story] Official Trailer

『BTS Universe Story』のOfficial Trailerについては、関連作品まとめ記事(BTS【花様年華】⑫~⑰関連作品まとめ-MV他)でも紹介しています。

物語の時系列を整理する上で非常に重要なこのOfficial Trailerは、現時点で、BTSのMV等では扱われていないyear22.08.30に起きたタイムリープ以降のエピソードが描かれた唯一の映像作品です。映像の中で描かれる出来事は、時系列整理記事の中で詳しく触れています。


■[BTS Universe Story] Introducing the new universe!

Official Trailerとほぼ同じ映像ですが、Introductionも公開されています。

こちらのYouTubeアカウントでは発売当時のメンバーのインタビュー動画なども一緒に公開されてるので、見たことない方はぜひチェックしてみて下さいね。



さて、本題に移りましょう。

花様年華 THE NOTES 和訳と同様、かなりの量になりますので3つの記事に分けて公開する予定ですので、しばしお付き合いください。


花様年華〈I’M FINE〉

◇前提

前述したように、『BTS Universe Story』はメンバーの行動を選択しながら【花様年華】=BUの公式ストーリーを鑑賞できるゲームアプリです。全ての選択肢は一度枝分かれをしたのち、再び同じストーリーに合流するため、どの選択肢を選んでも最終的な結末が変わることはありません。

当記事では全ての選択肢を書き起こすため、選択⇒合流までの枝分かれしている内容を【パターン①】【パターン②】と表示し、合流後の最初の一文を重複して記載します。

《補足》
関連作品まとめ記事(BTS【花様年華】⑫~⑰関連作品まとめ-MV他)でもお伝えしておりますが、当noteの時系列整理記事には、このゲーム内のみに登場するエピソードは含まれておりません。①単純に数が多く拾い切れないことと、②当noteでの時系列整理に含む/含まないの判断基準を設けることが難しいためです。

このゲーム内のみに登場するエピソードの多くは物語の本筋には大きな影響のない細かな出来事や設定であり、MVやNOTESにおけるどの世界線での出来事かが明確ではないスピンオフ的な内容です。「そんなことが起きてた世界線もあったのね」とシンプルにゲームの展開をお楽しみください。


■プロローグ

【ストーリー案内】
”ソクジンは考える視点を変えて友人たちを救おうとする。”

友を不幸から救い出すためにループに飛び込んだものの、繰り返される失敗に挫折するソクジン。ソクジンは、不幸を防ぐためには彼らの生き方を探る必要があると考える。

(エピソード数:1)


1.もう一度初めから

”繰り返される失敗に挫折するソクジン。友の不幸を阻止するためにソクジンが知るべきこととは何なのだろうか。”

目を開けると見慣れた天井があった。

22年4月11日

ソクジン
「また振り出しか…」

どうしてこうなった?どこで間違えたんだ?

ソクジン
「俺がもっと頑張っていたら…」

そんなことを考えながらも友の悲劇は繰り返され
何とかしようとすればするほど
状況は次第に悪化していった。

目の前の暴行事件を阻止しても
ナムジュンの状況はよくならず
ジョングクは極端な選択を繰り返した。

ユンギに訪れる悲劇は到底予想できず
精神病棟に閉じ込められたジミンや
いつも負傷して絶望に陥るホソク。

そして、父から日常的に暴力を受けているテヒョン…

同じ不幸が繰り返されるだけだった。

そうして、俺の試みは全て失敗に終わっていった。

ソクジン
「…どうすればお前たちを救えるんだろう?」

その時、ふとこんな考えが頭をよぎった。

今まで俺は、目の前の事件だけを解決しようとしていた…

ソクジン
「あいつらがどうしてあんな不幸に見舞われるのか
理解しようとしたことがあったか?

俺は彼らのことを、どれだけ知っているんだろう?」

もしかしたら友の本当の傷や、
彼らの世界と向き合う自信がなかったのかもしれない。

ソクジン
「でも向き合わないと。
それがみんなを救う鍵になるかもしれないから。

みんながどうして悩んで、あんな苦痛を受けているのか…」

その理由を知らなければならない。

ソクジン
「みんなを救うにはそうするしかない。
もう一度やり直すんだ…」

立ち上がってカーテンを開けると、
いつもの陽射しが差し込んできた。

彼らの人生…

そこに必ず答えがあるはずだ。

〈Prologue End〉

もうすでに何度もタイムリープを繰り返している様子のソクジン。ゲームアプリ版のプロローグ以前の物語は、LINEマンガで無料公開されている『花樣年華Pt.0<SAVE ME>で読むことが出来ます。

LINEマンガ『花樣年華Pt.0<SAVE ME>では、ただ闇雲に目の前で起こる不幸を回避するために行動していたソクジンですが、この『BTS Universe Story』では根本的な解決に向けてあらゆる言動を試行し、のちに『花様年華 THE NOTES』などで詳細に描かれる世界線へと繋がります。



■手を差し伸べる方法 - ナムジュン

【ストーリー案内】
”ナムジュンが喧嘩に巻き込まれた。何とかして止めなくてはならない。”

横暴な客と喧嘩をして刑務所に入れられたナムジュン。ナムジュンの辛い事情を知ったソクジンは何とかして彼を救おうとする。

(エピソード数:7)


1.異なる視点で

”横暴な客の相手をするうちに暴行事件に巻き込まれたナムジュン。ソクジンはナムジュンを救うために様々な方法を試みるが、全て失敗に終わってしまう。”

22年4月11日

ドコッ!
ドコッ!ドコッ!

喧嘩は一瞬で起こった。

自分勝手な態度を取る客よりも
ナムジュンを先に止めようと決めたものの、

怒りで我を忘れているのか
俺の言うことを聞こうとしなかった。

ソクジン
「ナムジュン…」

ナムジュン
「兄さん、帰っていいですよ。」

ナムジュンの声は低く震えていた。

ガソリンスタンドの客
「こんなことしてただで済むと思ってんのか!?」

憤慨する客の言葉を聞いて、
ガソリンスタンドの店長が駆け付けた。

ガソリンスタンドの店長
「お客様、申し訳ございません!」

状況を把握した店長が鋭い目でナムジュンを睨んだ。

ガソリンスタンドの店長
「何やってるんだ!お前も早く謝れ!」

店長がナムジュンの頭を押さえつけて
謝らせたが、それも束の間。

ナムジュンはすぐに頭を上げた。
謝るつもりはないという意思表示だった。

ソクジン
「すみません。そっちのお客さんが先に失礼な…」

ガソリンスタンドの店長
「お客様はお気になさらずに。
ナムジュン、早く謝れって言ってるだろ!」

ナムジュンにばかり責任を追及する
その場の雰囲気に、息が詰まりそうだった。

ナムジュン
「……」

警察官
「つまり、暴行事件ですね。」

ガソリンスタンドの客
「あのバイトが突然殴ってきたんだよ!」

警察官は事務的な口調で話したが、
その顔には疲れが見て取れた。

警察官
「わかりましたって。暴行事件ですからね。
お二人とも、示談で済ませましょう。」

ナムジュン
「あっちが先に手を出してきたんです。」

ナムジュンが口を開いたが、
誰の耳にも届いていなかった。

警察官
「とりあえず車に乗ってください。続きは署で聞きます。」

客がパトカーに乗るナムジュンを見て
薄ら笑いを浮かべた。

ガソリンスタンドの客
「示談金なんで払えんのか?お前、終わりだな。」

警察官
「早く行きましょう。」

ソクジン
「ちょっと待ってください!ナムジュン!」

慌てて自分の名前を呼ぶ声を聞いて
ナムジュンが振り返ったが、

ナムジュン
「……」

たちまち俺から顔をそむけた。

ソクジン
「どうすればいいんだろう…

俺が代わりに示談に応じるのはだめだ。
ナムジュンを説得してみたけどうまくいかなかった。

後はどんな方法が残ってる?
どうすればお前を救えるんだ?」

結局何もできなまま時間だけが虚しく過ぎ去り、
今回もナムジュンは実刑宣告を受けた。

どこかからガラスが割れる音が聞こえてきた。

22年4月11日

目を開けると、再び4月11日だった。

ソクジン
「また戻ってきたのか…」

客の車に接触事故を起こしてみたり、

ナムジュンがその場から離れられるように
タイミングを合わせて呼び出したりしたが、
うまくいかなかった。

貧しく非力なナムジュンに自分勝手な態度を取る者は
1人や2人ではなかった。

喧嘩を止めるのはたやすくなかった。

喧嘩を止める過程で仲違いし、
友人全員が俺を避けるようになったり、

逆に事が大きくなってより大きな事件に発展したり
することもあった。

ナムジュンを止めるために
様々な方法を試してみたものの、何も効果はなかった…

ソクジン
「それでも答えはあるはずだ。俺が見逃してるだけで…」

先ほど起こった出来事をじっくり思い返してみた。
何としてでも方法を探さなければ。

ーーー

ガソリンスタンドの客
「何をぼーっと見てるんだ。さっさと拾え。」

ナムジュン
「……」

ガソリンスタンドの客
「拾えよ、金が欲しくねえのか?」

ーーー

ソクジン
「何としてでも喧嘩を止めないといけないのは確かなんだけど…」

チクタク…

時間だけがどんどん過ぎ去る中、
明確な答えは思い浮かばなかった。

その時、高校時代の思い出がふと蘇ってきた。

ソクジン
「ナムジュンってあんなに怒ったことあったっけ?」

ガソリンスタンドの客は確かに横暴だったが、
俺が知っているナムジュンならば…

手は出さなかったはずだ。
ナムジュンはそんな挑発に乗る人物ではなかった。

それなら、あの出来事は何がナムジュンを
あんなに刺激したんだろう?

ふとこんなことを考えた。
もしかしたら、重要なのは喧嘩の原因ではないか。

ソクジン
「そうだ、むやみに止めようとするだけじゃ
意味がない。」

これまでナムジュンに何があって、
なぜあの瞬間は耐えることができなかったのか
それさえ分かれば防げるかもしれない。

ソクジン
「次もまた失敗に終わるかもしれないけど、
俺が動かないと何も変わらない。」

〈Episode 1. End〉


2.片隅の部屋で

”ナムジュンが暮らす古びた小さな小部屋の片隅。そこでソクジンは重要な手がかりを発見する。”

22年4月11日

昼のネリガソリンスタンドは比較的閑散としていた。

ソクジン
「どこだ?」

給油機の前に車を停めて
ナムジュンを探していた時だった。

ガソリンスタンドの端に位置する
小さな部屋のドアが開いた。

疲れた表情を浮かべたナムジュンが
車に近付いてくるのが見えた。

ソクジン
「ナムジュンはどんな生活を送ってるんだろう。」

身長と顔は高校の時とそれほど変わっていなかったが、
その時の生気は感じられず、少しやつれたようだった。

ソクジン
「喧嘩さえ防げたら解決すると思ってたのに…」

事件を解決することにのみ汲々として、
ナムジュンの生活に目を向けていなかったようだ。

ナムジュン
「いらっしゃいませ。
量はどうなさいますか?」

窓を下ろしてナムジュンと向かい合った。

ナムジュン
「あれ、ソクジン兄さん?」

ソクジン
「久しぶりだな。」

この一言が全てを救う始まりになるはずだ。

俺はナムジュンと話をするために
ガソリンスタンドの隅へ移動した。

ソクジン
「元気だったか?」

ナムジュン
「ぼちぼちです。」

笑みを見せるナムジュンの顔から
ほんの少し高校の時の面影を感じた。

ソクジン
「ここで働いてるのか?」

ナムジュン
「はい。忙しい時はここで寝ることもあるし…
半分ここで暮らしているようなものです。」

ソクジン
「さっきのあの小部屋か?」

俺は先ほどナムジュンが出てきた扉を一瞥した。

ソクジン
「ナムジュンが暮らしている所を見れば
何か分かるかもしれない。」

ナムジュン
「兄さんは?アメリカはどうでしたか?」

ソクジン
「俺もぼちぼちだった。
面白くはなかったな。友達もいないし。」

ナムジュン
「そうだったんですね…」

その言葉を聞いたナムジュンが曖昧な表情を浮かべた。

ナムジュン
「とにかく、また会えて嬉しいです。いつ以来だろう。」

ソクジン
「そうだな。昔を思い出すよ。
他のみんなはどうだ?元気にやってるか?」

ナムジュン
「ホソクとテヒョンは連絡がつくんですが…
まあみんな元気だと思います。」

ナムジュンとできるだけ会話を続けようと
努力したが、どうにも空回りしていた。

ソクジン
「仕方ないか…」

ナムジュンも特に言うことはないようだった。

ソクジン
「ここって昼休憩は何時からだ?
一緒に昼飯食べようぜ。」

俺は昼飯を口実にして時間を稼ごうと思った。

「ナムジュン!」

どこからか怒り交じりの大声が聞こえてきた。

「ナムジュン!どこだ!」

ナムジュン
「兄さん、そろそろ行かないと。」

ソクジン
「ああ、俺はここで待ってるよ。」

ナムジュン
「え?」

ソクジン
「久しぶりだからもう少し話がしたくてな。」

ナムジュンは頷いてその場を後にした。

俺はナムジュンの後ろ姿を見届けてから
小部屋へ視線を移した。

ーーー

ナムジュン
「はい。忙しい時はここで寝ることもあるし…
半分ここで暮らしているようなものです。」

ーーー

俺は周囲を見渡しながら、
できるだけ自然を装ってナムジュンが
出てきた部屋へ向かった。

ソクジン
「何か役に立ちそうなものがあればいいんだけどな…」

スタッフの休憩室だと紹介された
ガソリンスタンドの小部屋は、
事実上、ナムジュンが暮らす
もう1つの家同然のようだった。

ソクジン
「こことコンテナを行き来して生活しているのか。」

それほど広くない部屋の中には
大量のがらくたが散在していた。

まともに動くか疑わしい炊飯器と扇風機もあった。

部屋の中を隅々まで見ていると、なぜか胸が痛んだ。

そうして立ったまま中を見渡し、
何気なく床に座ったその時。

ソクジン
「ん?」

開かれたままのナムジュンのかばんの隙間から、
新聞紙で包まれた何かが見えた。

ソクジン
「何だこれ?」

《選択肢》
①開けてみる。
②放っておく。

【パターン①:開けてみる。】

新聞紙の中に何か固いものがあった。
好奇心に駆られた俺は新聞紙を開いてみた。

中にはおかしなガラスの破片が入っていた。

車やバイクのヘッドライトの破片のように見えた。

ソクジン
「捨てようと思って持っていたのかな?」

何か意味のある物なのかとも思ったが、
特に気になる点は見当たらなかった。

俺はしばらく探ってから元の場所に戻した。

ソクジン
「早く出ないと…」

部屋の中には数冊の本が積まれていた。

【パターン②:放っておく。】

新聞紙を開いてみたい衝動に駆られたが、

ソクジン
「下手に触って勘違いされたら困るしな。」

重要そうな物にも見えなかった。

ソクジン
「他を探ってみよう。
早く出ないと…」

部屋の中には数冊の本が積まれていた。

部屋の中には数冊の本が積まれていた。

ソクジン
「コスモスか… カール・セーガンの本だな。
新品みたいだけど… 読み始めたばかりなのかな?」

よく見ると本の間に1冊のノートがあった。

ソクジン
「何か書かれていたら助かるんだけど…」

ノートには日付ごとにメモが書かれており、
領収書の束が挟まっていた。

ソクジン
「読むのは気が引けるな…」

だがためらっている時間はなかった。

俺が知らないナムジュンの気持ちが
記されているかもしれなかった。

俺はノートを手に取った。

〈Episode 2. End〉


3.人生の重み

”ナムジュンの意外な事情を知ったソクジンはナムジュンを助けようとする。”

ナムジュンのノートの1ページ目を読んだ瞬間、
俺は言葉を失った。

ノートにはナムジュンの生活がびっしりと綴られていた。

ソクジン
「……」

ーーー

〈12月 ソンジュに戻ってきた。〉

〈1月 ガソリンスタンドの仕事は悪くなかった。
時々横暴な客もいるけどもう慣れた。

本屋に行って本を1冊買った。

前に図書館で借りたことがある本だけど、
どうしても欲しかった。

時々、読むだけでは物足りない本に出会うことがある。
これからもずっとこんな本を買えるといいな。〉

〈2月 今月はツイているみたいだ。
結婚式場の短期バイトを見つけた。

疲れたけど、滞納していた入院費を
全て支払うことができた。〉

〈3月 結婚式場の仕事を続けることになった。

ナムヒョンがやらかしたという連絡があった。
予想外の大きな支出が生じてしまった。

いつになったら俺の弟はちゃんとしてくれるんだろう。
心配だ。〉

〈4月 父の容体が悪化した。

急いで手術を終えたが、到底支払えないほど
費用が膨れ上がっていた。

仕事をあと2つほど増やさないと
どうにもならない金額だった。

俺の時間と体力は限られている。〉

ーーー

ノートに記されていたナムジュンの生活は
想像よりも困窮していた。

ナムジュンが一家を支えていることは知っていたが、
これほどとは思いもしなかった。

申し訳ないという気持ちを抱くと共に、
すごいとも思った。

つらいという言葉が日記に一度も書かれていないのが
ナムジュンらしかった。

ソクジン
「そういえば前からこういうのは
表に出さないようにしてたな。

ナムジュン、お前らしいよ。」

ノートの片隅には本のタイトルも書かれていた。
おそらく欲しい本のリストだろう。

ーーー

〈出口なし、悪魔と神/ジャン=ポール・サルトル
これからの一生/エミール・アジャール
コスモス/カール・セーガン(2月に購入)
一人で行く遠い家/ホ・スギョン(1月に購入)
湿地生態報告書/チェ・ギュソク〉

ーーー

ソクジン
「こんなにカツカツなのに、これだけの本を読んで
暮らしてるのか。

そんなに本が好きなんだな…」

次のページをめくろうとしたその時だった。

足音が近付いてきたため、俺は驚いて
ノートを元の場所に戻した。

ナムジュン
「兄さん、ここにいたんですか?」

ソクジン
「あ、ああ… 仕事の邪魔になるといけないから
見えないところにいようと思って…

許可もなく入ってごめんな。」

ナムジュン
「大丈夫です、大した場所じゃないし。
何してたんですか?」

ソクジン
「疑われないようにうまく言い訳しよう。」

《選択肢》
①本を見てたんだ。
②ただここにいただけだ。

【パターン①:本を見てたんだ。】

ソクジン
「本を見てたんだ。」

ナムジュン
「本?何の本ですか?」

ソクジン
「コスモス。ここにあったから眺めてた。
面白いか?」

ナムジュン
「前に読んだやつなんですが、
読み直しても面白かったです。

兄さんも今度読んでみてください。」

本について話していると、先ほどよりは話が弾んだ。

ソクジン
「本を勧めてくるってことは…
本当に本が好きなんだろうな。」

ナムジュン
「ところで兄さん、申し訳ないんですが…
そろそろ出ないと。」

【パターン②:ただここにいただけだ。】

ソクジン
「ただここにいただけだ。

ここってスタッフの休憩室だよな?
自炊部屋みたいだけど。」

ナムジュン
「元々は休憩室なんですが、みんなあまり出入りしないので
自分が使ってるんです。」

ソクジン
「だと思った。ちなみに俺は何も触ってないからな。」

俺は冗談っぽく言ってみせた。

ナムジュン
「まあ触るようなものもないですしね。」

冗談をまじめに受け取ったナムジュンが
ノートを本の山の方へ移した。

ナムジュン
「ところで兄さん、申し訳ないんですが…
そろそろ出ないと。」

ナムジュン
「ところで兄さん、申し訳ないんですが…
そろそろ出ないと。」

ソクジン
「そうか、じゃあ行ってくれ。
俺はもう少し待ってるよ。」

ナムジュン
「そうじゃなくて、いつ車が入ってくるかわからないし、
掃除もしないといけないし。」

ナムジュンの顔が一緒に出ようと訴えていたため、
それ以上は粘ることができなかった。

ソクジン
「もう少し時間があれば
何か突き止められそうなんだけどな…」

ナムジュン
「兄さん。」

ソクジン
「分かった。」

仕方なく立ち上がったその時、俺のかかとに
何かが当たった。

ナムジュン
「あ!」

驚いて振り返ると、積まれていた本の山を
崩してしまったようだった。

床に散らばった本と領収書に混じって、
どこから出てきたのか分からないお金もあった。

何かを買って余ったお金のようだった。

ソクジン
「ナムジュンごめん。俺が拾うから。」

《選択肢》
①本を拾う。
②お金と領収書を拾う。

【パターン①:本を拾う。】

俺は本の方へ手を伸ばした。

ナムジュン
「そのままで大丈夫です。自分が拾います。」

手伝おうとする俺を制止して、
ナムジュンが散らばった本を拾い上げた。

お金と領収書を拾ったのは、本を全て片付けた後だった。

ソクジン
「普通は本よりお金を先に拾わないか?
俺だったらそうするけど…」

【パターン②:お金と領収書を拾う。】

俺はお金と領収書の方へ手を伸ばした。

ナムジュン
「大丈夫です。埃が付いているので。」

ナムジュンはお金ではなく本を先に拾い上げた。

ソクジン
「普通は本よりお金を先に拾わないか?
俺だったらそうするけど…」

ソクジン
「普通は本よりお金を先に拾わないか?
俺だったらそうするけど…」

ナムジュンにとって、本には趣味以上に
重要な意味があるようだった。

ソクジン
「ごめん、俺がもっと気を付けるべきだった。」

ナムジュン
「大丈夫です。誰でもミスくらいしますよ。」

申し訳ない気持ちをかき消すように、
ナムジュンが笑って見せた。

ナムジュン
「兄さんにもおっちょこちょいなところがあるんですね。
前からそうでしたっけ?」

ソクジン
「はは、そうだな…」

ナムジュン
「それじゃあそろそろ出ましょうか。」

ソクジン
「……」

ノートに書かれていたナムジュンの生活を
ふと思い出して気持ちが重くなった。

ソクジン
「父親の入院費までナムジュンが払ってたのか。

日記に愚痴とか不満が一言も書かれてなかったのは…
プライドがあるからか、それとも気持ちがぶれないように
するためか…

どちらにしてもすごくつらいだろうな…」

ガソリンスタンドで喧嘩を吹っかけていた
男の言葉を思い出した。

ーーー

ガソリンスタンドの客
「何をぼーっと見てるんだ。さっさと拾え。」

ナムジュン
「……」

ガソリンスタンドの客
「拾えって。金が欲しくないのか?」

ーーー

ノートに記されていたナムジュンの生活を考えると、
あれほど怒りをあらわにした理由が少し分かる気がした。

ナムジュンにとってお金とは、
忌々しいほどに、長い間自らを惨めな存在にしてきたもの
だったのではないだろうか。

ソクジン
「だから屈んでお金を拾って、そのことで馬鹿にされるのが
我慢できなかったんだろう。」

その時、今晩やるべきことを思い付いた。

お金を拾わせないようにしてやり過ごすのだ。
しかし本当にその方法でうまくいくのだろうか?

ソクジン
「喧嘩をやめさせて、ナムジュンをそのまま
放っておいてもいいんだろうか。

ナムジュンは自力でこの貧しさから
抜け出せるんだろうか。」

助けたかった。

数回の呼び出し音の後、受話口から声が聞こえてきた。

「はい、パルゴク群立病院医事課です。
どうかされましたか?」

ソクジン
「入院費を納付したいんですが。
キム・ナムジュンという名前で納付されてきたはずです。

あ、入金者の名前は…」

もしもナムジュンがこの事実を知ったら
間違いなく怒りをあらわにするだろう。

ソクジン
「誰にしよう…
ソンホ財団でお願いします。」

「財団の寄付金でしょうか?」

ソクジン
「いえ、入金者の名前だけ変えてください。」

「承知しました。口座番号はメールでお送りします。
こちらの番号でよろしいですか?」

ソクジン
「大丈夫です。ありがとうございます。」

ナムジュンを苦しめていた入院費は電話一本で解決した。

あまりにもあっさり終わったので
拍子抜けするほどだった。

ソクジン
「財団の名前で納付したから大丈夫だろう。
うまくいくといいな。

今晩は必ず成功させる。」

〈Episode 3. End〉


4.失敗

”ついにソクジンはナムジュンを止めることに成功する。しかし、ナムジュンの表情はどこか暗かった。”

22年4月11日

ソクジン
「今晩は… 必ず成功させる。」

俺は車線を変更してガソリンスタンドの方へ
車を走らせた。

ソクジン
「…ナムジュンだ。」

ナムジュンが近付いてくるのが見えた。

俺が車の窓を下ろすと、ナムジュンが怪訝な表情を
浮かべた。

ナムジュン
「あれ、ソクジン兄さん?
また来たんですか?」

ソクジン
「えっと… さっきガソリンを入れるのを忘れたんだ。
頼んでもいいか?」

ナムジュンは首をかしげながらも
鳴れた手つきで給油した。

後ろを振り返ると、高級外車が
ガソリンスタンドに入ってくるところだった。

ナムジュン
「兄さん、カードと領収書です。自分は次のお客さんの
接客に行ってきます。」

これから起こる出来事など知る由もなく、
ナムジュンは接客に向かった。

ナムジュン
「いらっしゃいませ。量はどうなさいますか?」

窓が開ききるのも待たずにナムジュンが声をかけた。

ソクジン
「…満タンって言ってお金を落とすんだろうな。」

これから客が起こす行動を止める術はなかった。

ソクジン
「重要なのはその後だ。俺がナムジュンを
落ち着かせないと。」

俺はナムジュンに気付かれないように
外車の後ろへ回った。

ガソリンスタンドの客
「満タン。」

ナムジュン
「お支払いはどうなさいますか?」

客が数枚の紙幣を窓の外に出した。

ソクジン
「まだだ。割り込むのは早すぎてもナムジュンは怒った。
俺が止めても納得するまで待たないと。」

ナムジュン
「お釣りを持ってまいります。」

ナムジュンが客の紙幣を受け取ろうとしたその瞬間、

ガソリンスタンドの客
「早く受け取れよ。」

客の紙幣が地面に落ちた。

ガソリンスタンドの客
「拾えよ。金が欲しくねえのか?
何だその目は?バイトのくせに生意気だな。」

その時、拳を強く握ったナムジュンが肩を震わせたが、

俺と目が合った瞬間、困惑したような表情を浮かべて
動きを止めた。

ソクジン
「…今だ!」

《選択肢》
①自分で拾ってください。
②ナムジュン、拾うな。

【パターン①:自分で拾ってください。】

ソクジン
「自分で拾ってください。」

ナムジュン
「兄さん?どうして…」

俺はナムジュンと客の間に割り込んだ。

ガソリンスタンドの客
「何だてめえは?
拾えだと?何様のつもりだよ!」

ソクジン
「このバイトの兄です。」

兄という言葉を信じたのか、客が困惑した表情を浮かべた。

ソクジン
「給油が終わったんだったらさっさと出ていけば
いいじゃないですか。

どうして何の罪もないバイトに嫌がらせするんですか?」

ガソリンスタンドの客
「んだとてめえ!」

ソクジン
「さあさあ。
用が済んだんだったら早く帰ってください。」

俺は険しい表情で男を威圧した。

【パターン②:ナムジュン、拾うな。】

ソクジン
「ナムジュン、拾うな。」

ナムジュン
「兄さん?どうして…」

俺はナムジュンと客の間に割り込んだ。

ガソリンスタンドの客
「何だてめえは?」

ソクジン
「その辺にしておきましょうよ。」

客が呆れたような顔で笑い出した。

ソクジン
「給油が終わったんだったらさっさと出ていけば
いいじゃないですか。

どうして何の罪もないバイトに嫌がらせするんですか?」

ガソリンスタンドの客
「嫌がらせなんてしてねえよ。
それにお前には関係ねえだろ!

このバイトの兄弟か?」

ソクジン
「だったら何なんです。」

俺は険しい表情で男を威圧した。

俺は険しい表情で男を威圧した。

男はひるんだのか、車に乗ってガソリンスタンドから
そそくさと出て行った。

ソクジン
「よし、何とか阻止したぞ。」

俺の意図した通り、ナムジュンの喧嘩を防ぐことに
成功した。

ソクジン
「ナムジュン、大丈夫か?」

心配になった俺がナムジュンの方へと振り返ると…

ナムジュンの様子がどこかおかしかった。

ナムジュンは怒りでも屈辱でもない表情を浮かべていた。
その顔からはいかなる感情も読み取れなかった。

ソクジン
「ナムジュン…?」

ナムジュン
「ソクジン兄さん、兄さんは自分が…」

何かを言いかけたナムジュンがそのまま口をつぐんだ。

ナムジュン
「何でもありません。助けてくれてありがとうございます。」

ナムジュンはようやく感謝の言葉を口にした。
その言葉を吐き出すのはとてもつらそうだった。

ナムジュン
「…それじゃあ仕事に戻ります。」

そう言い残してナムジュンが背を向けた。

ソクジン
「ああ、そうか…」

変な気分だった。

確かにナムジュンを救ったはずだが、
何か足りない気がした。

ソクジン
「これでうまくいったらいいんだけどな。」

そうして俺はガソリンスタンドでの役目を終えた。

何とも言えない不安が残ったが、
他の仲間も救わなければならなかったため、

俺はナムジュンを救えたと信じるしかなかった。

幸いにも事は順調に進んだようだった。

ソクジン
「ジョングク!」

ジョングク
「ソクジン兄さん?
兄さんがどうしてここに…」

22年5月2日

ユンギ
「…どうして分かったんですか?
俺があのモーテルにいること。」

ソクジン
「たまたま目撃したんだ。道を歩いてる時に。
もうあんなことするな。

ユンギ… 頼むから自殺なんてしないでくれ…」

そうしてジョングクとユンギも救い出したが、

計画通りに進んでいるにも関わらず、
不安な気持ちはなくならなかった。

ソクジン
「どうしてこんな気持ちになるんだろう。」

ーーー

ナムジュン
「ソクジン兄さん。兄さんは自分が…

何でもありません。助けてくれてありがとうございます。」

ーーー

ソクジン
「「自分が」の後に、何を言おうとしてたんだろう?」

最後まで言い切らなかったナムジュンの
言葉がずっと頭の中を回っていた。

ソクジン
「俺は助けようとしたけど、もしかしたらあの行動で
傷付けてしまったのか…?」

失敗を犯してしまったような気持ちを
拭い去ることができなかった。

挽回するためには急がなければならなかった。

ソクジン
「どうか間に合ってくれ…」

〈Episode 4. End〉


5.耐える方法

”不吉な予感を覚えたソクジンはナムジュンを探し回り、苦境に陥っている姿を目にする。”

22年5月5日

ナムジュンの事件を解決してから
早くも1ヵ月が経とうとしていた。

だが、不安な気持ちは一向に消えずに
俺は結局またここに来てしまった。

ソクジン
「悩んだところで答えなんて出ない。
確かめないと。」

ガソリンスタンドは以前のように閑散としていた。

ナムジュンは給油機の近くに立っていた。

ソクジン
「とりあえず来てみたけど… どうしよう?
歓迎してくれるか、あるいは…」

何も考えずに謝罪から入れば誤解されるかもしれない。

ソクジン
「どうするか…」

そうして何もできないまま見つめていると、
ナムジュンが店長に近付いていった。

何か話をしているようだった。

ナムジュン
「店長、お先に失礼します。」

ガソリンスタンドの店長
「ああ、気を付けてな。」

ナムジュン
「はい。」

ガソリンスタンドの店長
「明日遅刻するなよ!」

話を終えたナムジュンがガソリンスタンドを出て
路地へ入っていった。

今日はアルバイトが早く終わったようだ。

ソクジン
「どこに行くんだろう?」

何か良いことでもあったかのように、
ナムジュンの足取りは軽快だった。

ソクジン
「今日は何か用事でもあるのかな?

ナムジュンの後を追っていれば、
もしかしたら話しかける機会が訪れるかもしれない。」

ナムジュンはガソリンスタンドを後にし、
交差点の横断歩道を渡り、
とある商店街の前で立ち止まった。

ソクジン
「一体どこに行くつもりなんだ?」

目的地に近付いたのか、
ナムジュンの歩くスピードが速くなった。

ソクジン
「何だか嬉しそうだな…」

これまでのループでは見たことのない姿だった。

ナムジュンはとある書店の前で足を止めた。

ソクジン
「本でも買うのかな…」

ナムジュンが店内に入ったため俺も急いで後を追った。
店内は小声でもよく響くほど静かだった。

ソクジン
「ナムジュンはどこだろう?」

店内が想像以上に広かったため、
ナムジュンはなかなか見つからなかった。

ソクジン
「ナムジュンが行きそうなコーナーは…」

俺は小部屋にあったナムジュンの本を思い出して
人文学の棚に向かった。

ソクジン
「…いた。」

幸いにも一度でナムジュンを見つけることができた。

慎重に本を選ぶナムジュンの表情は
どこか浮かれているようにも見えた。

女性スタッフ
「あの人ってあの時の人だよね?」

男性スタッフ
「そうだな。またああしてるよ。」

俺が本棚の後ろに隠れてナムジュンを見ていたその時、
書店スタッフのささやき声が聞こえてきた。

女性スタッフ
「注意した方がいいんじゃない?
本が汚れたらどうするのよ…」

男性スタッフ
「買いもしないくせにずっとああしてるもんな… 待ってろ。」

見かねたスタッフの1人がナムジュンに近付いていった。

スタッフはナムジュンの後ろで立ち止まり、
まじまじと見つめてから咳払いをした。

男性スタッフ
「ゴホン!」

ソクジン
「本に触るなっていう意味か?」

スタッフは何度も咳払いをしたが、
ナムジュンは全く反応を示さなかった。

するとスタッフがナムジュンを睨み、
大きな音を立てて本を整理し始めた。

だがナムジュンは微動だにしなかった。

どうやら本にのめり込んでいるようだった。

やがてスタッフは諦めたようにかぶりを振り、
元の場所へと戻っていった。

ソクジン
「相変わらずだな…」

そんなナムジュンの姿を見つめていると、
突然昔の記憶が蘇ってきた。

ーーー

プレハブ教室には誰もいなかった。

待ち合わせしていたわけではなかったが、
いつもここに集まって騒いでいた。

こんな日は珍しかった。

誰もいないかと思いきや、よく見るとナムジュンが
隅の方に座っていた。

ソクジン
「ナムジュン?」

よほど本に集中しているのか、呼んでも返答はなかった。

ソクジン
「ナムジュン、何を読んでるんだ?」

ナムジュン
「…あれ?兄さんいつからいたんですか?」

俺が近付くと、ようやく存在に
気付いたナムジュンが口を開いた。

ソクジン
「邪魔しちゃったか?」

ナムジュン
「いえ、そんなことありません。
兄さん、ここにどうぞ。」

ナムジュンは机の上に積み上げていた厚い本を片付けた。

ソクジン
「何だその分厚い本?大百科事典か?」

ナムジュン
「そんなに分厚くないですよ。」

ナムジュンが手に持っていたのは
いかにも難解そうなタイトルの本だった。

《選択肢》
①からかう。
②褒める。

【パターン①:からかう。】

ソクジン
「体調悪いのか?」

ナムジュン
「…え?」

ソクジン
「どこが悪かったらこんな本を読みたくなるのかなって。」

俺はナムジュンの額に手を当てる真似をした。

ソクジン
「まともな状態で読むような本じゃないと思って…」

俺の冗談を聞いたナムジュンが大きく笑い出した。

ナムジュンの機嫌がよくなったようなので、俺は以前から
気になっていたことを尋ねてみた。

【パターン②:褒める。】

ソクジン
「どんな内容なんだ?ツァラトゥストラ?誰だ…?」

ナムジュン
「まだ読んでる途中です。」

ソクジン
「俺は1ページ読んだだけで眠くなりそうだ…
さすがナムジュン。できる男は違うな!」

ナムジュン
「からかわないでくださいよ。」

ナムジュンは褒められて照れくさくなったのか、
ばつが悪そうにただ笑うだけだった。

ナムジュンの機嫌がよくなったようなので、俺は以前から
気になっていたことを尋ねてみた。

ナムジュンの機嫌がよくなったようなので、俺は以前から
気になっていたことを尋ねてみた。

ソクジン
「ナムジュン、前から気になってたんだけど…
どうしてそんなに必死になって読んでるんだ?」

ナムジュン
「どうして本を読むのかってことですか?
はは、どうでしょう…」

ソクジン
「ただ勉強のために読んでるわけじゃなさそうだし…
何か理由があるんじゃないかって思ってな。」

ナムジュンは突然の質問に困惑しているようだった。

俺は答えを聞くためにじっと待った。

ソクジン
「何ていうか、心の糧?人生の友?」

やがて、ナムジュンが考えをまとめたのか
微笑みながら口を開いた。

ナムジュン
「本を読む理由は…

ただ読みたいからです。読書って楽しいじゃないですか。
余計な考えがどこかに吹き飛んでいくし。」

ナムジュンが分厚い哲学書を撫でながら言った。

ナムジュン
「集中している間は他のことを考えなくていいし。
本を読んでいると癒されるんです。」

予想外の答えを聞いて、
俺はただ頷くことしかできなかった。

ソクジン
「…そうなんだな。
俺も読んでみたいからどれか貸してくれないか?」

ーーー

ソクジン
「その時ナムジュンが何て返答したかは思い出せないけど、
どうしてその出来事を今まで忘れていたんだろう。

ナムジュンにとって本は…」

生活が厳しいため、本を購入することは
間違いなく難しかっただろう。

ソクジン
「食事手当や交通費が減らされることもあったはずだ。

やりたいこと、食べたいものを我慢して得た対価。
両肩にのしかかった生活の重みに耐える方法。」

もしかすると、ナムジュンにとって
本とは逃げ道なのかもしれなかった。

ようやくナムジュンに対する謎が解けたような気がした。

ソクジン
「…伝えないと。

1人でずっと耐え抜いてきた現実に対して、
勝手に同情してごめんって。」

〈Episode 5. End〉


6.誤解

”ソクジンの助けにより危機を脱したナムジュン。だが感謝は一瞬で終わってしまう。”

2ヵ月ぶりに本を購入する余裕ができた。

ナムジュン
「どっちにしようかな…」

欲しい本は2冊あったが、レジの前に立っても
なかなか決められなかった。

ナムジュン
「2冊とも買えたらいいんだけど、
今月買えるのは1冊だけだ。」

女性スタッフ
「お会計ですか?」

スタッフに催促され、ナムジュンが1冊を選んで
カウンターに置いた。

ナムジュン
「これだけお願いします。」

女性スタッフ
「1冊だけですか?」

スタッフがため息をついて言った。

女性スタッフ
「お客様、購入されない本をそんなに触られると困ります。」

ナムジュン
「あ、すみません…」

女性スタッフ
「汚いなあ…」

スタッフが小さくつぶやいた言葉が
ナムジュンの耳に突き刺さった。

ナムジュン
「汚い?」

ナムジュンは窓ガラスに映った自分の姿を見つめた。

よれよれの服、履き古した靴、
体に染みついたガソリンのにおい…

ナムジュン
「本じゃなくて俺のことか…」

それでも本を購入できたので
嫌な出来事は忘れることにした。

女性スタッフ
「どうぞ。」

スタッフが本を入れた袋を
無造作にカウンターの上に放り投げた。

ナムジュン
「……」

こんなことはガソリンスタンドで
何度も経験したと思っていたが、

全く慣れることはなかった。

ナムジュンが袋をかばんに入れて
出口に向かったその時だった。

男性スタッフ
「お客様、動かないでください!」

盗難警報機が鳴り響き、
スタッフが慌てて駆け付けてきた。

男性スタッフ
「申し訳ありませんがかばんの中を
確認させていただきます。」

ナムジュン
「かばんを?どうしてですか?」

男性スタッフ
「警報機が鳴ったからです。お会計が済んでいないものは
ございませんか?」

ナムジュン
「ちょっと待ってください。何も盗んでませんよ!」

男性スタッフ
「何も盗んでいないのなら中を見せていただけますよね?」

スタッフにかばんを引っ張られたため、
奪われまいとナムジュンが抵抗した。

ナムジュン
「自分が潔白だったらどうするんですか?」

男性スタッフ
「万引き犯のくせに白々しいんだよ!」

ナムジュン
「は?」

女性スタッフ
「見た目からして怪しいと思ったのよね…

私が見ていない隙に盗んだんですよね?
白状したらどうですか。」

犯人だと決めつけられ、
ナムジュンは怒りが込み上げてきた。

男性スタッフ
「早くかばんを開けろよ!」

ナムジュン
「…分かりました。どうぞ!」

かばんの中を確認したスタッフがたちまち意気揚々とした
表情を浮かべた。

女性スタッフ
「やっぱり思った通りね。何ですかこの本?」

スタッフがかばんから本を取り出した。読もうと思って
入れておいた本だった。

女性スタッフ
「どう見ても新品ですよね?さっき盗んだんでしょう!?」

ナムジュン
「それは元々持ってた本ですよ!」

女性スタッフ
「言い訳しないでください!」

ナムジュン
「自分は本を…!」

反論しようとしたが、ナムジュンは口をつぐんだ。

本を大切に扱う、傷が付かないように読むと
言ったところで、
誤解は解けないと思ったからだ。

男性スタッフ
「警察に通報するので大人しくしていてください。」

???
「待ってください。」

聞き慣れた声がナムジュンの耳に入ってきた。

ナムジュンが振り返ると…

ソクジン
「その人は盗んでませんよ。
ずっと見てましたから。」

俺が目撃者として証言したことで、
事態はあっさりと解決した。

のちに、警報機が鳴ったのは
誤作動だったことが分かった。

ナムジュンを疑い、犯人だと決めつけたことは
勘違いとミスという言葉でごまかされた。

ナムジュン
「こんな扱いまで受けないといけないのか。」

疑いは晴れたが、気持ちは重く沈んだままだった。

ソクジン
「…大丈夫か?」

俺は恐る恐る声をかけた。

ナムジュン
「大丈夫です。」

俺がいなければ犯人扱いされたままだっただろう。

感謝する一方でナムジュンは疑問に思った。
なぜ助けが必要なときに俺が必ず近くにいるのか…

ナムジュン
「どうしてここにいるって分かったんですか?」

ソクジン
「街を歩いてたらたまたまな…」

ナムジュン
「たまたま?」

以前気まずい別れを経験したからか、
ナムジュンは感謝の気持ちを
素直に表すことができなかった。

複雑な気持ちを表すかのように、
晴天にも関わらず雷が鳴った。

ナムジュン
「…とにかくありがとうございました。」

そうしてナムジュンが俺に声をかけて
振り返ろうとしたその時だった。

ソクジン
「ナムジュン!」

俺は慌ててナムジュンの名を叫んだ。

ソクジン
「ごめんな。俺が悪かった。

あの日… ガソリンスタンドでの出来事だけど…
お前のプライドを傷付けようとしたわけじゃないんだ。」

ナムジュン
「……」

ソクジン
「かわいそうだなんて思うべきじゃなかった。
そんなつもりはなかったんだ…

俺が何も考えずに出しゃばったことで
傷付けてしまったんだったら謝る。」

俺の言葉は間違いなく本心だった。

ナムジュン
「自分は大丈夫です。」

ソクジン
「本当か…?」

ナムジュン
「あの時兄さんがいなければ
すごく困ったことになったと思います。

兄さんは助けてくれたんだから
謝る必要なんてないですよ。」

ソクジン
「分かってくれてありがとうな。」

その時、またしても雷が鳴り響いた。
今にも雨が降り出しそうだった。

ナムジュン
「おっと…兄さん、自分は先に帰りますね。」

ソクジン
「もう帰るのか?」

ナムジュン
「用事を思い出したんです。それじゃあまた!」

ナムジュンが言い終えるやいなや、
雨雲が押し寄せ始めた。

ソクジン
「乗って行けよ!」

ナムジュン
「走ったらすぐ着きます!また連絡しますね!」

ソクジン
「…ああ、気を付けてな。」

ナムジュンはかばんを服の中に入れて走っていった。

しばらくの間ナムジュンを見送っていた。
おそらく、振り返らずとも俺の視線を感じただろう。

ナムジュン
「ふう…危なかった。」

すぐにでもどしゃ降りになりそうな雰囲気だったが、
雨は結局振らなかった。

それでもナムジュンは、排水路の作業を
全て終わらせていた。

ナムジュン
「これで大丈夫だろう。」

夜は特に用事などなく、
ナムジュンは先ほど買ってきた本を読もうと思っていた。

ナムジュン
「あれ?母さん?」

受話口の向こうから聞こえてくる母の声は
なぜか明るかった。

「ナムジュン?元気?ご飯は食べた?」

ナムジュン
「うん。どうしたの?」

「その… 大したことじゃないんだけど…」

ナムジュン
「え?」

「滞納していた入院費が全額支払われたって聞いたの。
ナムジュン、ありがとうね。」

ナムジュン
「何の話だかさっぱり… 俺は払ってないよ。
領収書とか受け取ってない?」

ナムジュンの言葉を聞いた母が
困惑したように口をつぐんだ。

ナムジュン
「入金者を確認してくれる?間違って振り込んだんだったら
返さないと。」

「だけどナムジュン… このまま黙ってれば…」

ナムジュン
「訴えられでもしたらどうするんだよ。大変なことになる。」

ため息が数回聞こえ、母がおずおずと口を開いた。

「字が小さくていま気付いたんだけど、
ソンホ財団って書かれてるわ。」

ナムジュン
「俺が確認してみる。」

「お願いね。また電話するわ。」

母はナムジュンに黙っていてほしそうだったが、
そういうわけにはいかなかった。

《選択肢》
①病院に電話する。
②ソンホ財団に電話する。

【パターン①:病院に電話する。】

ナムジュン

「病院に電話しよう。」

「はい、パルゴク群立病院です。どうかされましたか?」

ナムジュン
「キム・ヨンミンの家族のキム・ナムジュンと申します。
入院費についてお伺いしたいのですが。」

「申し訳ありませんが、いま医事課におつなぎできなくて…
後ほどあらためてお電話いただけませんか?」

ナムジュン
「…分かりました。」

残念に思いつつ、
ナムジュンはソンホ財団のホームページを確認し始めた。

【パターン②:ソンホ財団に電話する。】

ナムジュンはインターネットで検索した
ソンホ財団の番号に電話をかけた。

…が、電話には誰も出なかった。

残念に思いつつ、
ナムジュンはソンホ財団のホームページを確認し始めた。

残念に思いつつ、
ナムジュンはソンホ財団のホームページを確認し始めた。

ナムジュン
「ソンホ財団… どこかで聞いたことがあるな。

ソンジュ市にある奨学財団か。
だけど奨学財団がどうして入院費を…?」

ホームページには、最近撮影された
発足式の写真が掲載されていた。

写真には身なりをしっかり整えた人々が写っていた。

ナムジュン
「あれ?ソンジュ高校の校長先生…?
財団の理事長… この人どこかで見たことある気がする。」

写真を拡大して細かく見ていたその時、
見知った顔を発見した。

ナムジュン
「ソクジン兄さん…?」

大人たちに囲まれて居心地悪そうに立っている人物。

写真の中でその顔を発見したその時、
これまでの記憶が頭の中を一気に駆け巡った。

ーーー

ソクジン
「給油が終わったんだったらさっさと出ていけば
いいじゃないですか。

どうして何の罪もないバイトに嫌がらせするんですか?」

ーーー
ーーー

ソクジン
「かわいそうだなんて思うべきじゃなかった。」

ーーー
ーーー

「滞納していた入院費が全額支払われたって聞いたの。
ナムジュン、ありがとうね。」

ーーー

ナムジュン
「兄さんはそう思っていたんだ。」

ーーー

ガソリンスタンドの客
「何をぼーっと見てるんだ。さっさと拾え。
拾えよ。金が欲しくねえのか?」

ーーー

あの時、兄さんは俺に同情していた。

乾いた笑いが響いた。

誰かの同情や助けは望んでいなかった。

自分の人生を自分自身の力で切り拓いていくこと。
それだけを考えながら必死に耐えてきたが…

突然息苦しくなった。

どうして俺はこんな生き方をしないといけないんだ。

〈Episode 6. End〉


7.孤独

”ソクジンはナムジュンの電話を受けて混乱に陥る。今回は何が間違っていたのだろうか。”

22年5月5日

家に戻ると、ようやくナムジュンを
救うことができたという実感が湧いてきた。

ソクジン
「いま考えたら、あの時出しゃばらずに
お金だけ拾ってあげた方がよかったかもしれないな。

そうすればナムジュンは
あんな顔にはならなかっただろうし…

いや、今回はこれでよかったんだ。」

深く安堵し、俺の顔に笑みがこぼれた。

厄介だった事件がようやく解決したが、
早速次のことを考えなければならなかった。

ソクジン
「ユンギは2日に救った。
残ってるのは3人… ジミン、ホソク、そして…

テヒョン。」

そうして今後の計画について考えていたその時だった。

ソクジン
「こんな時間に誰だ?」

ナムジュンからのメッセージだった。その内容を見た俺は
胸が押しつぶされそうな感覚に陥った。

ーーー

〈兄さん、口座番号を
教えてもらえませんか?〉

〈入院費をお返しします。〉

〈兄さんの助けは必要ありません。〉

〈自分のことは自分で何とかします。〉

ーーー

ソクジン
「まさか… ナムジュンにバレたのか?」

不吉な予感がして俺は急いでナムジュンに電話をかけた。

ところが、ナムジュンは電話に出ようとしなかった。

ーーー

〈ナムジュン、入院費って何のことだ?〉

〈何かあったのか?〉

〈電話に出てくれ。
待ってる。〉

ーーー

メッセージにも返信はなかった。

ソクジン
「解決したと思ったのに…

このままずっと連絡がないようなら
コンテナに行ってみよう。」

車のキーを持って家を出ようとしたその時、
携帯電話に着信があった。

「いいから早くメッセージで口座番号を送ってください。」

ソクジン
「ナムジュン、ちゃんと話をしよう。俺は…」

「また謝るんですか?」

ナムジュンの声には感情がこもっていなかった。

だが、この状況を解決するためには何としても話を
続ける必要があった。

ソクジン
「ナムジュン、聞いてくれ。
お前は勘違いしてる。

とりあえず会おう。ちゃんと説明するから。」

俺は何とかしてこの状況を収めようとしたが、
ナムジュンの反応は冷たかった。

「説明する?どこから説明するつもりですか?

ガソリンスタンドで哀れなバイトを救ってやった話?
あれは明らかに同情ですよね?

だから黙ってお金を払ったんですか?
自分はそんなにかわいそうな人間に見えましたか?」

俺は何と答えるべきか全く見当がつかなかった。

ソクジン
「ナムジュン、誤解だ。
俺はただ、お前のことを助けたくて…」

「どうしてですか?どうして助けたいんですか!?

まあ兄さんはいつも良い人ですからね。

兄さんは何も間違ってなくて、自分が勘違いしてた
だけなんですよね?」

いっそのこと怒りをぶつけてほしかった。
ナムジュンの冷たい態度に俺の胸は苦しくなった。

ソクジン
「ナムジュン、悪かった。会って話そう。」

「お断りします。兄さんの行動は常に
正しいと思ってたけど…
自分の勘違いだったみたいです。

お金はちゃんと返すのでもう連絡してこないでください。」

ソクジン
「……」

俺は一方的に切られた携帯電話をしばらく握っていた。

そんなことをしていたところで
電話が再びつながるわけではなかったが…

他にできることは何もなかった。

すぐにでもガラスの割れる音が
聞こえてきそうな気がした。

ソクジン
「まだだ…
まだ終わってない…」

必死にそう思い込もうとしたが、
糸口すらつかめないまま、
希望は徐々に消えようとしていた。

22年5月8日

店長
「宅配のバイトに応募したい?」

ナムジュン
「頑張りますので働かせてください。」

22年5月9日

宅配のアルバイトとガソリンスタンドでの勤務。

そして結婚式場での仕事まで、
ナムジュンは寝る間も惜しんで働いた。

限界だと感じた時は、
俺にお金を返すことだけを考えた。

22年5月10日

ナムジュン
「もしもし。」

「寝てたか?
起こしてしまってすまないが、いま人手が足りないんだ。

今から来てくれないか?バイト代は色を付けるからさ。」

ナムジュン
「はい、行きます。

…グラフィティ?
あの絵… テヒョンが描いたやつかな。」

ナムジュンは魅了されたようにその絵から目を離すことが
できなかった。

よそ見をしていたその時だった。

ナムジュン
「…え、ちょ!?」

前輪が突然操作不能になり、ブレーキも利かなくなった。

ナムジュン
「わあああっ!」

冷たいアスファルトの上にガラスの破片が飛び散った。

小部屋にあるヘッドライトの欠片と
テヒョンに似たあの子どものことを思い出した。

やがて、徐々に視界がかすみ始めた。

遠のく方で聞こえる救急車のサイレンは、
一向に近付いてこなかった。

〈The End〉



ーーー


お疲れ様です。

プロローグから、ゲームアプリ内の展開に沿ってナムジュンがメインとなるエピソードを書き起こしました。物語の大筋は当noteの時系列整理と相違はないものの、『BTS Universe Story』でしか描かれない些細な心理描写など、考察のヒントになりそうな細かな出来事がたくさん登場していましたよね。


次回の記事でも同様に、ゲームアプリ内の展開に沿ってジョングク、ユンギ、ジミンがメインとなるエピソードを書き起こします。



〈次回〉

※更新はTwitter(@aya_hyyh)でもお知らせします。


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ありがとうございます💘