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母の形見の腕時計。

私が二十歳になったとき
父方の伯母から『母の形見』を貰った。

母が使っていたお茶碗
ウイスキーボトルで作った人形
腕時計
指輪
そして育児日記。

その中のひとつ腕時計の事を書きたいと思う。


「ママが使っていた腕時計だよ。」

伯母はいつも、今の母に隠れるようにして亡くなった母の話を聞かせてくれた。
この時もそう。
コソコソっと私に渡してくれたのだ。

動きが止まった時計はとても綺麗だった。

感触は冷たいはずなのに温もりを感じた気がした。

私はその時計を時計屋さんに持っていき電池交換をお願いした。
なにせ古いものだから、動かないかもしれないという覚悟はしていた。

腕時計は電池交換とパッキンの交換で問題なく動き出した。


私は父にメールをした。

父に亡くなった母の事を聞くのはタブーだったが、もう私はそんな事気にしない。でも今の暮らしの妨げになるような事はしたくないから、電話ではなくメールをした。

程なくして父から返事が来た。

『その時計は、ママが二十歳になった時に両親から買ってもらった腕時計だよ。動いたんだね。凄いね。』

そうだったのか。
この腕時計はおじいちゃんとおばあちゃんがプレゼントしたものだったのか。
きっと、大切な宝物だったに違いない。

それが今私の手の中にあるなんて。

涙が溢れた。

この腕時計を私が二十歳になるまでずっと大切に保管してくれていた叔母には感謝してもしきれない。

娘や息子の入学や卒業の大切な時に私はこの腕時計を身に付けて出席した。


腕時計は50年以上も前の物だが今もとても綺麗だ。

大切な大切な宝物。
母の形見の腕時計。

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