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ひきこもり図書館 | (編)頭木弘樹

■ ひとこと概要

作家陣は勿論、収められた話のチョイスや並びの全てから編者の愛情が伝わる最高のアンソロジー。引き籠りと言ってもそれぞれに理由も表現もあり、広がりゆく閉じられた色とりどりの小宇宙事情が愉しい。

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■ 感想

「ひきこもり図書館」(編)頭木弘樹(毎日新聞出版)P249

ひきこもりを肯定するのでも否定するのでもなく、ひきこもることで起きる変化や気付きを描いた文学を集めたアンソロジー。

萩原朔太郎、フランツ・カフカ、星新一、エドガー・アラン・ポー、萩尾望都、上田秋成など、大好きな作家さん揃いで手に取った本書。作家陣は勿論、収められた話のチョイスや並びの全てから編者の愛情が伝わる素晴らしいアンソロジーで、冒頭のホーソーンの言葉で一気に惹き込まれる。

そして始まりの散文詩、萩原朔太郎「死なない蛸」の凄み。物凄い欠乏と不満を持った死なない蛸。凄まじいまでの静けさの中に爆発するような生への渇望を見せ、暗闇の水槽から見える筈のない目がギラリと此方を見据え、不在の存在の恐怖に圧倒される。

カフカは日記や恋人に宛てた手紙などからの抜粋が主に収められ、カフカ独特の仄暗い希望と絶望が懐かしく、いろんな本を再読したくなった。

初めて知った作家さんで凄く面白かったのは、梶尾真治さん「フランケンシュタインの方程式」。火星を目指す宇宙船の中、酸素ボンベの残量が1人分しかないトラブルが発生。生き残るのはどちらか、それとも。コメディのような二人の遣り取りをドキドキしながら楽しんでいるとまた驚きの展開が。日本人作家さんとは思えない空気感で、他の作品も是非読んでいきたい作家さんが増えて嬉しい。

なんとも不思議な味わいが素敵だったのは、ハン・ガンさん「私の女の実」。結末も過程もいろんな解釈で組み立てられる広がりのある話で、読んだ後に誰かと語りたくなる。「菜食主義」の種子となった作品ということなので、この小説の変奏となる連作も是非読みたい。

面白いお話だらけのこのアンソロジーで私の一番のお気に入りは、ロバート・シェクリイ「静かな水のほとりで」。出会えた幸運と幸福が冷めやらず、読んですぐ再読を重ねた。たった一人で小惑星の探鉱者をしているマーク。その傍らには汎用作業型のロボット・チャールズ。記憶装置が内蔵されたロボットに日々言葉をメモリーしていき、やがてチャールズはマークと正反対の性格を持つ友人となっていく。種を越えた根源的な愛の詰まった切ないラストシーンが美しく、放心状態。絶版のシェクリイ作品を是非復刊してほしい!

■ 寄り道読書

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「無限がいっぱい」ロバート・シェクリィ(早川書房)P348

ロバート・シェクリィの本は持ってなかったような…と本棚を探すと1冊だけ異色作家短篇集シリーズで興味を持って買ったらしきこの本が!(記憶がふんわり)絶版だらけのシェクリィ、復刊を是非!

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「改訂 雨月物語」上田秋成(角川ソフィア文庫)P366

この本に収められた「吉備津の釜」。大好きな内藤了さんの「よろず建物因縁帳」でも最終巻までの大きな軸に関わってくる磯良の物語を最終巻発売までには読んでおきたいと思っていた所にひきこもり図書館での「吉備津の釜」重ね。これはもう読むしか。

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