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湖畔地図製作社

■ 感想

「湖畔地図製作社」(文)長野まゆみ(作品)桑原弘明(国書刊行会)P128

影が顕つように空へと舞い上がる黒い蝶に導かれ辿り着いたのは、微高地の上に建つ<湖畔地図製作社>。

雨宿りをしていると言う先客が「こちらの工房ならではの一例をごらんにいれましょう」と開いたのは一枚の風変りな地図。その地図は水域に雨の糸を通す無数の小さな孔があり、孔の配置によって水の面に折々の紋が現れるらしい。地図はその孔を正しく辿るための重要アイテムということだろうか。

正しい方位へと導く<風のばら>に隠された暗号を探すようにスコープを覗いていくと、めくるめく小さな宇宙。窓をつたう雨粒に宿る水辺林の緑の眠り。黒の森で紫の輝きを見つける蜜蜂の夢。そっと棲み付いた虹を秘める、空の青を映す紺碧の鏡。白い馬の蹄が蹴りだしたあとにできた、雪のような結晶泉。

天窓に描いた碧空が孔雀になり雨上がりを告げる頃風のばらの風配図は消え、幸せな午睡を顕つ黒曜の影は泡沫の夢となり瞼の裏に去ってゆく。

青々と繁茂する森林の湖畔に浮かぶボートに揺られて、少年アリスの夢を見た気がした。

■ 漂流図書

■風配図 WIND ROSE|皆川博子

重要なアイテムとして登場する<風のばら>。風のばらと言えば風配図。

美しい夢から夢へと渡るように、皆川さんの風配図へとスコープのフォーカスを合わせたい。

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