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伝統的工芸品産業と藍

昭和49年(1974)に「伝統的工芸品産業の振興に関する法律」が通商産業(現:経済産業)省によって制定されました。伝統的に使用されてきた原材料を用い、伝統的な技術、技法によって製造することが挙げられていますが、目的は地場産品を生産し流通させ、産地が存続することにあるように思います。当初から「持ち味を変えない範囲で同様の原材料に転換することは、伝統的とする」と、重要無形文化財に比べると材料に対しても技術に対しても継続性を踏まえて、時代に即した変化が認められている基準になっていました。

   「日本の伝統織物」

伝統的工芸品産業の振興に関する法律により通商産業(現:経済産業)省によって認定された主な織物は結城紬、伊勢崎絣、桐生織、黄八丈、塩沢紬、小千谷縮、加賀友禅、信州紬、有松・鳴海絞り、近江上布、西陣織、京鹿の子絞、弓浜絣、博多織、久留米絣、本場大島紬、久米島紬、宮古上布、読谷山花織、与那国織などです。昭和53年(1978)阿波正藍しじら織も認定されました。平成27年(2015)には経済産業大臣により選定された伝統的工芸品の染織関係は47点まで増えています。

選定された織物は、催事の企画、雑誌の特集にも「日本の伝統織物」として多くの人の知識に、江戸時代から続く特別な織物として記憶されることになりました。

   

   久留米絣

昭和51年(1976)文化財保護法の改定によって、重要無形文化財の団体で指定を受けている久留米絣に技術保存者会が発足します。同年に「伝統的工芸品産業の振興に関する法律」により久留米絣が伝統的工芸品の指定を受けます。この時点で小千谷縮や宮古上布、久米島紬を含む染織関係は23点が指定されていますが、その後結城紬と芭蕉布も指定されます。
重要無形文化財と伝統的工芸品産業の指定を両方受ける結城紬や小千谷縮・芭蕉布・宮古上布・久米島紬・久留米絣の曖昧な商品展開が始まります。どのような意図で行われたのか疑問ですが、重要無形文化財で指定された織物と「伝統証紙」の付いた伝統的工芸の織物にどのような違いがあるのか、多くの消費者にとって区別や認識に混乱を与えたことと思います。越後上布のみ重要無形文化財だけの指定で継続されました。


   阿波正藍しじら織

昭和53年(1978)に選定された阿波しじら織は昭和12年に一度生産が中止になり、戦後復活していました。「阿波正藍しじら織」の指定基準は1:先染めした綿糸を用いること。2:染色は蒅/すくもをブドウ糖、ふすま、苛性ソーダで還元可溶化した藍染であること。3:しじら織であること。このしじら織とは藩政時代に「たたえ織」といわれていた原組織の平織と、経糸3本(たたえ糸)を引き揃えた緯畝織とからなる混合組織です。しかし実際に生産されている物は「先染めを蒅/すくものみによって行うことは産業としては成り立たない、蒅は高価で経済的に折り合わない」と、選定の伝統的工芸品として阿波正藍しじら織を展開している事業所はなく、展示用に保存しているだけです。市場にでているのは「徳島県伝統的特産品」のしじら織です。こちらの染めは一般に高温型反応染料を用い、紺色のみ反応染料で染め上げた後、蒅/すくもをハイドロサルファイトと苛性ソーダを用いて還元した染液に1回のみ染め「阿波しじら織」と称して市場にでるわけです。よく調べれば偽装ではないのですが、情報発信された映像、パンフレットをみると多くの人は「阿波正藍しじら織」と思ってしまいます。いずれにせよ、昭和50年代これらの織物が天然藍による染めが規定されていないことを伝えても、一様にわたしの提示する内容に不審を持たれました。

藍製造に関して云えば昭和53年の時点で40年の4haよりは増えて15haまでにはなりましたが、とても「日本の伝統織物」の藍染に使用される生産にはなっていません。

伝統的工芸品を推奨する方法として精巧な紛いもの、類似品からの識別のめやすを提供することが重要だと「伝統証紙」などを貼付しました。しかし消費者にとっては伝統的工芸品の内容を理解しないまま「伝統証紙」の付いた伝統的工芸品を国のお墨付きとなった「工芸品」だと思ったかも知れません。皮肉なことに「重要無形文化財」の精巧な類似品を作る結果になりました。

「伝統的工芸品産業の振興に関する法律」によって伝統的(100年以上の歴史を有すし、現在も継続している)工芸品づくりを伝承することは困難で、それは産地の技術・技法の保護より地場産業産地の経済的な発展を振興しているからです。そして伝統的工芸品の生産額は昭和49年以降、経済成長のなか年々増加を続け59年(1984)には生産額が最高となりました。

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https://www.japanblue.info/about-us/書籍-阿波藍のはなし-ー藍を通して見る日本史ー/
2018年10月に『阿波藍のはなし』–藍を通して見る日本史−を発行しました。阿波において600年という永い間、藍を独占することができた理由が知りたいと思い、藍の周辺の歴史や染織技術・文化を調べはじめた資料のまとめ集です。


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