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家族を繋ぐ一大行事

春分の日ー
1948年に祝日法によって制定された国民の祝日のひとつ。昼と夜の長さが同じ日で、自然を称え、生物を慈しむための日とされている。

春の始まりとされる日だが、まだ肌寒さを感じる。

小鳥のさえずりで目を覚まし、肌寒さを感じながら、眠気を覚まし気合いを入れるため、熱いシャワーを浴びる。

なんたって、今日は筋蒔き(すじまき)だ。

筋蒔きとは、苗箱というケースに機械で土とお米の種を蒔いていく作業。
お米作りの最初の工程だ。

種を蒔き終えた苗箱はビニールハウスに置き、苗を育て、いよいよ田植えとなるのだ。

我が家は、新潟県にある小さな米農家。
と言っても、祖父が営んでいるのだが、高齢のため力仕事はできない。
そのため、家族が揃う休日に仕事を行うのがほとんどだ。

稲作と言えば、田植えや稲刈りのイメージが強いだろうが、年間を通して多くの仕事がある。土作りから始まり、筋蒔き、ビニールハウス作り、田植え、水管理、稲刈り、うすふき…と多くの工程があり、書いていない工程も沢山ある。

この、筋蒔きは、空の苗箱を機械のレールにセットする人、土とお米の種がちゃんと蒔かれているか管理する人、蒔かれた箱をレールから持ち上げ重ねる人、土や種を補充する人と人手が多いと作業が捗る工程だ。

そのため、筋蒔きの日が近づくと祖母から、
「土曜日 筋蒔きです 空いていたらきてくれ」
と、ぎこちなさ満載のLINEが届く。

外せない仕事や大事な予定がなければ、参加するようにしている。

私は社会人で、一人暮らしをしている。
実家と同じ県内で仕事をしているため、月に一度は実家に顔を出すものの、泊まることは殆どなくなった。

だが、稲作の仕事をするときは、朝9時頃から仕事が始まるため、前日の夜に帰宅し、懐かしさを感じながら実家に泊まる。

平日と同じように朝5時頃に起床し、シャワーを浴び、誰も起きてこないリビングでコーヒーを飲む。こののんびりした時間が至福だ。そして、7時過ぎから、ぞろぞろリビングに家族が揃い、各々に朝食をとり、着替え始め、準備を始める。

「始めるよー」
9時になり、祖母の号令に重い腰を上げ、いよいよ開始…!
といきたいところだが、そうはいかず、毎度の機械トラブルに見舞われる。
9時に始まったは記憶はない…。

小さい頃は、休日に習い事や部活動があったため、手伝いはしていなかった。
大学生では上京していたため、帰郷していないことも多かった。たまたま帰郷した時は手伝うようになったものの、こういったトラブルに休日が潰れてしまうことに嫌気がさし、イライラしたものだ。

その頃はイライラしていたり、嫌々感を出してしまっていたためか、社会人になり手伝うようになった今、祖母や父からは、「手伝いに来てくれてありがとうね」とお礼を言われる…。

この家で、このお米を食べ、すくすく育った、育てて貰ったにも関わらず。
手伝うのは当然のことのはずなのに…。

機械トラブルから30分程経過し、ようやく解消、いよいよ始まる。
仕事の流れを確認し、ひたすら同じ動作を繰り返す。

単純作業につまらなさを感じていた過去の自分は、少しでも有意義な時間にしたく、イヤホンをつけ、音楽を聴きながら作業をしていたものだ。
当然、そんな状態では家族の話し声は聞こえない。

今は少し変わり、イヤホンをしなくなった。

そこには、家族とのかけがえのない時間、繋がりがあるからだ。

我が家は決して仲が良い家族ではない。
両親は別居したこともあり、直接話している姿は数年間と見ていない。
私自身も年子の兄とは久しく会話がない。

こんな家庭事情を抱えているが、直接は話さなくても、家族が一つの場所で、同じ目標に向かって何かをするのは、この時だけなのだ。

祖父からの大声での指示、怒鳴り声、それに反発する声もあり、雰囲気が悪くなることもしばしば。
だけど、それすらも我が家のありのまま姿で、大切なひと時だ。

だから、「手伝いに来てくれてありがとう」と言われると、「やりたくてやっているんだよ」と言いたくなる。恥ずかしくて言えないけど…。

作るのはお米だけじゃない。
家族との繋がりを、思い出を、感謝の気持ちを、限られた時間の中で、植えて、摘み取り、形にしたい。

そして、この気持ちを忘れたくなく、誰かに届けたい。だから、想いをnoteに、そして記録に残したく、カメラを勉強し、写真に収めた。

田植え後の田んぼ
夕日に照らされる田んぼ

いつまでも、この時間が続けばいいな。

なんて思いながら、今日も爽やかな汗を流す。

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