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糸井重里さんがオーディオブックカフェに出演!40年にも及ぶオーディオブックとの長い付き合いを語る

オーディオブックアンバサダーの鳥井弘文さんと、オーディオブックを10年使っているヘビーユーザーのF太さんがお送りするaudiobook.jpオリジナル番組 オーディオブックコミュニティ番組「オーディオブックカフェ」

通常はパーソナリティーお二人でトークされていますが、今回は特別ゲストとして糸井重里さんがお越しくださいました!

その内容を一部noteでもご紹介します。

<本編の音声はここから聴けます>
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■オーディオブックとの長い長い付き合い

――オーディオブックはどんな時に聴いていますか?

糸井:一番多いのは一人で車を運転している時間ですね。音楽を聴くのもいいんですけど、オーディオブックって話し相手っぽくなるんですよ。本の内容にあいづちを打つわけではないですけど心のなかで「そうそう」って思ったり。ある意味友達が乗っているのと同じ感じ。途中で聴くのをやめたくない時は、わざと遠回りしたりもしますね。

――オーディオブックとの出会いについて教えていただきたいです。

糸井:神楽坂にある某出版社が昔、小林秀雄さんの講演集を出したんですよ、カセットテープの全6巻で。商売的には全然売れなかったらしいんだけど、僕はそれがすごくおもしろくて。

内容ももちろんいいんですけど、どうも小林さんが講演で落語家の古今亭志ん朝さんのしゃべり方をマネしているんですね、聴衆からウケたくて。だからもう落語なんですよ、しゃべり方が。

でも内容そのものは小林秀雄さんです。あの難解さで有名な、哲学者であり評論家である小林秀雄さん。なんですけど、「しゃべり」だと理解できるんですよ。僕は今まで小林秀雄さんを読んでわかったつもりになっていたんですけど、声を聴くともっとおもしろかった。

――カセットテープの講演がきっかけだったんですね。

糸井:元々ラジオは聞いていたんですけど、誰かの話を聞くことの楽しさ、人の話を聞くことのおもしろさにそこで夢中になって、今度はそれを作る側に回ったんです。

当時人気絶頂だったアイドルの小泉今日子さんによしもとばななさんの『とかげ』を朗読してくれないかって頼んで、キョンキョンが耳元で本を読んでくれているかのように聞こえるCDを出したりもしました。

耳から入る言葉って本当におもしろいなと思って、聞くだけじゃなくて作ったりもしていたくらい、僕はオーディオと言葉について、専門家ではないですけど興味を持っていた人間なんです。もうかれこれ40年くらいになります。だからオーディオブックが出はじめの頃に、「コレが商売になるならがんばってほしい」と思ってすぐに飛びつきましたね。

■オーディオブックに向いている本と向かない本

糸井:作中の感情を代弁しすぎてしまうといやらしくなるというか、聞き手が入っていく余地がなくなるんですよね。だからストーリーのある本の方が作る人の苦労が大きいと思います。僕がオーディオブックで聴くのはたとえば経済学のような専門分野をアメリカでポピュラーに伝えるための本だとか、そういうものが多いです。アメリカのちょっとインテリの人が読むような本はオーディオブックにすごく向いていると思いますね。『ファクトフルネス』とか。

英語って基本的に書き言葉がないんですよ。難しそうなことを言っている学者であっても、英語自体が難しいわけではないので、日本語訳も難しくない。これが日本語だと「言葉の芸を見せたい」という気持ちが書き手側にある。

だから、物語ものであればそういう気持ちがあまり出てこないジュニア小説はオーディオブックに向いていると思います。

■糸井重里がオーディオブックを1倍速で聴く理由

――耳で聴くことの良さはどんな点にありますか?

糸井:目で活字を追う読書もいいんですけど、一つ欠点があって、速く読みたくなっちゃうんです。まだ理解が追いついていないのに「読み終わった自分」に会いたくなってしまう。これってすごく理解することの邪魔になるんですよね。

でも、オーディオブックの場合は、速度は変えられるにしても読み手のペースに合わせることになるので理解できる分量が増えると思っています。

――理解度というところで、今オーディオブックでもYouTubeでも「再生速度をどうするか」はホットトピックだと思います。糸井さんは等倍(1倍速)で聴いていますか?

糸井:基本はそうです。人には肉体があって、その肉体が受け取る感覚があって、それを前提に思考があります。脳がどんなに発達したとしても、「腑に落ちる」という言葉があるように、肉体に響いていない知識をどれだけ溜め込んでもなあ、という気持ちはあります。

物知り博士になりたいならいいですけど、そうではなくて人としていい生き方をしたいとか、誰かの役に立ちたいというのが人生の主軸なのであれば、倍速で倍の本を読んでもあまり意味がないと思っています。もったいない気がする。

――私は今までずっと倍速で聞いていて、聞き取れるかどうかというところだけを意識して限界まで速くしようと思っていたのですが、今のお話を聞いて「人」がいるんだということを再確認した気がします。誰かが読んで、語りかけてくれているという発想を忘れていたなと。

糸井:オーディオブックになった段階で既に「道具化」してるわけだから、本当はその道具をどう使うかはその人の好きにすればいいと思います。

ただ、「こっちの方がいい」っていう「どっちか主義」は、僕は良くないと思う。それって原理主義ですよね。原理主義的に二者択一の中に自分を閉じ込めたり、他人にレッテル貼りするのはかっこよくはないよね。

――おすすめのオーディオブック作品をいくつか教えていただきたいです。

糸井:こういう時にぱっと思いつくのは大したものではないのですが、読んで良かったと思ったのは「行動経済学」の本ですね。

「人間は得なことしかしない」っていうのが経済学の昔からの呪縛だったんです。「人は損なものと得なものがあったら、ちょっとでも得する方に行くよね」っていう前提でエコノミーが語られてきました。でも行動経済学はそれに対して「人間はかならずしもそうではない」ということを提示しました。

同じ100万円でも得する100万円と損する100万円なら損する100万円の方が人は痛いと感じて、そっちに行く可能性があるのなら100万円得するチャンスを捨ててしまったりする。こういう人間の性質をベースにした損得の話は今の時代にはおもしろいですよね。亡くなった任天堂の岩田(聡)さんと僕はよく本の情報の交換をしていたんですけど、行動経済学については随分やりとりしました。

物語は僕は実はあまりオーディオブックで聴いていないんですよ。物語は紙の本で読みたいのかもしれない。途中でやめるのが難しいからかなあ。どちらかというと論理の方に近い本がオーディオブックで聴くには楽なのかもしれません。

――そういう観点なんですね。聴き始めてしまうと最後まで聞きたくなるという。

糸井:だって今恋が成就するかもっていうところで「ごはんできたよ」ご飯って言われても、止めたくないじゃないですか。でも邪魔が入らない夜中は物語もののオーディオブックよりもドラマを見てしまいます。そういう意味では物語じゃないオーディオブックの方が自分には向いている気がしますね。

<了>


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