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夏の終わりに。

 夏季休暇が終わる。即ち、夏の終わりである。
…とまで言うと大袈裟だけれど、とにかく自分の中でひとつの期間が終わる。大したことはできなかったなとか、明日会議あったっけなあ嫌だなあとか、気持ちが後ろ向きになる。ただ昨年に比べれば、「まあいっか」と言える夏だったと思う。昨年の夏は体調を崩していたから。

 先月友人と会った時、「夏は好きか」と聞かれた。いま考えると、昨年といい高校生の頃といい夏は低空飛行の時期で、あまり心身の調子が良いとは言えない季節かもしれない。しかしまあ、先月の僕は「トータルで見ると好き」と答えたのだった。「理由は?」の問いには確か、

「色鮮やかになるから」

と返したかな。
それ以上特段の説明をしなかったにも関わらず友人2人はすぐに「ああ、」と頷いて、「景色ね」「青も緑も濃くなるな、確かに」などと続けてくれていた。そしてまた「うん」としか言わない言葉足らずの僕を坂の上から振り向いて、こんな言葉をくれた。

「突然の質問に対してその返事が出てくる、その感性が欲しい」
「あっとには世界が綺麗に見えてると思う」

 根暗っぽいとか、何を考えているかわからないとか、そんな事を言われる人間だった。過去には上司から、「考えを表情に出さずにいられるのは長所で便利な所だから、困った事があっても表に出さないお前でいろ」と言われたりもした。守った結果自分の首を締め、調子が狂い、その部署にはいられなくなったけれど。
 僕の人間性が大きく変わったとは思わない。意識して変えたことと言えば、自分が天才でないことを強く自覚し、無理そうな案件に当たればさっさと助けを求め、さっさと迷惑をかける様にしたこと。要はお荷物感が増しただけ。だからそう、今の僕が割と健やかであるのは、大抵環境のおかげだ。肯定せずとも否定はせずにいてくれる同僚や、認めてくれる友人たちのおかげ。

 大したことはできなかった夏。それでも、久々に会った友人たちからの嬉しい言葉を思い出しながら締め括る夏。「トータルで見るとプラス」の夏。


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