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『未来の学校のつくりかた』発刊します。

みなさま、平和にお過ごしでしょうか。税所篤快です。本日よりAmazonページでの発売が開始になりました。せっかくなので、今回の発刊に寄せる想いを書いてみます。

「思っていたよりも、ずっと早く2030年が来てしまいそう」

コロナ危機に直面し、僕はそう感じていました。今回発刊する「未来の学校のつくりかた」は、「2030年に理想の学校をつくる!」というテーマで、5年をかけて日本各地の「教育界の挑戦事例」を訪ね歩いたルポルタージュです。本書には、10年後を見据えた5組のリーダーたちが登場します。

今回のコロナ危機は、10年分の変化をまとめてタイムマシンに乗せて、私たちの前に運んできてしまうのではないか……せっかちな僕は、そんな風に考えて、心がざわざわしていました。

しかし、この本の制作の最終段階で、今まで書いてきた内容を幾度となく読み返すうちに、捉えどころのない焦りはだんだんと収まっていきました。よくよく考えてみれば、本当に大事なことは10年経とうが20年経とうが、そこまで大きくは変化しないんだ――取材してきた人たち、そして過去の自分に「落ち着けよ」と声をかけてもらった心地がします。

「主語は大人ではなく、子ども」
「学校はあるものでなく、つくるもの」
「地域、保護者、教職員、子どもたち全員で自分たちの学校をつくっていく」

本書には、乱世であろうが平時であろうが忘れず心に留めておきたい、教育の原点に根ざした生の言葉が、ぎゅっと詰め込まれています。それらは教育の文脈に留まらず、人が人と生きていくなかで大切な何か、人が人らしく生きていくための在り方をも、指し示してくれているように思えています。

この本で紹介する5つの教育現場は、まったく異なる特徴を持っています。たとえば、第1章の大空小学校は、普通と特別の垣根をなくした公立校の実践談。一方、第2章の杉並区の物語は行政の視点から、何十校と跨った教育政策の話に及びます。第3章のN高等学校は、テクノロジーを駆使したデジタルな学校づくりを推し進めています。一方、第4章のサムライ学園は、人と人とのぶつかり合いを重視した超アナログな教育を展開しています。そして第5章で取り扱うのは、東日本大震災によってあらゆる資源を失った岩手県大槌町の教育復興の物語です。

それぞれ場所も状況も全然違うにもかかわらず、現場の様子を知れば知るほど、実は5校とも同じことを実現しようとしているように感じられました。それはどの物語も、「主語を子どもたちに据えること」「学ぶ場は一人ひとりがつくっていくもの」「失敗したら、やり直せばいい」といった、共通した価値観を根底に持っているからです。こうした価値観が揺るぎない足場となっているからこそ、彼らは目的を見失わずに、変化し続けられるのだと思います。それは「変化のための変化」ではなく、「大事なものを守るために起こる必然の変化」なのです。

「10年分の進化を一気に遂げなければならない私たち」

僕はこの挨拶で最初、焦る気持ちを落ち着けきれずに、そんな言葉を書いていました。けれども、それは本質的じゃないと思い直しました。危機に直面した今こそ必要なのは、変化への強要ではなく、心穏やかに変化を受け容れるための、寄って立つ足場です。その足場とは、一体どういうものなのか。先輩たちはどんな失敗を噛みしめ、何を足場として、何を失わないために、挑戦を続けてきたのか。それを真摯に記録して次の世代につなぐことが、この本の存在理由なのだと、僕はあらためて感じています。


ちょっと話が広がりすぎたかもしれませんが、このメッセージがそこまで大言壮語でないことは、きっと本書を読んでもらえたら、わかってもらえると信じています。どうぞ刮目して、お楽しみください。




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