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アーリーステージのスタートアップPMIの失敗あるある

M&Aクラウドの及川です。M&AをUPDATEしていきたいです。

先日M&Aしくじり先生というテーマで話してほしいということで、CNETで語らせていただいた内容が結構反響があったので、まだまだM&Aというのはブラックボックスに包まれているんだなということが分かりました。

続編に近い形で、今回はM&A"後"、つまりPMIと言われる工程にフォーカスして紹介していきたいと思います。

大企業同士のデカイM&A、事業承継M&Aの切り口はそれなり情報もありますが、現場としては知りたいのはそれじゃない感が結構あると思うのでスタートアップのM&Aを「当事者視点」で話していきます。

1. 月次予実管理こんなにガチガチでやるの?それってグロースに必要なのか?

アーリーステージの起業家にとっては、グロースが命。CPAが良い施策を見つけたから広告宣伝費を10万円多く使ってしまったとかで詰められるとかは、きっと寝耳に水な人もいることでしょう。スタートアップに精通していない、事業の解像度が浅い担当者(経営企画が多い)がつくとこういうことは往々にしてあることです。

その解決策としてCVCを活用してスタートアップに精通する人材を育てるという施策もありますが、投資したあとそこまでコミュニケーション取ってなかったりすることも多くあります。そしてなんだかんだ多いのは、CVC部門とM&A部門が遠かったり仲悪かったりすることです。これについては、やや脱線するのでここまでで笑。

起業家側は、Pre deal段階でPMIの主担当となる事業責任者の方としっかり話しておきましょう。買い手側は、起業家のまず解決しなければいけない課題や起業家の成熟度に合わせて管理方法をある程度フレキシブルにする必要があります。主要なKPIと管理会計を握ってなるべくシンプルに管理できることが重要です。

このフェーズでのハンズオンはあくまでGiveすること。管理することが目的化して起業家側が辟易して辞めるということが後に立たないからです。ハーバード・ビジネス・レビューの『企業買収は与えることで成功する』が参考になるかと思います。

2.交渉時話してたことと話しが違う?もっと連携スピード速いと思ったのに。。。

PMI担当者に起業家側が依頼しても中々実行されないと感じるやつですね。これはスタートアップと上場企業では意思決定速度が全然違うので、そこに戸惑うこともあると思いますが、これは会社が大きくなったり、上場企業に求められるガバナンスでもあるので徐々に慣れていきましょう。同時になぜ、このプロセスが必要なのか?ということもしっかり語れる必要性があります。説明の難しいポイントが買収後はよく出てくるので、隔週でも経営者同士で1on1を設定してギャップを埋めていく作業もあると良いかと思います。

ただそもそも、こうした認識のギャップを産まないためにはどうすればいいのか?まず、買い手側は、Pre deal段階でシナジーを発揮を担当する事業責任者を早めにアサインしてしっかりビジョンやロードマップを共有しておくことは必須です。グループ入り後は、買い手側の経営会議やグループ入りした社長陣だけ集めた会議などをやってうまくコミュニケーションをしている企業もあります。

3.PMI主担当の人選ミス。全然話噛み合わないぞ。

事業責任者ではなく入社して浅い事業企画がアサインされており、想定するシナジーとかは語れたり、俯瞰できるけれど現場への落とし込みが弱い。社内でのパワーが弱いなどのケースがあります。

よくあるのは経営陣が最初面談していたのにM&A後はあまり参加せず、育てたい若手とかを送ってしまうというのもあるあるです。起業家サイドからしてはなんで育てなきゃいけないんだとなりがちで、とても良くないです。あくまでも合意の上グロースに貢献させるために人を送るべきです。アーンアウト条項などが入っていて、出向者の人件費を売り手側で発生するケースなどは泥沼化することもあります。

別切り口で、良いPMI担当者が辞めてしまい一緒に起業家もセットで辞めてしまうということもたまにあるので、M&Aで成長を考えている企業はPMI担当者のリテンションもしっかり考えておきましょう。

4.相互送客・クロスセルは難易度高い。簡単にすぐできると思ったら大間違い。

買い手側で、相互送客やクロスセルにプレミアムつけて買った場合、期待値は当然高くなりますが、そもそもM&Aにおいてとても難易度が高い施策です。

例えば、メディアからコマースへの送客を一つとっても、プッシュ通知の頻度をどうする?バナーの位置をどうする?メディアの世界観崩れないか?戦略と噛み合っているか?今やるべき必然性が醸成されているか?メンバーへのインセンティブ設計は十分か?ユーザーは使ってくれるか?みたいなことがワラワラ出てきます。

営業網でのクロスセルも一緒ですが、そもそも他部署の商材を売れる営業組織になっているかは自問自答するといいかと思います。他部署の商材を売れないのになぜ、グループ入りした会社の商品を売れるのか?など。

このクロスセルや相互送客について買い手売り手の誰がオーナーシップを持って進めるかは事前に決めておくべき事項の一つです。

5.ぶっちゃけまだPMFしたばかりでシナジー創出にリソース割くより他にやることある

そんなことなら今M&AするなよとPMI担当者は思うかもしれませんが、M&Aのタイミングはアンコントローラブルなことがほとんど。

起業家側としては、PMFしたばかりの時などシナジー創出にリソースを割くのが今なのか?というのはその時になって初めて悩むことではあります。起業家にとって未知すぎるので予見できないというのがほとんどです。

買い手側としては、対象会社の成長フェーズを見極め何がドライバーになるかをしっかり理解し、どのタイミングでどのシナジーを創出していくのがベストなのか考えていきたいです。この思考プロセスはベンチャーキャピタリストに似ているかもしれません。

6.営業カルチャーでプロダクト分からない問題

PMI担当者が、事業責任者ではあるものの買った会社の事業モデルには精通してない時に、いままでの営業での成功体験をそのまま当てはめて揉めたりすることです。これは同業他社のM&Aやケイパビリティが近い会社では起きない問題ですが、ちょっと遠い会社を買う場合はPMI難易度が相当跳ね上がるので注意しましょう。相手のことをリスペクトしつつ、貢献できるポイントを探して実績を作って信頼を勝ち取っていくGiveのようなことが必要です。

7.グループインした会社の競合が資金調達してきたが踏めない

アーリーステージの会社を買うということは、その成長資金をどこで捻出するかということもセットで考えないといけません。その際競合が資金調達とかしてくると、同じだけ資金を出せるのか?赤字で踏まれた時、こちらも赤字で踏めるIR戦略になっているかというのがあります。facebookがinstagramを買えたのも、facebookの高成長分でinstagramの赤字分を帳消しにできて最大投資家足り得る資金力を持ち合わせていたからでしょう。アーリーステージの会社を買うということは、競争環境・資金調達環境もしっかり見据えて買いましょう。資金調達合戦が終わったタイミングがタイミングです。

8.アーリーステージこそ、属人性がすごいのでリテンションが全て

買い手側で、ゼロイチできる人材がいないからこそスタートアップを買うことが多いわけですが、経営陣が辞めてしまうと失敗に終わるということです。

M&Aの失敗は高値づかみという結果論になることは多いですが、起業家にプレミアムをつける場合特にリスクとして残ります。過去にも成功事例はあるので、完全には否定できませんが非常に難易度の高い施策と言えるでしょう。

M&Aを活用して会社を成長させている先輩も、M&Aの成功は「事業計画通りいくこと。事業がダメでもチームが残れば半分成功。」というくらいです。時間軸の関係で損失でていても、減損後、別の事業が当たって息を吹き返したり、事業はポシャったが親会社の重要な事業のグロースを牽引しているというケースはよくあります。

ロックアップ期間にどこまで属人性を排除し、事業承継しきれるかというのが論点になります。今回の記事では触れませんが、起業家をリテンションさせるいくつかの成功事例について今度書こうと思います。

ディールからアライアンスへ。M&Aのブラックボックスを解消したい。

最後に、上記の話はあくまで一部です。M&Aという特性上ある程度抽象化して話さざるを得ませんが、やはり高く売ったら勝ち。安く買ったら勝ちみたいなディール文化では、M&AでGrowthしていくことは難しいでしょう。情報隠して値段を釣り上げるような状態ではM&Aが成功していく世の中にはなっていくのはほど遠いと思います。

お互いにPre deal段階からしっかりビジョンを共有し、シナジーの確度が高いからプレミアムを正当化できる。そして、しっかりリターンを出し、M&Aを活用していくことが成長戦略として正しいことが、買い手の経営陣・投資家の中でコンセンサスが取れる。起業家も売却して良かったと表で胸を張れる状態になる。そうなっていかなくてはいけないと考えています。

Yappli CFOの角田さんもtweetしてましたが、日本のM&Aはまだまだ未成熟です。

M&Aで成功する会社が増えグローバルで戦える企業が産まれてくること、起業家が最適配置され悶々とした時を過ごすことが減ってイノベーションが加速していくことを望んでいます。

M&A・資金調達のカジュアルな相談は下記まで。

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