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顔のみえるローカルコミュニティが育む、豊かな生業づくり(前編)

東京から一番近い棚田「大山千枚田」のある千葉県鴨川市の大山地区。2009年に農家民泊の取り組みが始まり、都市農村交流が盛んになっていきました。昔からこの地域は部外者を受け入れる素地があると聞きます。
築130年の古民家、太右ヱ門(たえんどん)の屋号で親しまれる農家民泊をホストする首藤(すどう)さんも2004年に移住したひとり。地元の想いと外からの目線で、地域や生業についてお伺いしました。

たえんどん入り口

懐かしい記憶をくすぐる味と空間

太右ヱ門(たえんどん)のオーナー、武宏さんは兵庫県のご出身。奥さまとお義母さま、2人の娘さん、ヤギや鶏たちとの生活です。「農家民泊」とは農作業などを体験し、ありのままの農家生活に触れながら滞在してもらうのがコンセプト。お母さんのさりげない心遣いに見守られて、田舎の親戚の家に遊びに来たような感覚です。ご先祖代々の眼差しがある穏やかで心地よい住空間や、育てた野菜でつくる家庭の味など、懐かしい記憶をくすぐられるよう。

たえんどん1

たえんどん2

新型コロナウイルス以前は、海外からのゲストも年5回以上受け入れていたそうで、一生ものの体験となるよう文化交流や対話を続けてこられたとか。

旅の宿は第一声に予感します。扉を開け、迎入れてくれる挨拶の声に宿の顔つきを感じるのですが、とても優しいものでした。

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地域に惚れ込み、土地が故郷になっていくまで

ご縁のあった鴨川に移住し、自然農と向き合いながら都市農村交流を行うコミュニティづくりに奮闘された武宏さん。大学では法律を学び、土に遠いところからの一転でした。苦楽を共にする仲間たちの存在に支えられ、面白がって何でもやってみようと日々を積み重ねてこられたそう。見聞きしながら土を耕し種をまき、家畜の世話に試行錯誤し、時には猪などの獣害に直面することも。
それでも困った時に助けてと言える友人、家族のように自分を受け入れてくれる仲間たちとの時間やご縁の面白さに、豊かな未来のくらしを見出します。

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未来の構想を練りながら年月が経ち、ふと美しい田畑の風景は日々のくらしが生み出していることに気が付いて、心打たれた瞬間もあったそう。農という思想と調和が身に沁み、地元の顔になっていったのかもしれません。

「災害があってもこの地域を愛し住んできた人たちがいる。この地域を愛しているからこそ、 未来を想像して、しがらみを越えていくことができると信じている」

くらしを囲む自然界に忠誠を誓うような感謝があり、誰かを支えるという役目に意味を見出してきた人の言葉かもしれません。どう生きるかに実直で、出会った人や関わりをもった人を自分の隣人として大切にするお人柄。相手に真っ直ぐ思いを伝える姿勢や、丁寧な言葉選びに、コミュニティづくりを大切にする熱意を感じました。

チーズ

名もなき人々が積み重ねた風土と一体になる

都会にいて移住や二拠点生活を考えるとき、まず悩むのが仕事のこと。都心とは環境が大きく違うため、覚悟とか心のあり様を深掘りしては先送りにしてしまいがちです。鴨川を行き来していると、都心で最新情報に注目し、技術やアイデアに追いつこうと背伸びしている次元との違いに気がつきます。農村では五感から身体に落ちてきたことを自問し、理解することが先なのです。

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地域では暗黙の了解で周囲の誰かが孤立しないよう、距離を保ちながら見守っているそう。お金に頼らず、顔の見える信頼でくらしが整っていくことが分かりました。

無数の無名な人々がつないできた土地の物語があり、過去・現在・未来をつなぐその一点として暮らしていくこと。名も無きであることに意味があり、表面ではなく、地中深くと繋がっている安心感が田舎のくらしにはあるのかもしれません。
現在は議員秘書もされているので、何となく聞きづらい政治の話も武宏さんとなら盛り上がれますよ。

武宏さん

コロナ禍で、奥さまの喜子(よしこ)さんがじっくりと向き合った働き方、地域の資源を生かす生業についてもお伺いしました。
【後編:顔のみえるローカルコミュニティが育む、豊かな生業づくり(後編)

あわたび 文:橘 聖子

農家民泊 太右ヱ門(たえんどん)
住所 千葉県鴨川市佐野332
電話 04-7098-0709
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