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[1/3]一般意志2.0とAI―東浩紀 『一般意志2.0 ルソー、フロイト、グーグル』を読んで

第2回:一般意志2.0とITシステムの未来
第3回:AIとコミュニティ

この記事は、あくまで東浩紀氏の「一般意志2.0 ルソー、フロイト、グーグル」を読んだ方向けのものであり、私個人の感想と解釈を備忘録的に述べています。


再定義される集合的知性とその可能性

最近、東浩紀の「一般意志2.0 ルソー、フロイト、グーグル」を手に取り、その中に描かれる「無意識」による集合的知性の発想が、私の認識を一新し、これまでの政治理論や民主主義についての理解を大きく揺るがせました。この重要な視点から、私はAIとの相互関係性を新たに探求し、その可能性と限界について深く考察してみたいと思います。

具体的には、東浩紀の提唱する集合的無意識の理論が示すところの「一般意志」の捉え方を、AIのパラダイムとしてどのように解釈し、どのような示唆を得られるかを検討します。

特殊意志と一般意志のベクトル空間

「一般意志2.0」では、東浩紀は、それぞれの人々の「特殊意志」をベクトルとして解釈し、「一般意志」をそのベクトルの集合体と捉えています。これにより、一般意志と特殊意志の概念が、具体的かつ計算可能な情報空間の評価ツールとして再構築されました。

このアプローチは、AIの研究と一般意志の理論を結びつける鍵となります。特に、自然言語処理の手法であるWord2Vecが、この新しい概念フレームワークの有用性を実証する一例として挙げられます。「意見」を「言葉」によって表現することを考えると、これらの意見を高次元ベクトル空間に配置し、一般意志を計算し直すことが可能になるという洞察が得られます。

大規模言語モデル(LLM)は、大量のテキストデータから言語のパターンを学習します。これらのテキストデータは多数の人々によって書かれたもので、そのため、それらは人々の考え、信念、価値観の広範なスペクトラを反映しています。LLMはそのすべてを学習し、新たな文の生成や質問への回答を行う際にこれらの知識を活用します。

このように見ると、誤解を恐れずに端的に表現するのであれば、LLMは一般意志の実装例と言えるのではないでしょうか。なぜなら、LLMは多様な個々人の書いたウェブ上のテキスト(≒意志)を学習し、それらを統合して新たな回答を生成するため、その結果は集団の「一般意志」を反映したものと言えるからです。もちろん、LLMは完全な意志を持つ存在ではありませんが、集団の意志をある程度模倣する能力を持つという観点から、このような表現を用いています。

LLMという新しい技術と東浩紀氏の「一般意志2.0」という思想との間の関連性は、今後もう少し考えてみたいと思います。

多様性予測定理とLLM

ここで「多様性予測定理」を考えてみましょう。この定理に基づくと、LLMは一種の「意見集約器」であり、それは多数の人間からの情報を一つの回答や予測に統合します。LLMの学習データは人々の意見の集合体であり、それゆえに、LLMの予測の精度は、その学習データとして供給された人々の知識と洞察の多様性によって制約されます。

つまり、LLMの性能上限は、その学習データとして供給された人間の集合の「多様性」に依存するかもしれないと言えます。

AIとしての立法者の可能性

ルソーの社会契約論に基づく立法者の描写は、一般意志を実際の政策や制度へと具体化する超人的な存在として示されています。
この立法者の役割を果たすかもしれない存在として、AIが挙げられそうです。

具体的には、ChatGPTなどの大規模言語モデル(LLM)が立法者の役割を果たすことができる可能性について、今後より深く考察してみたいと思います。

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