見出し画像

Study88_2.【トマトの基本を押さえよう!】ペクチンによって状態が目まぐるしく変わる/酸性の煮汁で煮ると硬く仕上がる塩水で煮ると早く柔らかくなる

前回の記事では、トマトの構成成分や香りの種類についてまとめていきました。今回は、加熱方法について踏み込んでいきます。

この記事は、「野菜Labo」がつくる東広島野菜をつかったポタージュスープ「朝のひとくちめ」の種類にトマトのポタージュを加えるべく、レシピ開発に向けての実験を行なっていくものです。

トマトの加熱温度

固形トマトを硬く保つには低温加熱
ペクチンの作用と関係してる

ある種の野菜や果実は低温処理で硬さを保つ 野菜・果実( … トマト, … など)のなかには,低温で下ごしらえすることで,調理中に柔らかくなりすぎるのをある程度抑えられるものがある.55〜60℃で20〜30分加熱した場合,その後に長時間加熱しても硬さが保たれる.長く加熱する必要のある肉料理に野菜を加えるときや,ポテトサラダのジャガイモ,または瓶詰め保存などで,野菜の型崩れを防ぐことができる. ( …  )このような野菜・果実の細胞壁には,ペクチンをカルシウムイオンで架橋されやすい形に変換する酵素が含まれ,これは50℃前後で活性化される(80℃前後で失活する).同時に,傷ついた細胞膜から細胞の中身が染み出すときにカルシウムイオンも放出され,ペクチンの架橋が進んで,沸騰させてもペクチンが溶出・分解しにくくなるのである.

Harold McGee(2008).マギー キッチンサイエンス -食材から食卓まで- 共立出版

ジャガイモは煮崩れを防ぐために低温で煮る、と聞いたことがありますが、トマトも煮崩れを心配するタイミングがあるのですね。だいたいの場合刻んで水分を飛ばしてしまうことが多かったので新鮮な視点でした。そしてまたしても登場してきた「ペクチン」。「ペクチンがカルシウムイオンで架橋される」という変化についてこれまでの記事でも触れたことがあった気がするのですが、一旦脱線して整理してみます。

ペクチンのカルシウムイオン架橋ってなんだっけ?

そもそもペクチンとは、いろいろな野菜や果物の細胞壁に含まれていて、細胞壁を強くし野菜や果物を硬い状態に保つ役割を担っています。野菜や果物が熟して柔らかくなっていくのは、このペクチンが分解されることによって起こります。

ペクチンの作用はいろいろな食べ物に影響していて、例えばフルーチェを牛乳と混ぜると”ぷるぷる”になるのも、柑橘系のジャムが”とろとろ”なのも、過去に行った野菜Laboの実験で、カリンジャムが”ぷるぷる”になったのもこのペクチンのおかげです。

このぷるぷるになる状態でよく出てくる表現が「ゲル化」。このゲル化という現象一つにおいても、条件の違いによってありとあらゆる科学変化が巻き起こっているようです。その中でも身近なものは2種類ある様子。

1、「糖」「酸」「加熱」で"ぷるぷる””とろとろ"になるゲル化
この変化はペクチン、水、糖分、および酸を加熱することで生じます。ジャムなどのテクスチャーをつくっているものですね。

2、ペクチンがカルシウムイオンによって架橋されゲル化
ペクチンとカルシウムが出会うことで起きる、「カルシウムイオンの架橋」です。カルシウムがペクチンとペクチンを橋渡しして結びつけることで立体構造が生まれ、水分を閉じ込めて固まります。フルーチェがぷるぷるになる現象や、ゼリーが固まるのもこのメカニズムです。

この2つのゲル化は同じ食品内で同時に起きることもあれば、順序立てて起こることもあり、明確にどちらのゲル化「だけ」が起きている、というものではありません。

フルーチェがぷるぷるになる詳しい仕組みについては、ゲルの研究を行っているというGelate(ジェレイト)さんのすばらしくまとまったnote記事がありました。

話をトマトの話に戻すと、トマトを55〜60℃で20〜30分加熱すると、トマトに含まれるペクチンがカルシウムで架橋されやすくなり、細胞が壊れると細胞内のカルシウムイオンも出てきてさらに架橋されやすくなり、ゲル化とまではいかないもののトマトがちょっと硬くなる、ということです。

商業用のペクチンは柑橘の皮から取ることが多いらしいですが、様々な野菜・果物にも含まれているんですね。

ちなみにペクチンには種類もあり、
1、低メチル化ペクチン (LM pectin) 加熱しないとゲル化しない
2、高メチル化ペクチン (HM pectin) 加熱しなくてもゲル化する
という特徴があります。

低メチル化ペクチンで起きるのが「糖」「酸」「加熱」によって起こるゲル化。高メチル化ペクチンで起きるのがペクチンがカルシウムイオンによって架橋されゲル化、ということですね。

さらにポタージュに話を戻すと、今回は何かしらの形で加熱したトマトをミキサーにかけてしまうので、固形のトマトで起きるペクチンのカルシウム架橋とは直接は関係がなさそう。

ピューレにおける、ゲル化とも違うトロミのつけ方

トマトの酵素とトロミ トマト・ピューレの最終的なトロミは,除いた水分量だけでなく,中〜高温での加熱時間によっても変わってくる.

Harold McGee(2008).マギー キッチンサイエンス -食材から食卓まで- 共立出版

完熟トマトは,細胞壁中のペクチンやセルロース分子を分解して果肉を柔らかくする酵素活性が非常に高い.トマトをつぶすとこれらの酵素と酵素の標的分子とが混じり合い,細胞壁構造の分解がはじまる.

Harold McGee(2008).マギー キッチンサイエンス -食材から食卓まで- 共立出版

ここから考えられるのは、ペーストにしてから加熱するのと、加熱してからペーストにするのとでは状態が変わってきそうだぞ、ということです。

生のピューレをしばらく室温に置いておくか,ペクチン分解酵素の変性温度(80℃付近)よりも低温で加熱すると,細胞壁を強化している成分の多くが酵素分解される.その結果,放出される分子のおかげでピューレのトロミが著しく増す.

Harold McGee(2008).マギー キッチンサイエンス -食材から食卓まで- 共立出版

このとき起きていることは、先ほどまとめたペクチンのゲル化とはまったく別のトロミのつけ方です。前回はペクチン同士がくっつくことによってトロミが出ていましたが、今回は逆にペクチンが分解されて短くなり、細胞壁が壊れ、細胞壁の中にいたあらゆる分子が放出され、トロミにつながるということです。

しかし,この後加熱して水分を飛ばし濃縮すると,すでに酵素作用を受けた分子が高温で分解されてさらに小さくなってしまい,トロミづけ効果が弱まる.

Harold McGee(2008).マギー キッチンサイエンス -食材から食卓まで- 共立出版

ここから分かるのは、そこそこ小さな分子はトロミがつくけど、高温加熱によりもっと分子が小さくなってしまうと今後は逆にトロミが少なくなってしまうということ。ポタージュづくりで懸念されるのは、袋詰めの後に殺菌される作業でトロミが著しく減る可能性があるということですね。野菜の多さでトロミづけする必要ありそうです。ペクチンの話の時に、55〜60℃で20〜30分加熱するとその後沸騰させてもペクチンが分解されにくいという話があった。

生のピューレを沸点近くまで急加熱すると,あまり煮詰めなくてもトロミのあるソースができる.熱によりペクチンやセルロースの分解酵素は変性・失活するが,同時に細胞壁も破壊される.ただしこの場合,煮込んで濃縮する間に細胞壁から液相に出てくるペクチンは高分子なので,トロミづけ効果が高い.

Harold McGee(2008).マギー キッチンサイエンス -食材から食卓まで- 共立出版

酸性の煮汁で煮ると硬く仕上がる
塩水で煮ると早く柔らかくなる

細胞壁構成成分の溶出や,組織が軟らかくなる加熱過程は,化学環境に強く影響される.ヘミセルロースは酸性ではあまり溶解しないが,アルカリ性では溶解が高まる.すなわち,果実・野菜を酸性の液で調理すると(たとえばトマトソースや,その他の果汁やピューレなどえお使った場合),何時間加熱しても硬さが保たれる.一方中性の熱湯で(酸性でもアルカリ性でもない)で煮た場合は、同じ野菜でも10〜15分で軟らかくなる.アルカリ性の液で調理するとすぐに煮崩れる.中性水に食塩を加えて野菜を調理すると、早く柔らかくなるが、これは細胞壁中で接着成分の分子同士を架橋・固定しているカルシウムイオンがナトリウムイオンで置換され,架橋が切れて,ペクチンが溶け出しやすくなるためとみられる.

Harold McGee(2008).マギー キッチンサイエンス -食材から食卓まで- 共立出版

ここにきてヘミセルロースという物質が登場しました。ヘミセルロースとは、セルロース微繊維間を架橋(橋渡し)できる架橋性多糖の総称です。ヘミセルロースには「キシログルカン」「グルコマンナン」などがあり、アルカリによって溶かして抽出できる成分のことです。

つまりトマトやトマトピューレを煮込むと自らの酸性の性質により硬さが保たれる可能性がある。トロミはつけやすいのに、さらさらには仕上げにくいということですね。

また、他の野菜と合わせて調理する場合、トマトは後半に入れるほうがいいかもしれません。最後にミキサーにはかけるものの、ミキサーで無理やり攪拌するのではなく煮込みでほろほろにしておいた方が余分な攪拌時間が不要になります。

また、塩水で茹でると早く柔らかくなる!というおもしろいことも書いてありました!塩も序盤から入れて煮込みたいですね。

茹で汁がアルカリ性になる状態ってそんな場面だのだろうか?と思いゆで汁をアルカリ性に傾ける野菜を調べてみたのですが、なかなか出てきませんでした。 ベーキングパウダー、カンスイなどはアルカリ性ですが、なかなか煮込む時には入れません。とにかく塩を早めに入れると早く柔らかくなる。ということだけ覚えておけば良さそうです。

つづいての記事では、焼き方についてまとめていきます。お楽しみに*


最後までお読みいただきありがとうございます。頂いたサポートは「野菜のおいしい食べ方がもっと世の中に溢れるため」の活動や勉強のために使わせていただきますね。