ひとよ

「ひとよ」

監督:白石和彌
製作国:日本
製作年・上映時間:2019年 123min
キャスト:田中裕子、佐藤健、鈴木亮平、松岡茉優、佐々木蔵之介・音尾琢真・浅利陽介・筒井真理子

 父親のDVから逃れる為に母こはるが行った苦渋の決断はあまりに代償が大きかった。刑期を終え戻ってきた母を迎え、家族が再結晶する話。
 と、要約は珍しくシンプル、尚且つ、脇役含めこじんまりとした俳優陣の数は元が演劇だった流れもあるのか。
 けれども、約2時間の作品は緩むことなく終始スクリーンに釘付けにされた。

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 奇を衒った演出も、過剰な音楽による感情表現水増しもない。
 それを可能にした立役者の筆頭は田中裕子。台詞が彼女の体内を巡って発声されると、それは短期間の熟成を経たようにどれほど短い台詞であっても変容する。
 佐藤健、鈴木亮平、松岡茉優ら若い役者は、これからどのような役を演じるかでその後が変わっていく中堅に向けて大切な時期。この時期に、こうしたベテラン俳優との共演は大いに学ぶことがあったろう。

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 単に若いだけでは演じていけない域に入りかけている佐藤健。この作品の中では日常暴力を受けていた中学生からの延長線を、過去を全く整理することも清算することもなくもがき苦しむ姿を中学生の姿が透けてみえるように好演。

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 ストレスの小道具よろしく、今どき珍しい兄弟そろっての喫煙シーン。

 追い詰められた人は、解決の選択肢を自ら狭め余裕の無さは全体を俯瞰することまで奪う。
 三人の子を暴力から守るために取った行動が招く世間の目を、少なくともあのひとよで母は全く考慮することもできなかった。只、父親からの暴力から身を盾にして守る。それが仮令刑務所へ行く展開になっても自身のことは惜しくない、と。
 15年の歳月が経過しても夫々が抱える苦悩は、あのひとよがやはり最善ではなかったのだろう。
 加害者家族が生き辛いことは映画とういう架空の世界だけではない。
★★★★

 

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