見出し画像

犬には犬の道があり、猫には猫の道がある ―吉川良太郎『ペロー・ザ・キャット全仕事』―

 第2回日本SF新人賞受賞作は2つあった。一方は谷口裕貴氏の『ドッグファイト』、もう一方は吉川良太郎氏の『ペロー・ザ・キャット全仕事』(共に徳間書店)である。奇しくも「犬猫コンビ」のダブル受賞だが、それぞれ違う魅力がある。
『ドッグファイト』は未来の植民惑星が舞台のアクションSFで、犬たちと精神を通わす超能力者「犬飼い」たちが生きている。この小説は犬たちの健気な献身を描く感動的な話である。ただ、「ラスボス」らしき人物が肩透かしを食らわすのが難点であり、助け舟の伏線の張り方も今一つ納得出来ない。一応、主人公たちとは別に描かれるサイドストーリーでそれらがほのめかされているが、本筋でももっと追及してもらいたかったと思う。

 さて、前述の「犬」に対する「猫」、すなわち『ペロー・ザ・キャット全仕事』(以下、『ペロー』)である。正直言って、私は『ドッグファイト』よりもこちらの方が好みである。主人公たちが大義名分のために闘う『ドッグファイト』は感動的な作品だが、気軽に読んで楽しめるのは「猫」である。
 主人公ジョルジュ・ペローは、近未来のフランスの都会に住む青年であり、偶然入手したハイテクノロジーによって「猫」になる。彼は自らの意識をサイボーグ猫の肉体に移し、気ままな暮らしを送っていたが、ひょんな事から都市の影の支配者であるギャングのトップ「パパ・フラノ」の傘下に置かれる。「猫」は「走狗」にされてしまうのだ。
 これはいわゆるサイバーパンクSFなのだが、主人公が「猫」になる辺り、冲方丁氏の『マルドゥック』シリーズを連想させる。『マルドゥック』シリーズはネズミのウフコックなどのサイボーグ動物が活躍するが、さらに「都会」が舞台である。『ペロー』も『マルドゥック』シリーズと同じく「都会」が舞台の話であり、どうも私は都会が持つ「竜宮城」や「おもちゃ箱」のような刺激や楽しみをかき立てる作品に惹かれるようだ。

『ドッグファイト』が「フロンティアスピリッツ」という言葉がふさわしい野性的な作品なのに対して、『ペロー』は都会的な作品である。この二つのどちらを好むかで、その人の趣味嗜好などが分かりそうな気がする。

【Janet Jackson - Black Cat 】


この記事が参加している募集

#読書感想文

191,569件

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?