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「通信教育の人」が考える学習環境設計の話

予定していた「小中高のキャリア教育実践基礎講習」の集合研修(リアル開催)、第1回をやむなくオンラインにすることに。リアルの場づくりもとても大切にしていたのですが、この状況の中では致し方なく。学校の授業もオンラインにすればいいじゃん、と簡単に言われることも多いのですが、リアルで設計していた学習の場は、そのすべてをオンラインで再現することはできません。リアルの価値については、昨年の記事でも書いていますが・・・

今回、リアルで予定していた講座をオンラインに「設計し直す」過程の中で、あらためて、私のこだわりというか思考のクセに気づきました。それは、20代を過ごした通信教育の業界の「教材設計・サービス設計」の中に、空気のようにあたりまえに存在していたように思います。今回は、ここで気づいた「通信教育の思考のクセ」について書いてみたいと思います。

●ペーパーレスの時代に、それでも紙教材をお届けする

リアル研修で配布する配布資料、オンラインにする場合はPDFデータでのダウンロードにすることがほとんどだと思います。ですが、オンライン化にあたって、配布資料は「紙で」「郵送」することにしました。このペーパーレスの時代に、って思いますよねぇ(笑)

でも。

ここで私が重要視したのは、オンライン講座に参加するにあたっての学習環境の設計という視点です。オンライン講座は、パソコンまたはタブレットで受講することになります。机やテーブルの上でパソコンを開き、その前に紙教材を置いて、メモを取りながらオンラインで参加する、または、教材を使って考えたり体験する・・・という、受講者のご自宅の様子を思い浮かべます。

こういう環境を受講者側で整えてほしい。

PDFデータを送って印刷してもらえばいいじゃないかという考え方もできますが、自宅で印刷するには大量であれば印刷しない人もいるでしょう。紙教材の送付は、推奨する学習環境を整えるしかけであり、そういう学習環境を作って欲しいというメッセージでもあります。その場で起きる学習体験の効果を最大化するためにはどんな環境がベストなのか、それを描くのも設計者の重要な仕事だと思っています。(しかしこちらも、タブレットが普及したら、紙がデータに置き替わることと思います。私もiPadでデータを表示し、ApplePencilで手描き記入という使い方もしていますが、こうした環境はまだまだ特殊な状況ではないでしょうか。)

ちなみに、前提として何をスライドで表示して何を手元資料とするかの設計もとても大事であることは、いうまでもありません。

もう一点。紙はデータと違って物理的なボリュームがあるということ。パラパラっとめくって、総ボリュームを感覚的に把握するには、紙は割と便利なんじゃないかと思っています。そして「郵送」されてくるものを受け取るのも、学びのモチベーションにつながる体験です。新しいことを学び始めるのって、大人にとってもちょっとワクワクする体験ですよね。そのための教材がギフトのように届いたら、さらにワクワクしませんか?

●自学自習を促進できる仕掛けづくりも

もうひとつ、研修や教材を提供して終わりにしないという思考も存在しています。「小中高のキャリア教育実践基礎講習」はその延長線上にキャリア教育コーディネーターの資格認定試験があるということもあって、受講して終わりではなく、ひとりで学習を継続できるかどうかも大切になります。

ここでも、記入しながら使える紙教材の提供は、大きなポイントになります。与えられた情報だけでなく、自分で記入して完成させた「自分だけの資料」になるので、あとから見直す際にも記憶を呼び起こすフックが多いということになります。自分なりの使い方を工夫する余地をたくさん作っておきたいと思っています。

そして、学びを継続するという意味では、オンラインツール・デジタルツールが普及したことで、有効な手段が増えたなぁと思っています。昨年からgoogleクラスルームも活用しています。研修の場や教材だけでは解決できなかった疑問を質問したり、関連情報のリファレンスなど、学びを継続させるための仕掛けがいろいろとできることがわかりました。この部分は、これからもっと可能性が広がるのではないかと考えています。まだまだ研究したいポイントです。

・・・と、通信教育業界を離れて15年以上が経ちましたが、結局のところ、考えているのは、「講師が何を提供するか」ではなく「受講者側にどんな環境を作るのか」ということ。こういう部分が通信教育の人の思考のクセなのかもしれないと、あらためて思ったのでした。


松倉由紀
キャリア教育コーディネーター・教育研修プランナー。1975年長野県上田市生まれ。静岡大学人文学部卒業。地元での就職に失敗(4か月めで退職届!)ののち、大手通信教育会社、人材派遣会社、コンサルティングファームを経て現職。キャリア教育の領域で教育プログラム開発と「しくみ作り」をする「企画屋」「クリエイター」であり「風呂敷たたみ屋」。2016年4月個人事業主から法人成り(株)ax-factory(https://ax-factory.wixsite.com/corporate)を設立。2020年京都造形芸術大学通信教育部(グラフィックデザイン)を卒業。デザインで学びをおもしろくします。
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