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巴雅爾(はがじ)と伊珠(いしゅ)5
巴雅爾は寝台に移り伊珠を招き入れた
伊珠が床に横たわると顔を覆うベールを外した
重なる唇 巴雅爾の吐息が伊珠の首筋にかかる
床に滑り落ちる蒼い衣 巴雅爾の白い腕が伊珠の体を抱きしめる
あのひとの 無忌の猛々しい愛し方とは違う 優しく包み込む様な愛し方
ひとつひとつ記憶に留めようとするように丁寧な愛撫をする巴雅爾
(巴雅爾、あなたが私を拒絶しないで受け入れてくれていたなら
あなたから
巴雅爾(はがじ)と伊珠(いしゅ)4
家に戻ると巴雅爾に茶を入れ、さっそく寝台の脇にある木箱を開けてみた
中には蒼いあの巴雅爾に貰った衣に似た民族衣装があった
巴雅爾、これは。。
そうだよ 私達が出会った時のあの花嫁衣装だよ
それを着た君を見られなかった、今 見せてくれないか
その姿を目に焼き付けたいんだ
伊珠はうなづき 衣装を持って着替えに行った
巴雅爾 どうかしら
巴雅爾が伊珠の声に振り向くと蒼い衣装の伊珠が立っ
巴雅爾(はがじ)と伊珠(いしゅ) 3
草原を吹き抜ける風
ふたりの頬を優しい風が撫ぜて行く
巴雅爾 私はあなたから拒まれて 砂漠に逃げた時 傷心の私をあのひとが
包み込んでくれたの
初めは友だった 好意は気づいていたけれどあなたしか見えなかったの
それでも櫂花の薫りを嗅ぐとあのひとを想い切なくなったわ
いくら拒絶しても諦めず現れるあの人
あの人を受け入れた そして嫁ぐと決めた
伊珠 あの者の妻にはなれないのだよ
巴雅爾(はがじ)と伊珠(いしゅ) 2
九爺は持参した書物の紐を解いた
手持ち無沙汰の莘月は周りを見回す
目に留まったのは刺繍道具
九爺様 これは。。。
ああ 君が以前刺繍を初めていた折、私が香り袋を作ってほしいと
言ったことを憶えているかい
もし よければ作ってくれないだろうか
私は器用な方ではないので
君の手作りが欲しいのだよ 頼む
出来上がりを笑わないでくれますか 九爺様は器用なのですから
ふふふ 思いのま
巴雅爾(はがじ)と伊珠(いしゅ)
都と砂漠の中ほど、商隊も立ち寄らぬ草原にその家はあった
近くの間道まで供を連れ九爺は莘月と出掛けて来た
道外れで供に指示を出し愛用の車椅子を莘月に押させその家に着いた
九爺様 ここは。。
私の隠れ家だよ 砂漠のことで考えをまとめる時に使うのだよ
九爺は肩越しに車椅子を押す莘月の手を軽く叩いた
さあ 中に入ろう
車椅子の出入りがしやすい扉を開け 家に入った
左程広くはないが居心地のよ