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女性の活躍

「育休を延ばすことにした」と友人が言った。その傍らで、1歳になる彼女の娘が昼食を食べている。娘は時折皿に手を伸ばし、うどんやニンジンのかけらをつかむと母親の口に押し込んだ。平然とそれを飲み込む友人の姿に、親になったのだなと改めて思う。

彼女は当初、もっと早く復職するつもりだったらしい。しかし幼い子と過ごせる時間は今しかないと思い至り、育休の延長を決めた。さまざまな葛藤があったことだろう。それでも自分の望みを探り当て、決断を下したことを私は尊敬する。

「女性の活躍」がうたわれて久しい。私たちは結婚し、出産し子を育て、働くことを期待されている。そうすることを望む女性への、待遇の改善やサポートは不可欠だ。しかしまず大事なのは、女性自身がどのように生きていきたいのか、自分で決めることではないだろうか。

国の言う「活躍」が、全ての女性が求めている生き方だとは限らない。かと言って自分が本当はどうしたいのか、掘り下げて探ることは労力を要する。けれど迷いながら進む様子や、そうしてたどり着く場所には私たち個人の物語がある。その物語を生きることこそ「活躍」だと私は思う。

友人と私が違うように、私たちは皆違う。その違いを尊重し合って初めて、私たちは「活躍」できる。食事を終えた娘が母親に甘え、母親は娘を抱き寄せた。この子が大人になる頃には、もっと伸びやかに物語を描ける社会であれば良いと思う。その責任は、今を生きる私たちにあるはずだ。

(2018年4月15日 徳島新聞朝刊掲載)

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