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嫌いだった給食、ナス、トマト

そうだ、トマトもナスもピーマンも食べられない子供だった。

大学生の頃、連休で今住んでいる県から3時間ほど北に上った位置にある実家に帰省したときのこと。
「あれ、トマト食べられるようになったの?」
レタスやきゅうりの混ざったサラダの頂上に鎮座していたトマトを、自分のお皿に取り分けた時に、母に言われた言葉だ。

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思えば、小学校の給食の時間は苦しい場面が多かった。
通っていた小学校は、月末になるとその翌月の献立が日毎に記載された紙が配られていた。僕は配られた、そのA3用紙を一番念入りに確認していた子供だったと思う。

「ああ、来週の4日、野菜カレーだ、、絶対ナス入るじゃん」

そう、野菜全般が苦手な、ありがちな小学生だった僕は、その日の献立に嫌いな野菜が入っていると、給食の時間が迫ってくるといかにその野菜を食べずに給食をやり過ごすかと考える子だった。

あの日も献立に「夏野菜カレー」が名を連ねていた。
もちろんカレー自体はとっても好きだった。
なのに、夏になると毎年満を辞して現れる「夏野菜カレー」には当時の僕にとって大の天敵である、ナスが入っているのだ。
大好きなカレーに、一個ナスが入っただけで、どうしてこうも忌まわしい存在に成り上がってしまうのか。。。当時の僕の大嫌いな存在だった。

僕の小学校では、与えられた給食を食べきらなければ、昼休みに遊びに行けなかった。(もちろん、担任の先生によるが。)
「夏野菜カレー」が献立に入っていて、さらに給食当番にナスを避けてもらえなかった際にはもう終わりだ。昼休みはないと思った方がいい。

運悪く、自分のカレー皿へのナスの登場を阻害できなかった僕は、その日も昼休みを返上してナスと格闘していた。確か小3のことだ。
夏野菜カレーと、フルーツの入ったヨーグルトという組み合わせだったと記憶している。そして、昼休みには、委員会活動が入っていた気がする。

なぜかというと、昼休み開始の13時を回っても集まりにこない僕を心配して、2個上のコウタさんが様子を見にきてくれたからだ。

みんなが体育館やグラウンドに遊びに出た後の、静まりかえった教室で独りナスと格闘していた僕を見て、コウタさんは驚き「どうしたの!」と言った。
「食べれない、、」と伝えたところ、彼は「食べてあげるよ!」と一言。
ちなみに、コウタさんは今、自衛隊に入り、国を守っている。その正義感はおそらく当時から存在していたものだろう。給食に負けそうな僕を助けてくれようとしたんだろう。

僕はコウタさんがまさにヒーローのように見えた。そう、被災地に赴く自衛隊、人道支援に遠い国に派遣される自衛隊の方々のように。


しかし、次の瞬間、目を疑った。
コウタさんが手に取ったのは、フルーツ入りヨーグルトの方だったのだ!!
「え、、え、、、」戸惑いを隠せない僕を横目に、正義感で顔をいっぱいにした様子の彼が黙々とヨーグルトを食べ切った!

彼は「はい!教室で待ってるからね!」と予定されていた委員会の集まりに早々と帰っていった。

もうそこからの記憶はほとんどないが、絶望に駆られた僕は、3年生の教室のすぐ隣にある男子トイレに、カレーを流しに行った。
当然、先生に見つからまいと廊下を確認しながら行ったはずだが、後からこっぴどく叱られた。絶望の中で、上の空だったのだろう、警戒が甘かった。

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それから数年がたって、今思うと、高校生の頃でも、母は野菜嫌いのイメージが拭えない僕を気遣って、家で食べるご飯やお弁当にはナスやトマトなどの野菜を入れないでくれていたんだろう。
(何ともお恥ずかしい話だが、なんてめんどくさい 高校生だろう…!)

おそらくその頃には、食べようと思えば食べられていたはずだが、嫌いな野菜が目の前に置かれないという甘やかされた状態であったためか、嫌いだと意識することもなくなっていた。

食べられるようになってる!と認識したのは、大学生になりアルバイトを始めた時にまかないで出されたトマトを口にした時だ。

以来、トマトが出ようが、ナスが出ようが、難なく食べられていた。
むしろ、美味しいとまで感じるようになっていた!これは小3の僕からは信じ難い成長である。

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そんなこんなで、小さなちいさな成長を自覚した僕は、冒頭の母から驚きの声をかけられた。

こんな成長でも喜んでくれる人がいるということは何とも得難い幸福感がある。些細なことでも、無条件に喜んでくれる家族がいることに感謝しなければならない。甘いと言われようが、なんと言われようが、その境遇にいられることを大事にしていきたい。

直接感謝を伝えられるほど、できた人間ではないが、心に秘めておくのもちょっぴり罪悪感があるので、ここに書き留めておきたい。
直接、感謝を言葉で伝えられるようになったら、それもまた小さな成長だ。

伸びしろは多少残しておいた方がいいよね!というのは照れているだけ。
直接ありがとうを伝えられない言い訳をしている。

まだまだ子どもだなあ。

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