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【イベントレポート】防衛テックイベント Defense Tech Meetupから見る日本の防衛テック

スカイゲートテクノロジズの代表をしている粟津です。
先日、弊社では、日本で初めてとなる防衛テックイベント DEFENSE TECH MEETUP を主催しました。本記事は、そのイベントレポートと、イベントからみる日本の防衛テックについて書き連ねたいと思います。


弊社スカイゲートテクノロジズについて

防衛・セキュリティのプロダクトを開発提供しています。
代表である私、粟津は防衛省・自衛隊の出身者であり、チームも元自衛官、スタートアップ経験者からなる日本でも数少ないスタートアップではないかと思います。(戦闘機の運用からRustによるコーディングまで、多彩なタレントが集まっている会社と自負しています)

ご興味のある方は、ぜひこの記事最後のリンクより、弊社のホームページをご覧ください!

スタートアップ向け防衛勉強会|DEFENSE TECH MEETUP

今回、弊社では、スタートアップサイドが発案する形としては初の防衛テックに特化したイベントとして、Defense Tech Meetupという勉強会イベントを開催しました。
このイベントは、日本の防衛テックを盛り上げる、という意味と思いを込めたSTARTUP in DEFENSE JAPANという弊社の取り組みの1つです。

イベントでは、40社以上、100名近くが参加いただき、防衛領域に対する興味関心の高さを感じました。

スタートアップをはじめ、VC、関係機関にもご参加頂きました。

開催サマリ

企業別での内訳は、次のようなものとなっています。

グラフからわかるように、宇宙関連事業者の参画が最も多く、ついで、VCという構図となりました。これは、弊社が元々宇宙関連事業を営んでいた、という弊社のソーシャルが反映された結果でもありますが、一方で、宇宙と防衛領域の高い連続性を表しているとも感じています。

開催プログラムの概要(弊社資料より抜粋)

今回のプログラム内容は、勉強会を兼ねており、主に弊社のインプットセッションを中心にしつつ、大きく企業間の交流の時間をとりました。

(非公式ではありますが)自衛隊幹部も参加頂き、良い意味で異業種が関わりを持てる時間を提供できたのではないかと思っております。

なぜやったのか

このイベントの背景には、私たちの課題認識、つまり「安全保障とテクノロジー環境の劇的な変化に、スタートアップはどのように関わっていくか」というものが大きく関連しています。
これを説明するにあたって、防衛テックが何であるのか、どのような市場であり、背景を持っているのかを少し解説しなくてはなりません。


防衛テックとは

防衛テック、つまり、Defense Techとは、安全保障・防衛(軍事)領域に対して、AI、クラウドなどのデジタルテクノロジーを用いて、領域課題を解決する企業の総称です。
金融領域課題を解決するFinTech、女性の課題を解決すFemTechなどと同様、特定の社会領域の課題をテクノロジーで解決するトレンドのうち、まさに文字通り「防衛xテクノロジー」がかけ合わさった領域の課題解決を主眼としている企業といえます。

市場:時価総額10兆円を超える企業が登場する米国の防衛テック

さて、日本では馴染みの浅い防衛テックですが、米国、英国、イスラエルなどを中心に、デジタルテクノロジーを防衛領域に全面的に適用する動きは今から20年以上前から諸国に見られ、官民ともに積極的な投資が行われている領域です。
米国の巨大テック企業の頭文字をとったGAFAやFAANGと同様、高い企業価値・時価総額を有する防衛テックとして、2024年現在、SHARPEと呼ばれている企業群がよく知られています。

SHARPEを構成する企業群。※弊社調べ。

これらの企業は、米国防総省または安全保障関連省庁と強いつながりがあり、ソフトウェア・ハードウェアの両方で様々なソリューションを提供しています。

SHARPEの中には、軍需産業の雄の1つであるノースロップグラマンに匹敵する時価総額に達する企業も登場しており、大きな存在感を示しています。(※最もこの企業=Palantirはとても特別な例ですが)

SHARPE主要各社の時価総額。※弊社調べ。

なぜ防衛テックが注目されるのか

ここには、時代、領域、市場という3つの背景が関係しています。

時代:不安定化する国際社会と厳しさを増す安全保障環境

安全保障に関するニュースは、近年メディアを賑わす機会が増えつつあるのは皆さんも感じるところが多いのではないかと思います。

冷戦以後の戦争は、アメリカのテロとの戦いや地域紛争が主たるものでした。しかし、2022年のロシアによるウクライナ戦争は、大国の力による現状変更の試みとして、国際社会に大きな衝撃を与えました。

2023年1月14日のロシア軍のミサイル攻撃により破壊されたウクライナ 中部ドニプロの集合住宅(2023年1月)【ウクライナ政府Facebook】

また、日本の周辺諸国も、現実的に安全保障上の不安定な要素が増えつつあると言わざるを得ず、年々、防衛白書はカラフルになる一方です。

令和5年(2023年)の防衛省発行の防衛白書の1ページ目。初めて確認された活動のみを記述するこのページだけでも、大変にカラフル。

かつての冷戦における代理戦争時代や地域紛争といった構図とは異なる安全保障の課題は、単純に国家間の対立という課題ではなくなりつつあります。
この数年で、小麦や燃料価格の高騰といった経済的サプライチェーンを通じた一般市場への影響、フェイクやサイバー攻撃のような秩序を破壊する脅威などを感じた方も多いのではないかと思います。
まさに、私たちは、このような時代の中にあるわけです。

領域:新領域の誕生と国際協力にもとづく防衛

安全保障の世界では、陸海空に加え、宇宙空間、サイバー空間、電磁波空間の3つを新たな領域(New Domain)と呼称し、これらも含めた安定の確立が課題とされています。

防衛省の宇宙・サイバー・電磁波に関するホームページに詳しく載っています。

これらの新しい領域、通称「宇サ電」領域は、何も今に取り組みが始まった領域ではなく、前世紀から米国を始め、各国は安全保障上の重要分野として意識して取り組みを続けてきました。

この新しい領域の最大の特徴は、明確な境目(Boundry)が存在しない点にあります。宇宙もインターネット空間も無線の電波も、目に見える明確な国境などはありません。それは極めて巨大で連続的な空間です。
これはつまり、誰かが悪意を持って支配しようと試みた場合には、多くの国家を巻き込んで社会に大きな影響を与える、ということです。

また、既存の戦力がほぼ存在しないという点も特筆します。偵察衛星といった軍事用途センサーがないわけではないですが、これらの領域においては、戦車や戦闘機のようないわゆる兵力のようなものはなく、民間の積極的な利用も相まって、この領域の安全保障は従来の兵力配置とは異なる考え方が必要です。

一方、この領域に対する社会の依存度はますます増大しています。人工衛星による天気予報やGPSの利用、インターネットによるさまざまなサービス、4Gや5Gを中心としたネット接続は、今やどの国でも社会インフラといっても過言ではありません。

このような背景から、国際社会の安定のためには、国境なきこれらの領域において、それぞれの国が、それぞれのシーズを出し合いながら協力して平和を守る、という構図が誕生しつつあります。
ここでのイニシアティブは、軍よりも民間であり、月面のアルテミス計画NATOサイバー防衛協力センターなど、民間が大きく関わるものも珍しくありません。

市場:テクノロジーの発展と安全保障ニーズの相互作用

さて、ここまでは安全保障に詳しい方であればよくご存知の内容であると思います。ここで私たちのようなスタートアップ企業が語るべきは、この時代・領域的背景に、どのように市場が関与し、どのような機序が働きつつあるのか、という点です。

この分野、つまり先端技術やテクノロジーと安全保障でよく知られているのは、米国防総省傘下のDARPAです。
様々な先端研究の担当部門として、レーザー砲から超能力まで、可能性のある手段を全て検討してきたと言われても過言ではない歴史を有しています。

DARPAホームページ。DARPAは実際のところ、国防総省の内部部局の1つであり、生物、先端科学、マイクロ領域(量子など)、戦略技術、戦術技術、ITという6つのオフィスがある。

元来、軍事研究投資とは、陸海空の領域において、圧倒的優位または効率を実現するためのものです。戦争とは、その理論上、性能優位や経済性がその勝利に大きく直結します。

コンピュータ、インターネット、無線技術、暗号理論、ロケット、GPSなど現代社会の基盤的技術のいくつかは、これらの軍事研究投資によって誕生したり加速したことはよく知られています。
一方、過去には、軍事研究投資が効率的な殺傷兵器や破滅的な結果を齎しかねない戦略兵器の礎となったという反省もある分野です。

デュアルユースと時代に伴う変化

これらの軍事研究投資は、通常、軍のために実行され、その研究結果は基本的に軍が使い、民間にはデグレードして提供されることが一般的でした。

この時、単一の技術を軍事ユースケースと民間向けユースケースに対応させることを「デュアルユース」などと呼称します。

従来のデュアルユースの基本的な流れ

デュアルユースは、ここ30年で大きな転換点を迎えました。デジタル技術の登場によって、軍用と民用の境目はどんどん狭まり、更には、コンピュータやクラウドなどは、軍用よりも民間市場向けのものの方が実績、性能共に優れているということも起きています。

市場を発端とするデュアルユース

そして、これらデジタル領域において、デュアルユースにはもう一つの流れ、つまり、民間テクノロジーを軍事研究投資によって軍用にも使えるように成長させるという形態が登場しました。この流れは、異なる側面で影響を与えます。
つまり、「軍事研究投資されている案件に投資家が投資することで、よりレバレッジをかけられる」という市場効果です。

防衛テックの誕生

安全保障とテクノロジーという掛け合わせにおいて、奇しくも時代と領域はこのスキームに合致するものでした。
国境なき世界において、軍事的な課題と社会課題は「技術を素早く発展させて、社会の安定に寄与するものを生み出す」と言う点で共通の方向性を得たとも言えます。

時代の流れの中で、テクノロジーに立脚したビジネスを立ち上げる、その資金調達を政府と市場の両方を利用することができるもの。これが防衛テックという概念の本質的な成立背景と言えるでしょう。



イベントの実施背景:防衛という社会課題に向き合うために

さて、話はイベントに戻ります。

今回の開催イベント、DEFENSE TECH MEETUPは、日本の防衛テックがどのようにあるべきかというテーマを根底に据えて、防衛領域に関するスタートアップ側の勉強会という体裁で行われました。

防衛、ひいては、安全保障というのは決して単純な課題ではありません。しかし、先に述べたとおり、今私たちが立っている社会や時代は、間違いなくテクノロジーと安全保障が最も密接な関係を有する中にあり、政府政策担当者や自衛隊だけでなく、テクノロジーを作り出し取り扱う立場たるテックスタートアップや投資家も一緒となってこの課題に向き合って共に解決する在り方があるべきと考えています。

イベントの最後に紹介した次のような写真があります。

この写真は、米空軍で行われたハッカソンの写真です。
制服を着た軍人と、西海岸の雰囲気をもつエンジニアとが一同に介していたこの写真を、私は羨ましいなという思いで見ていました。
防衛とテクノロジーに向き合うというのは、まさにこの写真に表されるようなものではないか、日本でもこんなシーンが(プロパガンダ的ではなく自然に)訪れたら良いなと思っています。

スタートアップ・イニシアティブで考えていく防衛テック

今回、弊社が開催したイベントの背景は、このような課題認識を持っている方が、私たちだけでなく、スタートアップサイドにも官サイドにも、何人かいらっしゃり、様々な想いを抱えているということを直視したことが理由の1つです。

日本の防衛テックの成立、ひいてはテクノロジーと防衛というあり方に関して、少なくとも誰かが矢面に立って、この課題感を共有しながらムーブメントを起こしていかなければ、この分野に硬直したまま、日本の防衛やテクノロジーマーケットは国際社会から軽視される時代を迎えてしまうかもしれません。

数多くのスタートアップが、既存の産業に対してまだ見ぬ価値を提供し、社会課題を解決してきたのと同様に、今回のイベントにご参加いただいた皆様と協働して、防衛とテクノロジーという課題を解決し、より良い社会を作っていければと思っています。


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