2019.07.02 入国を拒む国の自動化ゲート

187. 薄暗い列車に乗り込んで
188. マシンガンとリンゴ
189. 入国を拒む国の自動化ゲート

187. 薄暗い列車に乗り込んで

ハーグの中央駅に着くと、スキポール空港を通る電車は既にホームに到着していたが、車両の中は薄暗かった。しかし扉は開いている。席に座っている人の姿も見える。扉の一つから中に入ると、ちょうど2階部分から降りてきた車掌さんのような人がオランダ語で朝の挨拶をしてきた。「そろそろ挨拶くらいオランダ語でできるようにならないとな」と思いながら2階に上がると電気のついていない車両の中に1人だけ女性が座っていて「Hi」と挨拶をしてきた。ハーグはオランダの中で3番目に大きい都市だが、中心部を離れると道ゆく人が挨拶を交わす。そういえば先日Tilburgに行ったときは、電車で向かいに座った人が話し出し、もう一人後から来た人もその話に加わる様子を見た。3人はもともと知り合いではないようだった。そこに居合わせた人同士が話しを始めるというのは珍しくない。オランダ語か、英語か、それともまた別の言葉か、とにかく話していることは分からないので、どうやって会話が始まるのかいまだに不思議で仕方ない。

駅の改札を入る前の広めの通路の部分では、ピアノを弾いている人がいた。オランダの駅、特に中央駅と呼ばれるところにはピアノが置いてあることが多い。そしてそのピアノを弾いている人を見かけることも多い。なぜだか分からないが、今思い出してみると、ハーグの駅でピアノを弾いている人は圧倒的に男性が多い。学生のような人から年配と呼ばれる年齢の少し手前くらいの人まで、まるで駅であることを忘れているかのように、思い思いに演奏をしている。その演奏はいわゆる「上手」だとは限らないのだが、むしろ人の目を気にせずに弾きたいものを弾いているという姿が清々しく見える。以前オランダ人の友人にオランダの駅にピアノがあるのはなぜかと聞いたが、「その場所の雰囲気が良くなるように、昔からピアノがある」というざっくりとした回答だった。オランダの人には駅にピアノがあることが当たり前すぎて、「なぜあるのか」ということをわざわざ考える機会自体がないのかもしれない。クリスマスの時期にはピアノの演奏に合わせて歌う人々がいることもある。誰かのためではなく、本人たちが楽しくてやっていて、それが結果的に周囲の人を楽しませるというのはオランダの人の在り方を象徴しているようにも思う。

起きた時刻がものすごく早かったわけではないが、まだ身体が起ききっておらずむしろ血圧が下がっていっているように感じるのは、目覚ましを使って目覚めたことと、いつも朝に飲むドリンクに加えてバナナとカカオニブを混ぜたものに豆乳をかけたものをかきこんできたからだろうか。胃から背中にかけてエネルギーが吸い込まれていくことを感じる。スキポール空港に着くまでの間、以前書いた日記の編集をしようと思っていたがどうも頭が働きそうにない。久しぶりに読み直そうと持ってきたアドラー心理学についての本を眺めて残りの時間を過ごそうと思う。と言っても、もうライデンに着くのでその次のスキポールまでは15分ほどだ。地元の福岡は空港が福岡市の中心部から地下鉄で15分ほどのところにあり随分便利だと思っていたけれど、ハーグも(ライデンからだと更に)空港に行くにはなかなか便利だ。トラムからの乗り継ぎが良ければ1時間かからずに空港に着く。電車の座席はライデンから乗ってきた人でほぼ埋まった。右斜め前方からの太陽の光を受けながら、電車は再び走り出した。2019.7.1 Mon 7:18 Den Haag – Leiden

188. マシンガンとリンゴ

スキポール空港の入り口のホームには警官が3人いた。ガッチリとした体に防弾チョッキをつけ、マシンガンを持つ姿を見て、どんなに普段治安の悪さを感じることがなくても、ここが日本とは根本的に大きく違う場所なのだということを思い出す。一昨年ドイツで暮らし始めて最初にドイツの警官を見たときは胸がとてもざわざわした。やましいことは何もしていないのになぜこんなに心がざわつくのだろうと思って考えると、警官が体からはみ出るくらい大きなマシンガンを抱えているからだということに気づいた。日本の警官も拳銃を持っているのだろうけれど、それを意識したことはなかったし、ましてや本物のマシンガンを見たのも恐らく生まれて初めてだったのだろう。その後、やはり何度見てもマシンガンを持つ警官の姿は私にとっては異様であり続けている。クリスマスマーケットのような場所だと余計に楽しい雰囲気とのコントラストがハッキリとする。その物々しい姿を見る度に、様々な民族や宗教の人が暮らす場所であること、そして民族や宗教・国家の間にある対立のようなものが今もなお世界には存在しているということを実感する。

前回ドイツに向かうときに通ったセキュリティチェックではスーツケースからPCなどを出すように言われたが、今回はスーツケースを開こうとするとそのままでいいと言われた。しかし、PCと液体を入れているせいか、案の定、チェックの機械を通った後、スーツケースは検査員のいる再チェックをする側に流れていった。セキュリティチェックの機械の横には画面を見つめる係員がいる。以前、普段は見えないその画面が見えたことがあったが、そこにはちょうど、リンゴの形が表示されていた。Macの本体のリンゴマークのところだけ金属が切れていて、その形が表示されていたのだった。いつ頃からそういう仕様になっているのかは分からないが、検査員が初めてそれを見たときには驚いたことだろう。何だか分からないがリンゴマークのものがあるのだ。まだMacのノートパソコンがメジャーいなっていないときは、「最近、あのリンゴのパソコン増えてきたよね」なんて会話がセキュリティチェックの検査員の間で交わされていたのだろうか。忍び寄る、もしくは急速に訪れる世の中の変化を最初に感じる場所は空港のセキュリティチェックなのかもしれない。

ガラガラだったセキュリティチェックに比べるとパスポートコントロールは割と人が並んでいて、ゲートを抜けたときにはもう搭乗時刻が近づいていた。2019.7.1 Mon 11:43 London

189. 入国を拒む国の自動化ゲート

飛行機のタラップに出ると、スキポールに吹いていた風よりもずっと涼しい風が走ってきた。今回持ってきた服は寒かったかもしれない、しかし、都心に近づけばもっと気温が上がるかもしれない。そんなことを考えながらターミナルの中を歩く。到着したルートン空港を使うのが初めてかどうか記憶が曖昧だが、少なくともロンドンの空港で、パスポートコントロールが自動化ゲートになっており、EU圏の人以外も通れるというのは初めてで驚いた。(どうやら最近イギリス内の空港はどこもパスポートコントロールが自動化されたゲートになることが進んでいるらしい)ロンドンと言えばパスポートコントロールが厳しいという印象だ。

初めてロンドンに来たとき、ヒースローは人も多くてパスポートコントロールが厳しいと聞いていたのでLCCの発着する別の空港を選んだのだが、それでも入国の壁は高かった。その当時は持っていたのがドイツで発行された紙の語学学生のビザだったということもあるかもしれないが、何のために来たのか、仕事は何をしているのか、日本の家族に収入はあるのかと、事前にネットで調べていた通りあれこれと立ち入ったことを聞かれ、日本の銀行のネットバンクの画面で残高まで見せることになった。観光で1日だけ滞在するというのが逆に怪しく思われたのかもしれない。そして観光で1日だけ滞在するのに半年分の滞在許可のスタンプを押された。そんな風に一度入国すると長期間滞在することができてしまうので、不法就労を防ぐという意味もあるのだろう。「女性が一人で来ると滞在許可欲しさに現地の人と結婚をすると思われるので特に入国審査が厳しい」と書かれているサイトもあった。フリーランスの独身女性に対する風当たりが強いというのは日本とイギリスに共通している。

入国は厳しかった割に出国時はパスポートではなく航空券にスタンプが押された。出国した際にパスポートのスタンプを押されていないと次に入国するときにトラブルになることがあると聞いていたので次にイギリスに行くときに念の為スタンプの押されたチケットを持っていったところ、案の定、パスポートコントロールで前回はいつ出国したのかと尋ねられた。出国した印であるチケットを見せると今度は「あなたは1日の滞在だったのになぜ6ヶ月の滞在許可のスタンプを押されたのか分からない」ときた。とにかく私の中でイギリスは「入国を拒む国」である。そんな国が自動化ゲートで通そうとしてくれたこと、そして自動化ゲートを通れるEU以外の12の国に日本が入っていることに感謝をしつつゲートでパスポートの読み込みをし、顔写真が撮られるのを待ったがなかなかゲートが開かない。しばらく待ったがやはり開かない。そして有人ゲートを通るようにというアラートが出た。どうやらパスポートの写真と今撮られた写真の照合ができなかったらしい。確かに滑走路を抜ける風に煽られた髪はボサボサでパスポートの写真とは随分違っているかもしれないが、パスポートを更新した約2年前から歳も取ったということだろうか。そんなことを考えながら、有人ゲートで写真をちらりと見られ機械にかざれたパスポートを受け取り、荷物の回る回転台のあるホールを抜けて、空港のロビーへと進んだ。2019.7.1 Mon 12:16 London

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