ダウン症児の「バイバイ」に学ぶこと
我が家のアイドル坊ちゃんはダウン症。発達はよく言われる通り本当にゆーっくりで、2歳10か月の今もまだまだ歩く気配がない。お尻でズリズリあるくシャフリング全盛期で、何ならばそこらの人よりもスピードがマシマシする日々。
そんな我が家のたー坊先生、親の焦りもよそに毎日を愉しくごきげんにお過ごしである。そんな彼に感化されることもすごく多くて、「幸せって何だろう」という問いがぐるぐるん回る。
先日noteに書いたとおり、6月にアメリカに行ってきた。初めての海外。2歳でなんて贅沢な。サーチャージだけでうんじゅう万円かかった旅行だが、きっと彼は小さいし、どうせ大した記憶にも残らず得ることもほぼなかろう。所詮親の勝手な趣味である。くらいに思っていた。
ところ、海外旅行の影響は我々の想いもよらぬところに思いもよらぬ形であらわれた。そう、それはたー坊先生が誰にでも手を振るようになったということ。彼の心境は全く全然よくわからないが、アメリカに行く前と後で明らかに人に手を振る頻度と本気度が違う。帰国後も保育園の送迎は自転車だったので全く気付かなかったが、この前シッターさんに「たー坊くん、ベビーカーに乗っていると近くを歩いている人にえらく全力で手を振るんですね!」と言われて知った。そして特に先週から時間があれば保育園の送迎を自転車からベビーカーに変えたこともあり、たしかにベビーカーで一緒にいるとひたすら周りのすれ違う人に全力で手を振っている。
おもえば、1か月ちょっと前。アメリカの地を踏みしめたとき。空港に着いた瞬間から、何なら飛行機の中からすでに彼はたくさんの人から話しかけられ、手を振られていた。正直、日本とは違う光景だった。
サンフランシスコに着くと、どこを歩いていてもやたらめったら人が彼に話かけてきて、「Hey、Baby!」、「So Cute!!」とか言って満面の笑みでハローって手を振られる。最初はしょうゆアジア顔で小児メガネをかけているのが珍しいのかなと思ったが、一度も誰もメガネに言及することもなく、何かやたら挨拶されて、手を振られ、ソーキューッ!を連呼されてニコニコされての繰り返し。レストランに入れば、周りの席の人たちから投げキッスまでされていた。投げキッス・・母は人生で一度もされたことがないのだが・・そして最初はびっくりしながらも段々その環境に慣れてきた彼は、滞在5日目くらいになると、今度は待ちきれないのか自ら手を振ったり、自ら相手の顔をのぞき込んだり、自ら後ろを向いて手を振り始めたりした。そしてそれらの行為に対してさらに周りが良き反応をしてくれると確信した、のだろう。日本に帰国する頃には自分を人気キャラクターの一種とでも思いこんだのか、ニコニコ手をフリフリが止まらない。帰国してからもひたすら周りの人に手を振ってハイタッチをして、ニコニコしている。
最初はなにやってんのかなーくらいにしか思っていなかったが、いざ自称アイドル君と暮らしていると、不思議とこういうごきげん菌はうつってくるものだ。彼が手を振る先々でこんにちはー!と言い始める自分がいるから不思議だ。
それでも日本は島国。彼が手を振り、横で私が「こんにちは、だね!こんにちはー!」というと、大抵の見知らぬ人はぎょっとするか、聞こえなかったふりをする。それか本当に聞こえていないか。
昨日の朝は時間があったのでベビーカーで保育園に登園した。
また例のごとく、バス停の横を通る際にバス停で待っている人たちにニコニコしながら手を振りまくったたー坊先生。選挙カーの同席者のごとく、つい私も「おはようございます~!」と言ってそばを通り抜けてしまった。
その瞬間、並んでいたおじさんのぎょっとした顔と言ったら。
えっ、僕たち知り合いでしたっけ?ばりにぎょぎょぎょ、とした顔で上から下まで見られた(感じがした)。その横で恰幅の良いおばさまが、「あらーおはよう!」と手をフリフリのたー坊先生に返してくれた。たー坊先生はそれになお嬉しくなったのか、通り過ぎた後もベビーカーの後ろを振り返りながらいつまでもおばさまに手を振っていた。
ごきげん菌はうつるらしい。あやうく、彼がいなくても私まで手を振って挨拶してしまいそうだ。こういう裏表のない無意識の挨拶やハッピーな感情が無意識に人に伝染し、人を少しほっこりさせる。そんな空気感が蔓延したら社会の大半の困りごとは吹っ飛ぶだろうに。
3歳手前でまだあるかぬゆっくりさんから学ぶことは本当に大きい。
ピュアに誰に対しても手をふることができる彼の生き様には脱帽するばかりだ。