旅行記:浜松②(スイーツバンクと私設図書館と佐鳴湖)
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スイーツバンク
さわやかを堪能した後は、あの「うなぎパイ」で有名な春華堂の施設である『スイーツバンク』に向かった。そこは春華堂の本社やカフェや銀行などが入った複合施設なのだが、とにかくデザインがすごいのである。まずは見てほしい。
見てもらえば分かるとおり、ダイニング家具などがスケールアウトした印象的なデザインなのである。
総工費はなんと50億円という。いったい僕は何度生まれ変わればこの金額を稼げるのだろうかと考えてしまう。
ちなみに内装もかわいい。文房具や雑貨が外観と同様にビッグサイズになって設置されている。
この素敵なデザインの館内にはスイーツやお土産を購入できるショップがあったので、ちょっと覗いてみた。
春華堂には申し訳ないけれど、うなぎパイ以外の商品を知らなかったのだが、こうしてショップに入ってみると色々な商品があることがわかる。お菓子の他にカヌレとかケーキも売っていて、買うことはできなかったがとても美味しそうだった。浜松に住む人たちが羨ましかった。
特に気になったお菓子、春華堂とJALが共同開発したという「大地のパイ 紅はるか」をお土産用に購入した。ついでにうなぎパイの形をした絆創膏もレジ前に置いてあったので思わず買い足してしまった。こういう、地元限定の小物にめっぽう弱い。
浜松からバスで10数分の場所なので決してアクセスがいいとは言えないが、平日なのに多くのお客さんで賑わっていて、街の賑わいを創出しているように思えた。
私設図書館
お土産を買い、建物の写真をたくさん撮って、スイーツボックスを満足したのが14時半ごろ。夕飯は浜松駅近くで餃子を食べることに決めていたから、なんとも中途半端な時間である。
海沿いの砂丘に行くか、いっそ浜名湖まで行ってみるか……。色々行き先を考えていると、彼女が偶然見つけたカフェが素敵そうな雰囲気だったので、そこに行くことにした。
『じゃじゃの私設図書館』という。
個人で設立した、小さなカフェと図書館が合体したようなところで、本を借りることもできるし、館内でドリンクとか軽食を注文して飲食することもできる。
蔵書は8,000冊以上あるらしく、小説や絵本、趣味実用書など幅広く揃っていた。僕らが館内に入った時、おそらく地元の方と思われるお客さんが2人いた。
静かで、穏やかな時間が流れていた。入った瞬間に、好きな空間だと思った。
営業時間が16時までなので、それまでの1時間弱、ここでコーヒーを飲みながら本を読むことにした。一つ一つの棚を凝視して、何を今読もうかと思案する。
僕は古井由吉の『杳子・妻隠』(先日読んだ又吉直樹さんの新書で紹介されていた記憶があったため)を読むことにした。彼女は何かエッセイ本を選んでいた。
初めて訪れる場所で、これほど居心地がいいと思えたところは初めてかもしれない。
館内は公共の図書館と違い、おしゃべり可能とのことだったが、この均衡の取れた素晴らしい雰囲気を今だけは崩したくなく、静かに本を読み進めた。
もしこの近くに住んでいたのなら、間違いなく常連になっていただろうと思った。いや、むしろ、ここに通うために引っ越したいとすら思った。
本を読むのに集中するあまり、気づけば16時を若干過ぎていたので、慌てて会計を済ませた。
「本を借りて会員になっていただければ飲み物代が安くなりますよ」
店主にそう申告していただいたが、
「東京に住んでいるので借りられないのです……」
と申し訳ない気持ちで答えると、
「遠いところからありがとうございます。それじゃ借りたくても借りられないですね、アハハ」
と優しい笑顔で接客してくださった。
益々、本を借りたくなった。
本当に素敵な施設だった。
佐鳴湖
浜松の湖といえば、9割以上の方が真っ先に浜名湖を思い浮かべると思うが、実はもう一つ大きな湖がある。それが佐鳴湖である。
正直、今回訪れるまでこの湖の存在すら知らなかったが、私設図書館の近くにあったので行ってみることにした。
あまり期待していなかったのだが、佐鳴湖に出るまでの路地が既に雰囲気良く、湖近くの遊歩道から眺める景色は、静謐な空気と相まって、神聖さを感じた。
湖に沿った遊歩道を南の方角に歩くと、小高い丘になっている芝生を見つけたので、そこで寝転びながら湖を眺めた。
旅行をするときは必ずといっていいほど、この場所に住んでいたらどんな暮らし方になるのだろうか、と考える。
先ほどの私設図書館でも感じたが、ゆったりとした時間がこのあたりには流れている。東京の井の頭公園や小金井公園を散歩するときも穏やかだなぁとは思うが、この佐鳴湖は別格である。
週末は私設図書館に行って、そこで借りた本を佐鳴湖のそばで読むという贅沢ができるな。近くにはイオンもあるから、生活用品や食料などの買い物にも困らないな。などなど。あれこれと妄想が湧き出るのである。
そんな妄想に耽ていればあっという間に時間は過ぎる。お腹も声を上げ始める。
そろそろ餃子を食べに行こうか。
こうして浜松を巡る1日目が、あっという間に過ぎ去っていったのである。