Study88_2.【トマトの基本を押さえよう!】ペクチンによって状態が目まぐるしく変わる/酸性の煮汁で煮ると硬く仕上がる塩水で煮ると早く柔らかくなる
前回の記事では、トマトの構成成分や香りの種類についてまとめていきました。今回は、加熱方法について踏み込んでいきます。
トマトの加熱温度
固形トマトを硬く保つには低温加熱
ペクチンの作用と関係してる
ジャガイモは煮崩れを防ぐために低温で煮る、と聞いたことがありますが、トマトも煮崩れを心配するタイミングがあるのですね。だいたいの場合刻んで水分を飛ばしてしまうことが多かったので新鮮な視点でした。そしてまたしても登場してきた「ペクチン」。「ペクチンがカルシウムイオンで架橋される」という変化についてこれまでの記事でも触れたことがあった気がするのですが、一旦脱線して整理してみます。
ペクチンのカルシウムイオン架橋ってなんだっけ?
そもそもペクチンとは、いろいろな野菜や果物の細胞壁に含まれていて、細胞壁を強くし野菜や果物を硬い状態に保つ役割を担っています。野菜や果物が熟して柔らかくなっていくのは、このペクチンが分解されることによって起こります。
ペクチンの作用はいろいろな食べ物に影響していて、例えばフルーチェを牛乳と混ぜると”ぷるぷる”になるのも、柑橘系のジャムが”とろとろ”なのも、過去に行った野菜Laboの実験で、カリンジャムが”ぷるぷる”になったのもこのペクチンのおかげです。
このぷるぷるになる状態でよく出てくる表現が「ゲル化」。このゲル化という現象一つにおいても、条件の違いによってありとあらゆる科学変化が巻き起こっているようです。その中でも身近なものは2種類ある様子。
1、「糖」「酸」「加熱」で"ぷるぷる””とろとろ"になるゲル化
この変化はペクチン、水、糖分、および酸を加熱することで生じます。ジャムなどのテクスチャーをつくっているものですね。
2、ペクチンがカルシウムイオンによって架橋されゲル化
ペクチンとカルシウムが出会うことで起きる、「カルシウムイオンの架橋」です。カルシウムがペクチンとペクチンを橋渡しして結びつけることで立体構造が生まれ、水分を閉じ込めて固まります。フルーチェがぷるぷるになる現象や、ゼリーが固まるのもこのメカニズムです。
この2つのゲル化は同じ食品内で同時に起きることもあれば、順序立てて起こることもあり、明確にどちらのゲル化「だけ」が起きている、というものではありません。
フルーチェがぷるぷるになる詳しい仕組みについては、ゲルの研究を行っているというGelate(ジェレイト)さんのすばらしくまとまったnote記事がありました。
話をトマトの話に戻すと、トマトを55〜60℃で20〜30分加熱すると、トマトに含まれるペクチンがカルシウムで架橋されやすくなり、細胞が壊れると細胞内のカルシウムイオンも出てきてさらに架橋されやすくなり、ゲル化とまではいかないもののトマトがちょっと硬くなる、ということです。
商業用のペクチンは柑橘の皮から取ることが多いらしいですが、様々な野菜・果物にも含まれているんですね。
ちなみにペクチンには種類もあり、
1、低メチル化ペクチン (LM pectin) 加熱しないとゲル化しない
2、高メチル化ペクチン (HM pectin) 加熱しなくてもゲル化する
という特徴があります。
低メチル化ペクチンで起きるのが「糖」「酸」「加熱」によって起こるゲル化。高メチル化ペクチンで起きるのがペクチンがカルシウムイオンによって架橋されゲル化、ということですね。
さらにポタージュに話を戻すと、今回は何かしらの形で加熱したトマトをミキサーにかけてしまうので、固形のトマトで起きるペクチンのカルシウム架橋とは直接は関係がなさそう。
ピューレにおける、ゲル化とも違うトロミのつけ方
ここから考えられるのは、ペーストにしてから加熱するのと、加熱してからペーストにするのとでは状態が変わってきそうだぞ、ということです。
このとき起きていることは、先ほどまとめたペクチンのゲル化とはまったく別のトロミのつけ方です。前回はペクチン同士がくっつくことによってトロミが出ていましたが、今回は逆にペクチンが分解されて短くなり、細胞壁が壊れ、細胞壁の中にいたあらゆる分子が放出され、トロミにつながるということです。
ここから分かるのは、そこそこ小さな分子はトロミがつくけど、高温加熱によりもっと分子が小さくなってしまうと今後は逆にトロミが少なくなってしまうということ。ポタージュづくりで懸念されるのは、袋詰めの後に殺菌される作業でトロミが著しく減る可能性があるということですね。野菜の多さでトロミづけする必要ありそうです。ペクチンの話の時に、55〜60℃で20〜30分加熱するとその後沸騰させてもペクチンが分解されにくいという話があった。
酸性の煮汁で煮ると硬く仕上がる
塩水で煮ると早く柔らかくなる
ここにきてヘミセルロースという物質が登場しました。ヘミセルロースとは、セルロース微繊維間を架橋(橋渡し)できる架橋性多糖の総称です。ヘミセルロースには「キシログルカン」「グルコマンナン」などがあり、アルカリによって溶かして抽出できる成分のことです。
つまりトマトやトマトピューレを煮込むと自らの酸性の性質により硬さが保たれる可能性がある。トロミはつけやすいのに、さらさらには仕上げにくいということですね。
また、他の野菜と合わせて調理する場合、トマトは後半に入れるほうがいいかもしれません。最後にミキサーにはかけるものの、ミキサーで無理やり攪拌するのではなく煮込みでほろほろにしておいた方が余分な攪拌時間が不要になります。
また、塩水で茹でると早く柔らかくなる!というおもしろいことも書いてありました!塩も序盤から入れて煮込みたいですね。
茹で汁がアルカリ性になる状態ってそんな場面だのだろうか?と思いゆで汁をアルカリ性に傾ける野菜を調べてみたのですが、なかなか出てきませんでした。 ベーキングパウダー、カンスイなどはアルカリ性ですが、なかなか煮込む時には入れません。とにかく塩を早めに入れると早く柔らかくなる。ということだけ覚えておけば良さそうです。
つづいての記事では、焼き方についてまとめていきます。お楽しみに*
最後までお読みいただきありがとうございます。頂いたサポートは「野菜のおいしい食べ方がもっと世の中に溢れるため」の活動や勉強のために使わせていただきますね。