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昔々の、おいしくもたのしくもない話。

小学生低学年の頃、週二回、一年くらいだろうか、スイミングスクールに通っていたんだ。

学校から帰ると、用意してあるスイミングのバックを持ち、一人、20分ほどバスにゆられ通っていた。

ひとしきり泳いだ後、着替えて帰るわけだが、ほかの子たちはお母さんが迎えに来てくれてる。

水泳ってお腹空くんだよね~、待合室にはカップ麺の販売機があったの。何人かの子はお母さんにねだって、「がんばって泳いだご褒美ね。」的にカップ麺をすすっているわけです。

ポケットを探っても…往復のバス代しか親にはもらっていないので、カップ麵は買えない。お母さんの隣でおいしそうに食べ、いい匂いを発するその横を通り、外へ出てバスに乗り込む。

ああ、腹減ったなぁ


ある日、母親は「あれ?スイミング行かなかったの?」とスイミングの日に家にいる自分に問いただす。

「カバンが見つからなくて…」と答える。

失くしたんじゃなくて、押し入れの奥に隠したのは母親にはバレバレだったんだろうな、怒られた記憶がある。

でもまあ、そんなにスイミングが嫌なら、ということでやめることになったんだけど。

実は…あの帰りの待合室がどうしても嫌で…とは、母親には言えなかった。

きっとスイミングの待合室で、しっかり泳いでからお母さんと一緒に食べるカップ麵は、めちゃくちゃに、おいしくてたのしいんだろうな。

一度もそれを味わうことはありませんでした。












#おいしいはたのしい

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