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クリス・ウィタカー/われら闇より天を見る~愛すべき人の近くにいて

私の母の想い

今年の夏、80歳になる母が闘病の末に息を引き取りました。

取り立てて才能も能力も魅力も何もないない凡人の私を、なに不自由なく大学まで通わせてくれました。母は私が結婚した時には「自慢の息子なのよ」などと妻に言い放ち、とても恥ずかったのを覚えています。

本作『われら闇より天を見る』は、そんな家族の繋がりを思い出させてくれる、素晴らしい作品でした。

13歳の少女 ダッチェス・ラドリー

アメリカ西部にあるのどかな田舎町を舞台に、30年前に発生した少女殺害の事件をめぐって関係者たちの人間ドラマが展開されます。

様々な魅力的なキャラクターが登場する本作ですが、圧倒的な推しなのは、13歳の少女、ダッチェス・ラドリーです。

彼女は自身の出生の問題で窮屈な家庭環境のなか暮らしていました。母親は30年前の事件から立ち直れず、6歳になる弟も冷酷な子ども社会から守ってやらねばなりません。

祖先に無法者がいたという情報だけが世間と渡り歩くための唯一武器で、いつも無理やり自らを誇示して世間に立ち向かっていました。

おじいさん ハル・ラドリー

ダッチェスは自身の祖父であるハル・ラドリーとモンタナで暮らしを始めます。友人もお金も娯楽も、あたり一面なにもない牧草地。簡素な寝床、食事が与えられ、牧場の仕事もこなさなければなりません。

アウトローの誇りだけで生きる彼女は、おじいさんハルにも憎まれ口や不満をたらし続け、なんとか自分の心の安定を図っていくのです。

おじいさんハルは、ダッチェスたちの保護者の役割をこなし、時には優しく、時には指導し、時には叱る。

何度も何度も心の扉をノックしても、不幸にまみれた人生しか知らなかった彼女は決して扉を開いてくれない。しかし家族の絆という縁がめぐってきた時、少しずつ彼女の心の扉が開いてくるのでした。

二人の別れと未来への歩み

二人の別れのシーンでお互いに投げかけるセリフがあまりにも強烈で、読み手の胸をうちます。

おじいさんハルの一言:「誇りに思っているぞ」
ダッチェスの一言:「さよなら、おじいちゃん」

引用:われら闇より天をみる

なにもかもが疎ましく世界中の全員が敵だったダッチェスが、暗闇の中で初めて見つけた「愛情」という光。

神様のいたずらによってさらなる試練を迎えたダッチェスでしたが、これから彼女は、天を見上げて前向きに生きていけるでしょう。

私が親として成すべきこと

時がたつのは早いもので、いつの間にか息子も小学生になりました。

とっても可愛い我が息子ですが、学校の成績も運動も普通で、取り立てて派手な魅力はありません。

しかし先日、子どもたちが学校から帰宅してくるところを見ていました。近くで身体に不自由がある友達が困っていたのですが、息子は誰よりも率先して彼を助けてあげていたのです。

子どもたちは日ごろ、何を思い、何を悩んで、何と戦い、何を楽しんで、何を迷って生きているのか。

彼らを信じて、愛していくのはもちろん、少しでも子供たちの近くにいて、知っておくことが親の大切な役割なのです。

そうすればきっと息子たちもダッチェスのように前向きに生きていけるし、私も子供たちに対して、誇りを持つことができるのでしょう。


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