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書痴まんが

■ ひとこと概要

本への抗えない想いを持つ人の性癖を確実に突いてくる魅惑のアンソロジー。

■ 感想

「書痴まんが」(編)山田英生(ちくま文庫)P384

【書痴】読書ばかりしていて、他を顧みない人。書物の収集に熱中している人。

あまり好意的な意味合いとしては使われない<書痴>。しかし本好きにとって最高の題材であり、その編者が山田英生さんとくれば読む前から面白さは約束されたようなもの。書物に憑りつかれたように<蒐める>ビブリオマニアの話だけでなく、本を中心とした怪異やSF風味のある話、日溜まりや夕焼けのような色を心に灯してくれる話など最後まで彩り豊かに魅了してくれる。

ランプの精のように軽やかな日々へのきっかけを運んでくれた、不思議なおばあちゃんが愛らしい、山川直人さん「古い本」。初めての東京でお金を騙し取られ、呆然とする中差し伸べられた束の間の優しさが、淋しさと共に心に焼き付いた忘れられないひと夏、うらたじゅんさん「新宿泥棒神田日記」。空と雲のあわいで見る夢のように、ふわりと優しいコマツシンヤさんの大好きな「午后のあくび」から抜粋された、魅惑の書店街や船の図書館。

古本に挟まれた投函されなかった謝罪のハガキを起点に知り合うことなく繋がれていく優しい縁を描く、森泉岳士さん「諸島物語」。水木しげるさんの原稿との戦いや願望、現実が面白い短篇に化けた「巻物の怪」。ラブロマンスの本を読んでいたはずがサイコスリラーへと変わっていき、始まりは海外ものだったのにいつしか今歩いている場所と本の中が一致し始め、背後には不穏な…ハラハラとしたホラーミステリ―を展開していく、諸星大二郎さん「殺人者の蔵書」。

あっという間に驚きの結末を見せる、石原はるひこさん「悪魔の招待状」。天才・手塚治虫さんの偉大さ、優しさの一端を垣間見れる、永島慎二さん「ぼくの手塚治虫先生」。

本に纏わるそれぞれの短篇に共感したり、ぞっとしたり、じんわり温かく心が解けたり。矢張り本は読んでも、集めても、積んでも、眺めても愉しく、本への抗えない想いを持つ人の性癖を確実に突いてくる魅惑のアンソロジー。

■ 寄り道読書

「午后のあくび」コマツシンヤ(亜紀書房)P176

再読したくてたまらなくなったコマツシンヤさん作品。星新一さんのようにショートショートな世界に不思議も愉しみもぎゅっと詰まったコマツシンヤさんの漫画は、読んでいくうちに人間をダメにするマシュマロクッションに吸い込まれていくような、幸せな陶酔感で満たしてくれる。

白玉町、住みたいなあ。

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