音楽理論は本当に感性を損なうのか?


最近、某アニソン作曲家の影響などで、同人作曲界隈はおろかアニソンの楽曲・制作陣のファンであるいわゆる”楽曲派”界隈の間にもコード進行をはじめとした音楽理論の解説が話題を呼んでいます。

そんな中、音楽理論を勉強すると、曲を聴く・作るのがつまらなくなる、オリジナリティが無くなって面白みのある曲が作れなくなる‥‥などなど、音楽理論に関してこのような意見が散見され、たびたび議論になります。

ここでは、そもそも音楽理論と言われているものは何なのか、楽理を勉強すると本当に作る曲がつまらなくなってしまうのか?などについて考えていきたいと思いますが、創作一般に通じる話題だと思いますので色んな人に読んで頂ければ幸いです。

◼️音楽理論とは何なのか


言うなれば、
楽曲を分析したものをまとめた、こういうルールを守ればこういう感じの曲が作れるよというレシピ帳のようなものです。

筆頭にあがるコード理論をはじめ、スケール(音階)やリズム、記譜法、対位法などなど‥‥

クラシックでは、使ってはいけない音使いなどの厳格なルールが定められ、近代に近づくにつれてその禁則がどんどん破られていき、ジャズのような不協和が許容される音楽に発展していきました。

クラシックの歴史を辿ると、当時の禁則を破った前衛的な楽曲の初演はかなり物議を醸すことも多かったそうです。

作曲家が曲を作り、音楽を学問として扱う学者がそれらを分析して体系化したもの、それが音楽理論と言えます。

一方で、一定の法則を先に定めて、そこから曲を作るという今までと逆の作曲方法が広がったのが現代音楽の分野です。


◼️音楽理論を勉強すると感性が損なわれる?

結論から言って‥‥
そんなことは無いです!

これは、個々人が音楽にどのような面白さを見出しているかによると思いますが、全てを頭の中で考えてコントロールすることがあまり好きでは無いという人は居るとは思います。

やはり1番のアドバンテージは、音楽の各要素を言語化することによって感動を共有したり、分析して作家の癖、いわゆる◯◯節の秘密を探ったり、音楽を仕事にするならばコミュニケーションのツールとして非常に有用です。

音楽理論に限らず、◯◯を勉強すると感性を損なう・オリジナリティが失われる〜というような意見はクリエイティブの場ではよく聞きます。
そこで、ここで言われる”感性”や”オリジナリティ”というものについてよく考えていかなければいけないと思います。

◼️感性ってそもそも何?


“感性”は、クリエイティブの場ではとてもよく聞く言葉です。
実際のところ、やや意味が曖昧に用いられていて便利な言葉にされている点が否めません。

ガンダムで有名な富野監督著の「映像の原則」は主に映像作品の演出方法やコンテの描き方を解説した本ですが、創作一般にとって大事なことが書かれています。

例えば、キャラクターの画面内の位置に着目する場合、左→右の移動は自然に、右→左の移動は何かに抗うような感じ、上にいるものは強い・下にいるものは弱い、などというイメージを受けます。

人間の心臓の位置などから、生理的に映像の中にダイナミクスが生じるわけです。

こうした映像の原則を無視して作られたものは、どこか違和感を感じさせる、言うなれば素人臭い退屈な画になってしまいます。

映画やテレビはもちろん、動画サイトの普及などによって映像が氾濫している現代。
映像は音楽と違って視覚的に認知できるので、こうした映像の原則をおざなりにした作品がより増えてしまっている現状があります。

こうした体感に基づいた原理原則というものは何にしてもついて回るもので、こうしたものが”感性”という便利な言葉で片付けられてしまい、上手く言語化されないままおざなりにされてしまっている、というのは大いにあると思います。

こうしたワードは「勉強しなくてもいいんだ」という肯定感を得るための口実的に使われるのが常です。

やはり仕事として一定のクオリティ以上の作品を量産するためには原理原則を抑えておくことはとても重要と言えます。
また、視聴者にとってもこうしたことを抑えておけば作品鑑賞の際に画面からより多くの情報を受け取れるようになり、豊かなオタ活を送れるようになることでしょう‥‥

◼️オリジナリティはどこから来るのか?


“オリジナリティ”もまた、創作で使われる便利な言葉の一つです。

何からも影響を受けないというのは不可能に近いです。
必ず自分が今まで聴いたものから意識・無意識関わらず影響を受けているわけです。

この無意識というのが非常に厄介で、良い曲が作れたと思ったら既存の曲ととても良く似ていたというのはよくある話です。

この点に関して非常に気をつけているのが田中公平さん。
”パクリ”にならないようにメロディの精査に音楽理論を用いるわけです。

オリジナリティの獲得はとても難しい課題ですが‥‥
なら、なるべく曲を聞かない方がいいのかというとそうことでも無いですよね。

自分の”好き”を洗練させること、こそがオリジナリティ獲得の術だと思います。
そこで大事なのは、中途半端にせず徹底的に分析すること。

自分にはオリジナリティがあるんだと意固地にならず、無になって全てを取り入れる期間も重要だと思います。

最終的には他人からの評価なので、個性やオリジナリティというようなものに関してはあまり意識しすぎないのが重要かなと思います。

睦月周平さんのような、どんなジャンルでも書くので掴みどころが無いが、作品の共通点は「とにかく良い曲」という面白い作家さんも居ます。彼のインタビューは必見です。


◼️音楽理論を学ぶと何が嬉しいか


音楽理論を学ぶと嬉しい点について、以下が挙げられると思います

・同業者間での意思疎通が容易
・理論的な裏付けの安心感
・クオリティコントロール
・学問的な楽しさ

・同業者間での意思疎通が容易
音楽理論は、同業者間でルールや決まりを共有することができる大変便利なツールであると言えるでしょう。
そういった意味でやはり音楽の仕事をする上ではほぼ必須と言えます。
特に楽譜は、音楽を可視化するのにこれ以上無い便利なものなので読めるようになれたら大変嬉しいですよね。

もちろん、楽譜が読めなくてもバンドで合奏したりすることは可能ですが、場合によってはちょっと大変です。

以下の動画は、楽器を持たず擬音でセッションする向井秀徳氏。


◼️理論的な裏付けの安心感


曲を作っていると良し悪しを判断するものさしが欲しくなりますが、そんなときにも音楽理論は便利です。

作るときに理論を用いれば、理論による裏付けによる安心感も得られます。

理論を勉強したことがない、楽譜を読めないというミュージシャンはたくさんいますが、そういう人達が何で活躍できるかというと耳コピや実際の演奏活動などを通じて体得していってるからで、むしろ実践は近道でもあると言えます。

体感を言語化して把握できるようにすることにより、”エモみ”を意図的に作り出してコントロールすることも出来るわけです。

商業作家として活躍するならば、一定の納期で一定のクオリティ以上のものを作り出さなければいけないわけで、音楽理論の習得は作品のクオリティコントロールにも大きな役割を果たすでしょう。

◼️学問的な楽しさ


幸いなことに、最近では動画やブログをはじめ、ネットで分かりやすくまとめてくれている人が沢山います。

こうした音楽理論のエンタメ化は近年著しく、動画の伸び方を見ると音楽を作る・作らないに関わらず皆んな興味を持っているんだなと思い知らされます。

音楽は時間芸術でしかも視覚的に捉えにくいのでとっつき難い面がややありますが、逆にその仕組みを分かりやすく説明してくれると人々の興味がそそられるのではないでしょうか。

◼️まとめ


結論、音楽理論を勉強しなくても曲は作れます。
しかし、商業作家として安定した作品を作るにはとても有用なツールと言えます。
音楽理論を勉強して何かマイナスになるような点は特には無いと思いますが、中途半端に勉強するとそれに囚われてしまうというリスクは考えられます。

理論ありきではなく、実践(実際の作曲活動・演奏活動、読譜など)で得た体感の答え合わせ、として使うのが一番良いのではないでしょうか。


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ここで告知させてください(唐突)

来る3/1(日)に東京流通センター(靴じゃないよ)で行われる音楽の同人即売会M3のE-16aブースにて、僕の参加したコンピレーションアルバムが販売されます。

某中身の詰まった作曲家団体をリスペクトしたコンピで、本当に凄い人達が集まってます。
僕の曲は2曲目「ロス・アラモスに花束を!!」を作詞作編曲させていただきました。

今回の曲はポップで可愛い電波ソング‥‥言うなれば「プログレッシブ・ポップ」的な楽曲です。
ぜひ買っていただけると嬉しいです。

P.S.(5/26) M3終了後,コンピ盤のboothでの販売が開始しました.また,拙作はsoundcloudにてフルで聴くことができますので是非...!!



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