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若手建築家によるトークセッションin東京「アトリエ設計事務所で働くとは?」イベントレポート

こんにちは。
建築設計者のための求人サイト「A-worker」運営スタッフの中村です。

「A-worker」は、2019年4月にアトリエ設計事務所によるトークイベント in京都 を初開催しました。建築設計を目指す求職者とアトリエ設計事務所で働く設計者が繋がる場をつくりたいとの想いから、イベントを企画しました。
今回、第2回目として、2019年11月に東京にてアトリエ設計事務所で働く4名の若手建築家を招いたトークイベントを開催しました。アトリエ設計事務所に興味はあるけれど就職するには不安もある、そんな学生や建築実務者ら約60名にお集まりいただきました。

テーマは、「アトリエ設計事務所で働くとは?」

時代の変化にあわせて、アトリエ設計事務所の働き方も変化しています。建築業界の第一線で活躍する方々は、日々どんな働き方をして、何を想い設計に取り組んでいるのか。独立したきっかけなど、自分らしく活躍するためのヒントとなるようなお話をしていただきました。

<登壇者>
一級建築士事務所 TAWs DESIGN 田辺 誠史 氏
株式会社 エムズ・アーキテクツ 竹内 聡 氏
株式会社 本間總合建築 濱田 政和 氏
牧野恭久建築設計事務所 牧野 恭久 氏

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アトリエ設計事務所の仕事とは?――幅広いジャンルの建築

――本日会場へ来られた皆様に、『なぜこのトークセッションに参加されたか』を事前にアンケート調査したところ、一番多かったのが『アトリエ設計事務所で働くとは実際にどういうものなのか?』ということでした。具体的な業務内容を教えていただけますか?

田辺 今やっているのは住宅が多いですが、リノベーションの案件もいくつか手掛けています。まちづくりのNPOにも関わっていまして、マンションの移転事業のお手伝いもしています。そのほか木造のオフィスや店舗、宿泊施設など、ジャンルは結構バラバラで、いろんなことをやらせてもらっているという状況です。

竹内 別荘の仕事が多く、軽井沢に6件、建築中の物件があり、12月にはそのうちの5件を引き渡す予定で結構バタバタしています。そんなこんなで軽井沢には、週1回くらいのペースで通っています。設計事務所の仕事は、図面を書いたり模型を作ったりしているイメージがあると思います。もちろんそれが中心ですが、そのほか「工事監理」という業務もあります。設計図どおりに工事が進んでいるかどうか、工事の進捗が問題ないか、そういったことを現場へチェックしに行くわけです。また、途中で必ず、追加の工事が出てきます。その追加工事のコストが適正かどうかのチェックも工事監理の一部です。
 別荘は土地が広いので、最低でも50坪、平均すると80~90坪規模になります。しかしスケールが大きいと言っても、やることはほとんど変わりありません。現場での打ち合わせはもうミリ単位のことばかりです。ドア枠の「チリ」、これを8ミリにしようだとか、タイルの目地の幅を5ミリにしようだとか、そんなことばかりやっています。ディテールへのこだわりの積み重ねによって、良い建築ができると思いますし、そういった点が魅力でもあります。

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濱田 現在担当している物件は、木造がほとんどです。例えば、神奈川県藤沢市では、木造2階建ての長屋。宮城県では、木造2階建ての300坪の物件にも取り組んでいます。これは医療と福祉、ホテルとスパの複合施設になる予定です。弊社の業務内容は、プランニング、法規確認、施主へのプレゼンテーションなどです。設計業務関連は、担当者が1人で取り組みます。また、規模が大きい物件は、2-3人のチームを組んで取り組みます。着工した後は、竹内さんも言われていましたが、「工事監理」という立場で、現場の方や職人さんと打ち合わせをする、色や形を決める――そういったことを引き渡しまでずっと一括して担当します。

牧野 独立したころは住宅をよく手掛けていましたが、最近は店舗が多いです。店舗の設計は、基本内装なので、それぞれ状況がバラバラで、工事のスケジュールや設計の考え方が異なることが多く、新築とは違う仕事のやり方があるのだなと感じています。グループで取り組んでいるのが中国の物件で、私の先輩が手掛けていて、お手伝いしているケースもあります。1人で運営している事務所なので、設計以外の業務も自分でさばかないといけない。やってくれる人がいないので何とかやっていますが、厳しい面があります。本当は分業できれば良いのでしょうけど・・・。
なので皆さん、設計事務所に就職してください(笑)。

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人づての紹介が多い新規物件、個人邸はwebサイトからの問い合わせも

――建築事務所の仕事の受注や営業活動についてお聞きいたします。皆さんはどうやってお仕事を見つけてこられるのでしょうか。

田辺 建築事務所の営業は非常に難しくて、勤めているときに『建築設計の営業ほど難しいものはない』とよく耳にしていました。僕は『こういう活動をしています』ということを伝えるため、いろいろな所に顔を出しています。有難いことに、『変わった人がいるよ』みたいな感じで紹介してもらったり、『こんなことできる?』と聞かれ、それで仕事につながったりだとか、そういう積み重ねで何とか仕事を続けられています。いろいろな人に会う、面白そうなイベントに参加するとか、そういうことを基本にしています。

牧野 お施主さんに紹介してもらっています。きちんと仕事をやって、真面目に取り組んでいれば紹介していただけるのではないでしょうか。

濱田 弊社では、一度お付き合いした先からご紹介いただくだとか、そういったケースが多いですね。施主が大体、法人や企業なので、人づてで信用のあるところからご紹介いただくことが多い。新規案件として、webサイトから問い合わせがあることはほとんどないです。個人邸などを主に手掛けておられる事務所は、webサイトからの問い合わせが多いと聞きます。(案件の振り分けについて)僕自身が香川県の瀬戸内海の方の出身だったこともあり、広島県の木造保育園の仕事を担当したこともあります。

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人の顔が見える仕事がしたかった

――アトリエ設計事務所を目指された“きっかけ”は何ですか?

竹内 私の場合、大学を卒業してゼネコンに入り、土木部に配属されました。東京ゲートブリッジや羽田空港の飛行機が通る道の地盤改良だとか、そういった工事の現場監督を担当していました。最初はすごく楽しくて、大きな建築物を作れますし、やりがいがありました。でも仕事を覚えていくうちに違和感が出てきて、元々『人のためになる仕事がやりたい』と思っていたのですが、全然人の顔が見えないんですね。橋が架かることで経済効果が上がる、飛行機が安全に通行できる地盤に改良されることは頭で理解しているのですが、顧客の存在が遠すぎて、なかなか自分のモチベーションアップにつながらなかった。そうした折、元々やりたいと思っていた建築の設計を思い出しまして、転職しようと決めました。1年間の専門学校を経た後、就職活動をしました。そのときは「A-worker」さんにお世話になりました。

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田辺 僕は大学院のとき、実は既に設計をやっていました。大学の先生から声が掛かり、環境系をやっている設計事務所を紹介してもらいました。その後、転職した際に、濱田さんが勤めておられる事務所に8年ほど在籍していました。そのときも「A-worker」さんにお世話になりました(笑)。研究室の仲間で、実施設計をやりながら過ごしたという経験は、ちょっと異例だと思います。そういう活動の延長線上にたまたまアトリエ設計事務所があったと思っています。

アトリエ設計事務所は“設計”のプロフェッショナル

――ゼネコンやハウスメーカーとアトリエ設計事務所の違いは何でしょうか。また、デザイン性の面で、設計事務所とハウスメーカーの差は縮まってきてはいるのでしょうか?

竹内 建築の仕事は大きく分けて、施工と設計の2つがあると思います。ゼネコンは施工のプロフェッショナルです。ハウスメーカーは設計と施工を一体で請け負う会社で、全てオールマイティーで対応できます。家を買う方からすれば、1社で全て対応してもらえるので非常にメリットがある。最初から、ある程度のコストも分かるので安心ですし、日本ではハウスメーカーが主流ではないでしょうか。その半面、設計できる範囲が限られてくるというデメリットもある。小さいころ、「レゴ」で遊んだ方も多いと思いますが、突起があるところにしかブロックははまらないですよね。それと同じように、ハウスメーカーで作る建築は、ある程度形が限られてくると思います。色や素材、設備機器なども限られた選択肢の中から選ばざるを得ない面はあると思います。
 設計事務所は“設計”のプロフェッショナルです。施工とは完全に切り離された会社で、独創的な建物を作ることができるがその代わり、コストはかかる。設計事務所の仕事は、設計料をもらって仕事をする訳ですが、日本人はあまり目に見えないもの――設計料にお金を払うという感覚がないんですね。日本ではまだ主流じゃない、マイナーな家の建て方かも知れません。
 デザイン性についてですが、差はやはり縮まってきている印象があります。でもハウスメーカーは基本的に規格品を使うのがベースだと思います。ある方がハウスメーカーに依頼した話ですが、その方の家には雨樋が付いていたのですが、場所が田舎の方で、森に近いところに建っている家だったので、どうしても落ち葉で雨樋が詰まってしまう。そのため『雨樋をなくしたい』という要望をしたところ、『特注扱いでコストが増額になる』と。そういうエピソードを聞いたことがあります。

自分が設計した建物で出来上がっていく様に感動、
顧客との交流も貴重な経験に

――建築の仕事で、“やりがい”を感じた経験を教えてください。

濱田 一番は、お客さんとの打ち合わせですね。ハウスメーカーの場合、設計職でもお客さんと打ち合わせをする機会は少ないようです。お客さんと打ち合わせして、自分が図面を書いたものが建物として現れてくるのが、何度見ても『いいな』と思う瞬間です。『こうした方が良かったかな』と思うこともあるので、終わりがないというか・・次につながるような仕事に“やりがい”を感じているのでしょう。初めて担当した物件では、できあがったとき、『この物件との付き合いも終わりなんだな』と少し寂しさがありました。
 給料なども重要だと思いますが、ずっと図面引いているだけでは面白くないだとか、そういう話はよく聞きます。設計事務所を探すときに、まず自分がどんな建物を設計したいのかを決めておくこと。それぞれの事務所がどんな建物を設計しているのか、自分のやりたいこととマッチしているのか。そういう視点で事務所を見てもらえれば良いと思います。ただ、30歳を越えたあたりからは、1人でもやっていけるような知識は持っておくべきだと考えています。

牧野 自分が設計した図面や模型などが職人さんの手で建っていくのを見るのが、楽しい瞬間です。うまく行くかどうか判断できるのがそのタイミングなのですが、一番ドキドキして“やりがい”を感じられるときです。1人でやっていることもあり、基本的に自分の手を離れることがない。ゼネコンやハウスメーカーは分担作業になると思います。現場の職人さんとのコミュニケーションも設計の仕事の1つでしょうね。一貫して見ますので、きちんと計画の段階や資金繰りのところから取り組み、施工しているところを監理して引き渡す。お客さんに『ありがとう』とお礼をいただく。それからも関係は途切れず続いていくので、非常に“やりがい”があると感じます。

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――設計事務所でのご苦労や、快適な仕事環境を整えるための取り組みはありますか?

濱田 最初のころは仕事の段取りが悪く、時間がかかっていました。今は午後7~8時には事務所を出ますから、かなり勤務体制は改善されていると思います。しかし全体のスケジュールが遅れ、納期がずれ込まないよう気を付けています。締め切り前など、大きな山を迎えるときはちょっと夜遅くなりますが・・それはもう必ずあります。

竹内 私は入社当初から徹夜はあまり多くなかったのですが、残業は結構あって、休日出勤もありました。今も残業は正直、1日大体2時間くらいあります。定時は午後7時ですが、そこから2時間くらい残業して皆が帰るというのが通常ですが、どんどん減らしていって効率的に仕事をしようという動きになってきました。手始めに、水曜日はノー残業デーに取り組んでいます。

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何でもないことが自身の大切な経験になる

――独立を決めたきっかけは?

牧野 僕は大学生のころから、いつかは独立したいなとずっと思っていました。一級建築士と管理建築士の資格が取れたら、すぐに独立しました。僕の卒業時は本当の氷河期で、100何人いる中で、設計事務所に就職した人間は3人くらいしかいなかった。みんなゼネコンやハウスメーカーへ行きました。
 構造設計者や設備設計者はそれぞれの分野のプロフェッショナルですが、意匠設計者はなんのプロフェッショナルでもないと思います。いろいろな所をかじらないといけない。お客さんとのコミュニケーションも取る必要がある。でも逆に考えると、何でも自分の経験になる。例えば、レストランで食事をとるだけでも経験になりますし、友達と遊ぶだけでも何かしらの経験になるので、面倒くさがらずに何でも取り組むことが一番いいのかなと。仕事を始めると大変なことが一杯あるので、この仕事をやろうと決めた“ポイント”が作れるといいなと思います。お客さんに怒られたり、嫌なことがあっても、そこに立ち戻れば「なんとか頑張ろう」と思えるポイント。場所でも経験でもなんでもいいのですが、あると助けられると思います。

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田辺 設計の仕事をしようと思ったのは大学4年のときだと思います。建築の学校へ行こうと思ったのは高校生のときでした。僕の田舎に、黒川紀章先生が設計した中学校があり、もうあまりにも独創的過ぎて、『何だこれは』と思ったのですが、建築が面白いと思うようになった1つの“きっかけ”だと思います。最初から独立しようと思っていたわけではありません。いろいろな経験に恵まれたこともあり、何となく『独立できるかな』と思っていました。石橋を叩いて渡るタイプなので、独立するまではかなり悩みました。でも、悩むよりは、目の前のできることをいろいろやったほうが時間の使い方としては良いと思います。

――皆さん、興味深いお話をありがとうございます。ここからは、会場の皆さんから質問をいただいて質疑応答の時間に入ります。

プレゼン力も面接時の重要なポイントに

――私は大学1年生なんですけど、将来やりたい仕事などを明確に考え始めた時期はいつか、教えていただけますか。

竹内 僕の場合は、本当に“いつ”というのはなくて、建築の設計を漠然とやりたい、と思ったのは高校生ぐらいのときでした。その後、大学に入りましたが結局、行きたい建築の方へ行けず、土木へ進みました。会社に入りましたが、2年ぐらい経ったとき、やっぱり『建築の設計がやりたかったんだな』と再認識したので、強いて言うならそのタイミングだったと思います。

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――今、大学4年生で、来年から大学院に進んで就職活動などが始まります。そのときに賞歴やポートフォリオなどは、アトリエ事務所に就職するときでも大事になってくるんでしょうか?賞歴などを(評価の判断材料として)見られるのかなと・・・

濱田 賞歴はもちろん、あるに越したことはないかなと思います。ただ、結局はどうプレゼンできるかという点も大事なので――実際、ポートフォリオを面接時に持参して、うまく説明できるかどうか、自分の言葉で話せているかどうか、そっちの方が気になるときもあります。僕も書類選考や面接などにも同席させてもらっていますが、プレゼンできる人とできない人との差がすごくあるように感じます。僕の経験ですが、大学4年生の人より専門学校生のプレゼンの方が抜群にうまいです。ポートフォリオの作り方などの授業があるようで、かなり作り込まれている。ポートフォリオは、設計課題をそのまま使うだけでなく、模型の写真を載せるだとか、コンセプト図を足すだとか、構成を変えるだとか、プラスアルファが必要でしょう。賞歴も判断材料の1つですが、プレゼン力や話し方などの要素も大事だと思います。

――皆さん、本日はありがとうございました。

トークイベント後は、懇親会を行いました。
登壇された設計者の方々に聞きたいことや話したいことなどを直接聞ける貴重な時間となったのではないでしょうか。設計者の方を囲んで、皆さん盛り上がっておられました。

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<今回のトークイベントを終えて>
参加者の皆さんが、真剣にお話を聞いてメモを取っている光景が印象的でした。大学1回生のご参加もあり、将来の働き方についてしっかりと考えている姿に刺激を受けました。
ネットやSNSでどんな情報でも得られる時代ですが、アトリエ設計事務所の情報は、まだまだ少ないのが現状です。アトリエ設計事務所の働き方について、あまりいいイメージを持っていなかった方や、働いてみたいけれど不安だった方にとって、今回のトークイベントは、アトリエ設計事務所について、前向きに考えられるきっかけになったのではないでしょうか。

今後も「A-worker」は、現場のリアルな声をお届けするイベントを開催し、建築業界を目指す方のバックアップをしていきます。興味のある方は、ぜひイベントにお越しください。

■建築設計者のための求人サイト「A-worker」


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