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「シーモアさんと、大人のための人生入門」

原題:Seymour: An Introduction
監督:イーサン・ホーク
製作国:アメリカ
製作年・上映時間:2014年 81min
キャスト:シーモア・バーンスタイン、イーサン・ホーク

 イーサン・ホーク氏が昔から好きで先ず選択肢に掛かる。次に映画のテーマがクラシックピアノということで迷わず映画館へ足を運ぶ。私にとっては最高の組み合わせとなる。イーサン・ホーク氏初めてのドキュメンタリ監督作品。

 50歳で一線(コンサートピアニスト)から身を引いた後は主として後進の指導に当たられる。舞台から降りられる辺りは背景は違ってもグレン・グールドがすぐに浮かぶ。長年住まわれているお住まいは一見隠遁生活ように見えても、その豊かな人間性の元に多くの人々が訪れ、其処に孤独はない。

 生徒らに教えてるのは決して表面的な、或いは他者に評価され易い音楽的技術ではなく、その表現を必要としているコアだ。理論でも解釈でもない。

 様々な曲の一部が映画上映中奏でられていく。時にシーモア氏の指先から紡がれる「一音」が限りなく饒舌にこちらに響いてくる。
 映画の大半が静かにこちらに向かってシーモア氏が語っているように見える為、モノローグにも見えるが顕かに質問者に対して、おそらくはイーサンホーク氏に語っているのだろう。その言葉一つ一つが指から紡がれるのが音楽であれば口からは言葉、そのような対価にふさわしいものがあった。

 この映画は大人全般に対しての回答書ではない。
 楽器を奏でる人、表現者の苦悩に答えてくれる映画。勿論、そのどちらに所属していなくてもシーモア氏の静かなことばはこちらの緊張を解いていく。
 銀座シネスイッチの地下にある一番広い空間で上映された。何度か映画館の空調音が邪魔だと感じるほどに、とても静かな映画だった。
★★★★

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