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タイムカプセルを埋めたときの自分に、今の自分は誇れるのか ▶ 『株式会社タイムカプセル社 -十年前からやってきた使者-』読書感想エッセイ

子供の頃に埋めたタイムカプセルを開けたとき、それを「懐かしい」と思うのか、「くだらない」と思うのかで、これまでの自分の人生がわかるのです。
それでも「いつだってやり直せる」を軸に、様々な人たちのターニングポイントを集めた物語。

『株式会社タイムカプセル社 -十年前からやってきた使者-』喜多川泰
 読書期間︰2023.04.21〜05.12

\ あらすじなどはこちら /

地元図書館が半年前から電子図書館を開設したので、初めて電子書籍を借りました。
それが、こちらの一冊です。

書店で文庫版が平積みになっているのを見かけて、気になっていたのですが、なにしろ積ん読が多くて……(笑)
眼筋が弱いのであまり電子書籍は得意ではないんですが、偶然見つけたので「これは読めと天の思し召しだ」と借りてみました。

平積みになっているときは、勝手に「タイムトラベルもの」だと思いこんでいたのですが、違いましたよ。(私、こういうの多いな、ヲイ)
よく学校などで「20歳の自分へ」とか手紙書いて缶に入れて埋めたりする、あのタイムカプセルを請け負う会社です。
いろいろと人生に失敗してどん底にいた45歳の男性が、この株式会社タイムカプセル社に転職したことで、改めて人生を見直し、やり直す再生物語でした。

びっくりしたのは、本当にこういうタイムカプセルを請け負う会社があるんですね。
この記事に書影を埋め込もうと検索したら、同じような名前の実在会社を見つけました。

夢があって良いなぁなんてのんきに思いましたが、この本に描かれているタイムカプセル社は、何がなんでもタイムカプセル(に入れた自分宛ての手紙)を本人に届けに行くのが使命。
名前が変わっていようが、海外だろうが、手渡しで届けに行きます。

ちょっと想像してみてください。
もしあなたが、子供のころにタイムカプセルに入れた手紙を、帽子から靴まで真っ白なスーツ姿の男性2人が携えてやって来たら、どうしますか?

たぶん、私は逃げます。
無言で逃げます。
もしかしたら、遠くで写真を撮って「やべぇ奴いる」って拡散するかもしれない(笑)
それが普通の、今の反応なのではと思います。
だけど、登場する人物たちは、それをしなかった。
怪しみながらも、白スーツの2人の話を聞くことができた。
そういう受け取り手にとって必要なタイミングで現れるのです。

10年前に書いた自分宛の手紙を見つけ、読んだとき、「懐かしいね」と笑える人は幸せな人です。
自覚はなくても、ある程度自分の人生に納得がいっている人です。

逆に、「読みたくない」「くだらない」「10年前の私に申し訳ない」と思う人は、本人は無自覚でも人生にわだかまりがあるのです。

私は両方かもしれません。
開けたときは「懐かしい」と笑えると思います。
でも、内容を読んだら、書いた当時の自分に「ごめん」と誤ってしまう気がします。
当時の自分に誇れる自分ではないからです。
子供の頃の自分が今の私を見たら、さぞやガッカリするだろうな、という思いがいつでも抜けないのです。
いつからこんな思いにとらわれるようになったのかなぁ。
少なくとも、パニック障害に悩まされながらも文章の勉強に邁進していた学生時代や、正規の職員ではなけれど、日々賢明に仕事を覚えてこなしていた頃だったら、きっと笑って「作家じゃないけど頑張っているよ」と笑いながら読めたのだと思います。

さて、あなたはどちらでしょうか?


ストーリーは、とても安心するハートウォーミングな連作短編集です。
(前回が、令和の怪奇小説(個人の感想です)だったので、余計にハートウォーム。好物!)
作者が言いたいことをがっちり詰め込んだ感じはするので、ちょっと語る部分が多いかな、もっと短文で相手が納得するような部分があっても良かったかな、と思います。
登場人物の言葉に作者が「見えて」しまう、というか。
そこは私も気をつけようと学びました。
一言の魔力ってあると思うのです。

構成はとても練られていて、連作短編ですが最初から順番に読むのがオススメです。
みんながみんな、過去の自分に励まされるわけではない、というのがとても人間味があると思います。
(私みたいに、過去の自分に誇れない人は余計にそう思うのよ……)

やっぱり電子ではなく、紙の本にフセンを貼りながらもう一度読みたい作品ですね。
手元に残しておきたいのです。


ここまでお読みいただき、ありがとうございました。
本日もミッドナイトな相棒・MacBookAirからお送りしました。
また次の本でお逢いしましょう。


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