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挑戦!ゲーム依存症トークライブ‘言狼(ごんろう)’ゲーム ラウンド2

2022年7月10日、香川県高松市の中心部にあるアーケード街にて、ネット・ゲーム依存症対策条例(以下、ゲーム条例)を強烈に意識したリアルイベント「Sanuki X Gameさぬき えっくす げーむ」が開催された。昨年に続いての開催となる。このイベントの目的は、多方面からゲームの魅力と楽しさを多くの人にPRすることであり、ゲーム条例と対決することではない。
このイベントでは、デジタル・非デジタルを問わず多くのゲームが遊べる。また、瀬戸内地域で活動しているビデオゲーム制作団体が開発した作品の試遊、地元のビデオゲーム開発会社による作品の持ち込み添削など「ゲームは作る立場でも遊ぶ立場でも楽しいこと、そして、その楽しさを地域活性化へつなげられる」ことを具現化する目的に沿う企画・展示が目白押しだった。昨年と比べるとイベント会場が拡張されていたので、昨年版が好評のうちに終わったと判断してよいだろう。
当日は参議院議員選挙の投票日と重なっていたが、下の記事にもあるように、昨年と同様、イベント会場は多くの家族連れで賑わっていた。

本稿では、その企画の1つ「ゲーム依存症の処方箋」と題されたトークイベントの模様をレポートする。当日参加できなかった方は、本稿で留飲を下げていただければ幸いだ。
ちなみに、昨年にも同様の趣旨のトークイベントが開催されていた。そのレポートは以下リンクから参照できる。

実は、なぜか「関係者扱い」となり当日参加は叶いませんでしたが、主催者のご厚意により、後日開催されたシークレット再上映会にて講演会の聴講ができました。シークレット再上映会を企画くださったSanuki X Game主催者に対しまして、この場を借りて御礼申し上げます。
前述の理由で、このレポートで用いている写真は、シークレット再上映会で撮影したものを用いています。
また、ここからは「ゲーム依存症」は、文意の都合がない限り、臨床現場で用いられる名称「ゲーム行動症」と記載します。
以上の2点について、予めご了承ください。

本稿は、このトークライブを「人狼」ならぬ「言葉の狼」、すなわち「言狼ごんろう」を見抜くゲームの攻略本でもある。まともに聞いていると、人狼ゲームの敗者のごとく、思考が「デマ」という‘狼’に占拠されてしまうからだ。
もちろん、いないほうがよいに決まっているが…

トークイベント「ゲーム依存症の処方箋」登壇者

物質依存と行動嗜癖、寛解へのアプローチ手法は同じでいいのか

本講演会は、海野氏によるゲーム行動症関連の講話から始まった。特にジャンルを特定しない「依存症」の一般的な知識から、徐々にゲーム行動症に絞っていく話の展開だった。
ゲーム行動症は、ICD-11(国際疾病分類および関連健康問題 第11版)に収載される前は、2000年になる前頃から名付けられた「インターネット依存症」の1つのような形で扱われていた。世界中でWindows 95/98が爆発的な売り上げを叩き出したことと、技術基盤が整い始めたことが相まって、個人へのインターネット接続サービスが本格的に普及し始めた頃だ。と同時に、その新しいICTサービスに家事などの日常生活を放り出してまでハマる人も増え始めた。今は亡き国内のPC専門誌『Windows Start』によれば、当時のUSAでは、インターネットサービスに病的なほどハマっている状態を意味するネットスラングのような表現も使われていたようだ。それほどの事態になっていたので、当然これは社会的に問題視される。それを受けて、インターネット依存症という事象がこの世界に生まれた。他の発明と同じで、この事象もゼロベースから解釈されてはいない。この事象は、アルコール使用障害、つまり、物質依存のそれを参照して解釈されている。
1匹目の言狼はここに潜んでいる。今ではゲーム行動症の解明をむしろ妨げているのではないか、と医学系の知識が素人レベルの私でも訝るほど研究データを曲解する行為を憚らない久里浜医療センターだが、元はアルコール使用障害の寛解のために設立された医療機関だ。名誉院長の樋口 進氏も、本来は、アルコール使用障害が専門領域だ。

なぜそこに触れたのか。アルコール使用障害に代表される物質依存と、ゲーム行動症やギャンブル障害に代表される行動嗜癖とでは、ロジック及び寛解へのアプローチが異なる可能性があるからだ。実際、ゲーム行動症を収載しているICD-11においては、ゲーム行動症はギャンブル障害と同じカテゴリーに属しているうえ、診断基準や寛解へのアプローチ手法も似ているが、アルコール使用障害が属するカテゴリーには属していないからだ。

出典:ICD-11 for Mortality and Morbidity Statistics (Version : 02/2022)

だから、無理がある。アルコールは酒ともいわれるが、薬学的にみれば、過剰摂取すると医学的な生命をロストする薬物(神経毒)だ*1。毒なので、過剰使用は、脳を含む身体器官への悪影響をもたらす。このため、寛解にあたっては、摂取を断つか適切な摂取量まで落とさなければならない。そのロジックをビデオゲームにほぼそのまま転用しているのが、久里浜医療センターや樋口氏のゲーム行動症のロジックであり、寛解へのアプローチ手法といえる。しかし、「ビデオゲームの過剰使用が(ゲーム行動症につながるので)いけない」と断言した、確証性の高いエビデンスは、本稿執筆時点では、この世にない
それに、現実的に見れば、ビデオゲームの過剰使用で起こる事象(A)はゲーム行動症(B)ではない。VDT症候群だ。こちらは、医学的な生命をロストするレベルの重篤な症状はまず発生しない
臨床や研究の場で議論になった経緯もあり、2022年2月に行われたICD-11の更改では、ビデオゲームの過剰使用による健康への悪影響(危険なゲーミング)とゲーム行動症との違いが明確にされた。

(A)(B)二者の違いは以下の記事を参照

加えて、本稿執筆時点では、ゲーム行動症において、ビデオゲームの過剰使用が脳に悪影響を及ぼすことに関する確証性の高いエビデンスはない。ゆえに、ゲーム行動症をまじめに研究している医師の1人、吉川 徹氏は、あるウェビナーにおいて「ロジックが未だ確定していない段階で、ビデオゲームがもたらす脳や心理への影響については成書や講演で述べることはしない」と断言している*2。
翻って、海野氏は、スライド内で堂々と脳や心理への影響を挙げていた。ここは昨年と同じだった。
一般的な依存症の話と最初に書いたが、前提としておそらくアルコール使用障害のそれがあり、スライドはそのロジックを踏襲した説明だろう。

ただ、それはある意味仕方がないといえる。海野氏も、本来の専門領域はアルコール使用障害だからだ。そして、国内でゲーム行動症を診療科目に挙げる多くの医師は、その国内の権威である久里浜医療センターで研修を受けているだろうし、同センターの名誉院長、樋口氏の著書で知見を得ているだろうからだ。
だが、ICD-11の改定もあり、その知見は悪い意味でレガシー化しつつある。彼は、当事者である子どもから聞いたことをそのまま取り込んだかのような、偏った不正確極まりないビデオゲーム・ICT関連知識*3 も含めてアップデートする必要がある、と個人的には感じる。
それを外しても、ロジックが確定していないロジックの情報提供は聴講者の誤認を招く。加えて、海野氏の話の中でアルコール使用障害を引き合いに出すことが目立っていたことも、彼のゲーム行動症に関するロジックのベースがアルコール使用障害に拠るからこその産物ではないかと私は考える。
ゆえに、これを「言狼」とした。

一般初公開?三光病院独自メソッド「S-NIP」診療レポートから

続いて、講演のタイトルである「ゲーム依存症の処方箋」に即して、海野氏は、自身が院長を務める三光病院の処方箋の代表例として「S-NIP(Sanko-New Identity Program)」を紹介していた。

海野氏は、これで行われているグループワークの内容を、依存症寛解支援に詳しくない方でも適切に運用できるよう再編成したガイドブック「i Swingアイ スウィング」を、香川県の委託を受けて作成し、県内の小中学校や小児科、行政の相談窓口など約700の事業体に対して、香川県が配布している。

この講演では、S-NIPの診療実績が数字付きで公開されていた。同病院のWebサイトにも掲載されていない情報であり、私の知る限り、おそらく本講演がそれを一般公開した初のイベントだ。

同病院のゲーム行動症外来(子ども外来)が毎週土曜日であることから、この診療科には2週間に約1人の割合でゲーム行動症疑いの患者を診療していることになる。
2021年会計年度の場合、4回以上グループワークに参加している方は全体の約4割、グループワークを使ったアプローチを断念した方は全体の約4割、S-NIPを使った診療の効果がなかった方は全体の2割だ。
なお、寛解に至った方の数は非公開だった。

診療対象者は独自の基準で選んでいるとのことだが、それに該当しない方も多く来院するようだ。だが、そこについては、海野氏が香川県が作成・頒布するデマ満載のゲーム行動症啓発資料の医療監修を手掛けている立場であることから、自業自得といえる。
2匹目の言狼は、そのプランが採用している寛解へのアプローチ手法に潜んでいる。『i Swing』と、その参照元であるS-NIPでは、認知行動療法をベースにプランが組み立てられている。この認知行動療法だが、実は、ゲーム行動症の寛解には相性が良くないことが論文で示されており、ゲーム行動症をまじめに研究している大学教授、井出 草平氏は論文を根拠とし、三光病院の手管のまずさを指摘している。

『i Swing』でも、スライドから、認知行動療法を基にしたCRAFTクラフト(Community Reinforcement and Family Training)を中心に編成されていると推察される。吉川氏によると、ゲーム行動症は不登校や引きこもりの事象を併発している場合が多く、ゲーム行動症はその2つに横たわる問題を解消すると自然に寛解している事例が、臨床現場から見て多いそうだ。
CRAFTや認知行動療法が、ゲーム行動症の寛解へのアプローチ手法として相性が良いのかそうでないのかは、今後の研究成果が待たれる。ただし、「ICTサービスを使わない時間≒有意義な時間」の旨の偏見に基づいたアプローチだけは避けてほしいと考える。下スライド記載の「ビデオゲームの構造的特徴が無益な~」と断言できるエビデンスは、本稿執筆時点ではこの世にない(逆に有益と断言できるエビデンスも存在しない)からだ。

それを差し引いても、一見有用と思えるが実は効果が怪しいものを持ち出す行為からは、その怪しさを無知もしくは作為的に隠しているかどうかにかかわらず、少なくとも、本講演の聴講者を騙している印象を受ける。
なお、分野問わず、技術者にとっての「無知」は、業務において重大インシデントを冒す因子の1つだ。ゆえに、言狼の1つとした。

ゲーム行動症の話題が出ない、ゲーム行動症に関するパネルディスカッションと質疑応答

質疑応答では、登壇者の属性からか、質問に対する回答がかみ合わない印象を受けた。これは、特に課金界隈の質問が聴講者から出されたときに感じた。ここで認識していただきたいことは「課金額の異様な多さ=ゲーム行動症固有の事象、ではない」だ。
現実に即すれば、課金界隈で「ユーザー側」視点で問題にするべき点は、以下の2点しかない。

  • 出費、収入を自己で完全に管理できているか(前借りなどをして収入を超えた出費をした際の事後処理を合法的に実施できるか、など)

  • 収入を得る際、犯罪行為が伴っていないか

一方、「課金システムを実装する側」視点で問題にするべき点は、以下の2点しかない。

  • 課金システム関連のユーザーインターフェースデザインがダークパターンに陥っていないか

  • 製品を展開する国や地域の法令に定められた内容に従ってシステムを実装しているか(優良誤認などを起こす説明になっていないか、など)

ダークパターンとは
ビデオゲームの場合は「ゲームアプリケーションのユーザーインターフェース設計を利用し、ユーザーにとって不利な決定に誘導する手法」をいう。

参考:『はじめて学ぶ ビデオゲームの心理学』

また、ビデオゲーム運営/販売側が管理するサーバーのログで参照できることは、ユーザーの課金額と課金の履歴だけなので、ゲーム運営/販売側は、ユーザーの課金の背景を子細に調べることは実質的にできない。
加えて、ビデオゲーム開発側がゲーム行動症対策を製品に盛り込む場合は、世界的に見て共通の内容で確証性の高いエビデンス、つまり、海野氏に言う「ゲーム行動症になるビデオゲームの構造的パターン」という条件を子細に数値化し、世界各国のどこに出しても通じる、標準化されたデータが必須だ。なぜなら、ビデオゲームは、創作物以前にコンピュータープログラムだからだ。そして、コンピューターの中の世界で通じる言語は数値だけだからだ。ゆえに、その数値がわからない本稿執筆時点では、たとえどれほどゲーム開発会社や運営会社がゲーム行動症対策に関心があっても何もできない。条件が標準化されていないと市場展開にも支障をきたす。話は変わるが、マスキー法は、数値による標準化がされていたからこそ、当時の日本の自動車製造業界が反撃の嚆矢を堂々と放てられた歴史がある。
マスキー法の例のように、規格や仕様の世界的な標準化は、特にテック系の業界の発展には重要だ。ビデオゲーム業界は、情報通信技術というテック系の業界にも属することを忘れてはならない。

以上の背景があるため、簗瀬氏が回答できることには本稿執筆時点では限界がある。簗瀬氏の回答が、現状の課金システムの特徴程度だった理由はおそらくそこにあるだろう。質問者からすれば期待に沿えない回答だったに違いない。質問者の話のトーンなどから「課金額の異様な多さ=ゲーム行動症固有の事象」と勘違いしている可能性が高いことも相まって、質問者は相当な剣幕になっていた。

現実は、課金トラブルは消費者問題に属しており、日本国内では、民法に抵触するか否かの問題として扱われる。なお、課金トラブルの情報を掲載している消費者庁のWebページには、依存症の文字はない。

また、国政レベルで問題視されることは、課金ビジネスの存在意義ではなく、それが法的に問題がないか否かだ。ビデオゲームの課金問題で真っ先に名が挙がる『フォートナイト』開発・運営元事業体が、2022年12月にUSAの政府機関から罰金を科された理由は、このゲームの持つ依存性ではなく、法令への抵触だ。

一方、腕の確かな医師による臨床現場では、課金のし過ぎがゲーム行動症の一端であるか否かの判定には慎重を期している。当事者の置かれた背景を精査しなければ誤診するからだ。課金額の多さだけでゲーム行動症になっているか否かの判断は不可能と書いた理由はそこにある。

出典:『ゲーマーズダンジョン』(第1巻)

それ以外の質疑応答は、ビデオゲームとの正しい付き合い方に関する内容だった。
ここでこのWebページを上にスクロールしていただきたい。ゲーム行動症とビデオゲームとの“正しくない”付き合い方(危険なゲーミング)とでは、問題現象として全く異なる事象であること、ゆえに、この二者を混ぜて解釈してはならないことを、「ゲーム行動症を“国際疾病”として“認めた”WHO」自身が、ICD-11の更改をもって“宣言した”旨を解説した記事へのリンクがあるからだ。

補足:「ゲーム行動症」「危険なゲーミング」のいずれも、本稿執筆時点では、WHOおよび厚生労働省が正式に認めた名称ではない。

ICD-11の最新版の診断基準に則せば、「私はゲーム行動症になっている」と公言するプロeSportsプレイヤーのときど氏は「業務の一環として熱意と誠意をもってゲーミングをしているだけ」で、まったくゲーム行動症に当てはまらない。ゲーム漬けにもかかわらず生活リズムが破綻していないうえ業務もこなせていることは、下の記事からもわかる。

パネルディスカッションでは、eSports選手について、依存症専門医である海野氏がどう思っているのか、うめ氏から質問が投げられた。海野氏は「今はeSports選手が職業として認知され始めているから、ビデオゲームのプレイが得意な人にとっては“ゲームの遊びすぎ”と揶揄されていた過去と比べると、仕事として認められやすくなってきている。ただ、学校から見れば、専門学校につなげられる仕組みが整っていない。そこは整備してほしい」と答えていた。これは、中立的な立場での回答と私は感じた。
それならば、氏が医療監修した香川県配布の啓発マニュアルにおけるeSports選手への職業観を「現実に即して直せ」と香川県に言及してほしい。下図が当該ページだが、この内容では「eSports選手を職業として選ぶことは健全な児童生徒の持つ思想ではない」と教師や児童生徒に刷り込ませる恐れがあるからだ。

この表記だと、行政機関による職業差別をしているのと同じではないだろうか

海野氏には、香川県のお隣、岡山県にeSports専門学校があることは、予備知識として備えていただきたかった。なお、実績の積み上げが課題であることは、日本国内すべてのeSports専門学校で共通だ。

ちなみに、eSports選手に必要なのは依存症対策よりメンタルヘルスのケアだ。プロeSports選手はプロアスリートだからだ。ゆえに、海外ではその整備も進みつつある。メンタルヘルス対策が疎かだと、選手がスランプに陥った際、清原 和博氏のように、ゲーム行動症よりもっと危険な依存症に陥る恐れがあるからだ。

さて、海野氏は「どのような使い方がよいのか、また、まずいのかを知ることが、正しいビデオゲームとの付き合い方を会得するために重要」と話していたが、それは危険なゲーミングの抑止の話であり、医学的な対策として厚生労働省が公表している「情報機器作業における労働衛生管理のためのガイドライン」が対策として存在する。また、ビデオゲームやICT機器に導入されているペアレンタルコントロール機能は、危険なゲーミングを抑止するために作られている。ゲームというアプリケーションソフトウェアの機能を制限するのだから、お子様のゲームのプレイスタイルについて、ゲームをお子様と遊びながら話し合い、お互い納得できる形で、制限のためのルールを作ることは、危険なゲーミングを長期的に抑止できる。そのためにも、保護者は、ビデオゲームやICT機器を恐れずに「子どもと一緒に」触って学んで理解していただきたいと切に願う。
ゲームの遊び方や選び方には子どもの性格が出るので、一緒に遊ぶついでにそれを観察して今後のお子様とのコミュニケーションの検討材料にもつなげたい*4。

総括として登壇者が話していたことを踏まえて書くと、上記のようになる。

…そう、実は、質疑応答やパネルディスカッションにおいては、登壇者の誰もゲーム行動症の話をしていなかったのである!どこかで聞いたオチだが、実際そのように私は感じた。ゆえに、これを3匹目の言狼とした。
換言すると、本講演のタイトルである「ゲーム依存症の処方箋」は、本講演では見つけ難いものだったのだ。

最後の1匹:香川県or三光病院、そんな装備(知見)で大丈夫?

ゲーム行動症の寛解にあたっては、ビデオゲームのし過ぎやそれで起こる腱鞘炎といった健康上の問題、課金額の多さなどの表面的な事象に目を奪われると、当事者の生き辛さや孤独感、それに付随する苦悩との葛藤といった、「真に狩るべきボス」を専門家ですら誤る。
本講演でも海野氏が触れていた、香川県からの委託事業として行ったS-NIP内イベント「ゲーム行動症経験者」の講演だが、講演者がゲーム行動症経験者でなかった疑いが強い、と井出氏は指摘している。もし、この講演者を招聘した事業者が三光病院なら、S-NIPの信頼性に激震が走ることは避けられない。かの医院のゲーム行動症の診断基準が怪しいことが露呈するからだ。

井出氏と同様の内容を、ゲーム行動症をまじめに研究している医師の1人、関 正樹氏は『ゲーマーズダンジョン』の巻末コメントで述べている。

出典:『ゲーマーズダンジョン』(第1巻)

そんな海野氏は、中立的なスタンスをとった話し方をしており、久里浜医療センターの樋口氏ほど極端で壊れた思想は持っていないことは、昨年と今年の講演を聴講して強く感じた。本稿ではあえて彼の考え方について悪い点ばかり挙げているが、前述の点は何卒留意いただきたい。
ただ、ベースとなっている考え方が悪い意味でレガシーで、ゲーム行動症を扱う割にゲームに関する知見が乏しい印象も、その成果物や表現からは受けてしまう。そこは直してほしいと私は願っている。

ちなみに、次回は少しやり方を変えて、ゲーム行動症に関するトークイベントを開催したいことをSanuki X Game主催者は話していた。もし都合がよければ、次回のトークイベントに参加してみてはいかがだろうか。

参考資料など

  • セリア=ホテント(著作)/山根 信二(監訳)『はじめて学ぶ ビデオゲームの心理学』(福村出版)

  • 吉川 徹『ゲーム・ネットの世界から離れられない子どもたち』(合同出版)

  • ナナトエリ/亀山 聡『ゲーマーズダンジョン ~僕はゲーム依存症じゃない(第1巻)』(小学館)

  • 井出 草平「香川県ネット・ゲーム依存対策条例を考える 講演資料 2020年2月9日版」

*1 2023年2月19日まで国立科学博物館で開催されている「特別展“毒”」の展示を参照 (https://nlab.itmedia.co.jp/nl/articles/2211/07/news117.html)
*2 合同出版「出版記念トークセッション第1弾『ゲーム・ネットの世界から離れられない子どもたち』吉川 徹さん×高山 恵子さん」内の講演内容に基づく
*3 香川県教育委員会「学校現場におけるネット・ゲーム依存予防対策マニュアル(2021年版)」…例:詳細版P.55の「エイム」は「照準」と書いているがが、正しくは「標的に照準を定める行動」(https://www.pref.kagawa.lg.jp/kenkyoui/kyoisomu/syokai/sonota/inter1net/manual.html)
*4 日本放送協会『オトナの保護者会』(NHK eテレ、2021年1月30日放映)内の関 正樹氏のコメントより

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