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古典化を阻止するための試み ―冲方丁『マルドゥック・フラグメンツ』―

 私は冲方丁氏の『マルドゥック・アノニマス』を読むまでの復習として、『マルドゥック・スクランブル』、『マルドゥック・ヴェロシティ』、そして短編集『マルドゥック・フラグメンツ』(早川書房)を読んだ。これは『スクランブル』外伝の短編二つと『ヴェロシティ』や『アノニマス』の予告編、さらには冲方氏のインタビューと『スクランブル』の準備稿『事件屋稼業』の序章が収録されている。
 ここで気になるのが、インタビュー記事のタイトルだ。「古典化を阻止するための試み」、私はこれで永野護氏の『ファイブスター物語』(以下、FSS)の全面的な設定変更を連想する。

 FSSは基本的なストーリーは変えていないが、メカなどのデザインや固有名詞などを色々と変えている。これら設定変更には様々な憶測があるが、おそらくは冲方氏と同じく「古典化」を嫌っているからだろう。何しろ永野氏はかなり飽きっぽい性格だ。自分が「古臭い」と思ったものをサッサと切り捨てる。そんなんでたびたび「ファンをふるいにかける」振る舞いをする。しかし、それでも「訓練された」ファンは永野街道をついていく。
 おそらく冲方氏も、永野氏同様「クリエイター」としての我が強い人だろう。自分自身が納得出来ない完成品をわざわざ書き直す。はた目から見れば「なしてわざわざそんな事するのさ?」と思うのだが、やはり「業」なのだろう。自ら作り上げた泥沼に飛び込む無謀さ。周囲の人たちに迷惑をかける「地獄変」。失礼ながら、この人が自分の身内でなくて本当に良かった。

 さて、『フラグメンツ』に収録されている『スクランブル』外伝と『ヴェロシティ』予告編は、実際の本編とは設定が食い違っている。これらは『ヴェロシティ』本編前に執筆したもので、後に本編でいくつかの設定が変更されたのだが、外伝と予告編自体はあえて加筆修正していない。まあ、あくまでもパラレルワールドとして楽しむのが良いだろう。それに、陳舜臣氏も『秘本三国志』と後の三国志小説とではあえて違う設定にしているのだ。陳氏もまた、パラレルワールドを作るのに抵抗がなかったのだろう。

 私は当記事の原文を書いた当時では『マルドゥック・アノニマス』を読んではいなかったが、実際の『マルドゥック・アノニマス』の詳細は予告編とは色々と異なっているだろう。まあ、面白ければいいのだ。

【Blondie - Fragments】


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