日本一「変態的」なシャープペンについて語らせてほしい
シャープペンを使い始めゼロシンと運命的な出会いをした中学時代。高校に進学し勉強量が増え生じた新たな悩み。そんなある日、とうとう出会ったのだ。あの「変態的」なシャープペンに。
高校で生まれたシャープペンの悩み
高校といえば大学受験がある。中学の頃以上にシャープペンの出番は増えた。その結果新たな悩みが生まれた。
手の疲れ。それはペンを使う上で避けることのできない宿命。もちろんどのメーカーもその解決を目指しあれこれと知恵を絞っている。いちばん有名なのは人間工学を踏まえて作られたパイロットの「ドクターグリップ」だろう。そのほかにも、グリップに工夫を施したユニの「アルファゲル」やゼブラの「エアーフィット」など挙げれば枚挙にいとまがない。
そんな悩みを抱えながらその日も文房具店を訪れる。シャープペン売り場に足を伸ばす。そこに「異様な形」のペンがあった。
規格破りのデザイン
ペンを垂直に立てたとき、点対称で線対称。これが多くのペンの鉄則だろう。でもそのシャープペンは違った。
(画像はJetPensより)
片翼の天使のように伸びた一本のアーム。なにこれ。使い方が想像できない。果たしてこれは書けるのか。ネタで作られたものなのだろうか。価格は800円台と高め。でもあまりに気になる。
名前を見てみる。その名は「ERGONOMIX ウィンググリップ」(発売元はぺんてる)。
「Ergonomics」は人間工学のこと。これはもしかすると遊び心ではなく本気に考えられたものなのかもしれない。思わず買ってしまった。
疲れないメカニズム
さて、このペンの売りは横についている「ウィング」にあるらしい。曰く、クリップを親指と人差し指の間に差し込むことで「第四の支点」となり力が分散される。その結果いくら書いても疲れなくなるとか。
実際に使ってみると、たしかに負担が分散する感じはする。だが問題がある。書きづらい。イメージ的にはペンの持ち方を変えたようなものだから当然だろう。ただこの書きづらさは使い続けていると慣れた。
慣れたとたんERGONOMIXは頼もしい相棒に進化した。ぜんぜん疲れない。普通のペンと比べ弱い力で書くことができるし、強くグリップをにぎる必要がないので肩の力を抜いても問題なく使える。これはいい。
異常な作り込みとロボットのような格好良さ
使えることはよくわかった。しかしこういう癖の強い道具というのは、往々にして作り込みが甘いところがあり不満点が出てくるものだ。
一方ERGONOMIXは使っているうちに好きになってきた。使うにつれ出てきたのは不満ではなく感心だ。このペン、不便に思う人がいそうなことへの対策が異常に精密に考えられている。作り込みがすごい。
さらに気に入ったのがデザインだ。細かい工夫とデザインが絶妙なバランスで調和している。その結果「メカニック」な格好よさに溢れているのだ。
この「作り込み」と「デザイン」の良さは目で見る方がわかりやすいと思う。順番に写真で説明していこうと思う。
1. ウィングを動かすだけで楽しい
まずはこれを見てほしい。
画像では伝わらないかもしれないが、回転部分は歯車になっており、噛み合わせが変わるたび「カチカチ」と音がなり適度な負荷が指にかかる。この感触が何ともいえず気持ちいい。楽しい。これを計算して設計した人はどこまで計算してこれを作ったんだろう。頭が上がらない。そういえばクラスで使っていた人にはカチカチしすぎて歯車がすり減ってしまった人もいたっけ。
2. ウィングの角度調整ができる
人によってシャープペンを使うときの角度は違う。そのため使いやすいウィングの角度は人によって違う。ERGONOMIXはその点もしっかり考えてある。
まずクリップを一番下まで回したときはこんな感じ。
これは普通だ。でも人によってはウィングの角度を変えたほうがもっとフィットするかもしれない。
そこで角度をもう少し上にしたいときを考えてみる。当然ウィングを上げるだろう。しかし、力がかかるとウィングは角度が変わってしまう。
その対策として、よく見るとペンの横にスライドできる部品がついていた。ペンとウィングのすきまに長細いパーツが挟まっているのがわかるだろうか。これを使えばウィングに負荷がかかっても動かない。なかなか地味で細かい工夫だ。ここまで考えられているのかと驚いた。
正直ウィングの歯車部分はある程度の固さがある。そのため、ストッパーがなくても実際に使えないことはない。でもそこを妥協せずに固定できるように機構を作る、その意気込みにしびれた。
3. ウィングの高さ調整ができる
人によって手の大きさは違う。そのためウィングの角度だけでなく高さも調整したいと考える人は多いだろう。こちらもきちんと考えられている。GIFを見てほしい。
横のつまみを押しながらスライドすることでウィングの高さが変わっていく。
カチカチとウィングを回し角度を調整。スライドさせ高さを調整する。この楽しさはさながらロボットの変形シーン。これだけギミックとこだわりがあり工夫が散りばめられているシャーペン、他にないのではないだろうか。
4. グリップ部分を回せる
さて、ギミックはまだある。シャープペンを使っていると「いかに均等な太さで書くか」という問題が出てくる。多くの人は書きながらペン先を回すことで対応していると思う。(線の太さの問題は歯車でペン先を回す「クルトガ」により新たな時代に入ったが、当時はまだ発売されていない。)
ここでERGONOMIXのデザインを思い出してほしい。ペンの横向きに出ているウィング。そう、ほかのペンのように手先でペンを回せないデザインなのだ。
しかしここまでこだわり抜いて作られたERGONOMIXだ。抜かりなし。使ってみるとその心配は杞憂であることがわかった。
グリップから下の部分が回る。あっぱれ。
求む再販
ウィングで手を支えるという常人では思いつかない発想と異様に作り込まれたギミック、そしてメカニックな格好良さ。「変態的」という理由に納得してもらえただろうか。
ERGONIMIX ウィンググリップは現在廃盤になっている。人を選ぶデザインと使い勝手だし、売れなかった理由はたしかにわかる。でもこれだけ気概のある製品を僕は他に知らない。
さらに今回調べてみて、今も一部の人からカルト的な熱狂的な支持を得ていることがわかってきた。Amazonで調べてみるとなんと1万5000円。これは根強い需要があるという証拠じゃないだろうか。ぺんてるさん、可能性は低いけど再販待ってます。
※公式のインタビュー記事に「ウィング」と記載があったため、用語を修正しました。(07/04)
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