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【ベトナム旅行記③】 越南古寺巡礼

 朝7:00頃起床。ゲストハウスに一緒に泊まりにきた3人組ベトナム人(?)が24:00くらいまでずっと喋っていたのと、ルームごとの壁が薄くちょっとの物音が全体に響くことと、エアコンの方向的にボックスの中が熱いことの3点セットで、あまりぐっすりとは眠れなかった。なんだかエアコンのことばかり書いている気がするが、死活問題である。
 自転車を無料レンタルできる点ではとても良いホステルで、今日は自転車でできるだけ巡る計画。タクシー代が浮くので助かる。
 最初に訪れたのはアンヒエン庭園屋敷(Nhà vườn An Hiên)。ベトナム各地から集めた果物や花が豊かな庭園と、伝統式(1883年頃)の仏教建築?とフランス式(1950年頃)のオフィスが屋根を少し重ねるように立つ。

アプローチの先に透かし壁の右側が見える

 スケッチを書いていたら、歴史がすごーくあるのよ!と、暇そうにしていた受付のお姉さんが説明してくれた。本殿とアプローチがずれているところとか、男性と女性を分けたプランなど、とても面白かった。うまく聞き取れなかったけれど、どうやら偉い人の住処だったみたいで、それを邪魔しないようにアプローチをずらしているみたい。

簡易な断面。風がすごーく抜けるのよ!としきりに説明してくれた。
配置図。ちゃんと描き直したいおもしろい配置だった。

 一通り見終わったところで、毎朝9:00-10:30に伝統音楽のリサイタルがあることを、受付のお姉さんの妹さんから聞く。姉は私のオーナーでもあるのよ!とのこと。姉妹でやってる仕事みたいだ。50分も待つのがもどかしいので悩んだけれど、折角だからとスケッチをしながら待つことに。ちょっと考えれば分かることだったが、9:00には始まらなかった。8:55くらいに演者がやってきて、ノソノソと楽器を出し始めると、カラフルなアオザイコスプレをしたベトナムガール2人が、是非その伝統楽器と一緒に写真を撮りたいと交渉し、それを勝ち得、同行していた男性にひとしきり撮ってもらっていた。可愛らしい女の子と、それに付き合わされる男の子カメラマンの組合せは世界中に偏在している。
 その一連の流れが終わったあとも、演者二人は僕の方に向けられていた扇風機を自分の方に向け、タバコをふかしたり、だべったりしていて、もう9時を15分も過ぎていた。これはもう20分くらい始まりそうにない。既に1時間も待ってしまったからと悩んだけど、これはコンコルドの罠だと思い、立ち去ることに。帰り際、受付のお姉さんが少し悲しそうな声でバイバイと言ってくれた。日本人は気が短いという印象を与えてしまったかもしれない。

休憩する演者と出番を待つ伝統楽器

 切り替えてすぐ近くの陶芸美術館(Bảo tàng Gốm Cổ Sông Hương)に行く。入場料は120kと少し高かったけど、そんなことは全く気にならない充実度。建築も展示品も人のいなさも素晴らしい。よく吠える犬が三匹もいたことと、暑すぎることを除けば最高だった。
 (キャプションの情報が正しければ)13-18Cくらいの幅広い陶器や、仏教系の美術が、心通うレイアウトで展示されている。複数の棟が繋がったり重なったりして迷路のようになっていて、内外が反転し続けるような空間体験も最高だった。こういう空間を設計したいし、こういう空間で暮らしたい。

僕がいるところだけ電気をつけてくれる細やかな対応
客は僕しかいなかった。半屋外の東屋でお水を出してくれた

 その朝だけで、柱16本を使った3×3マスの不均一グリッドに入母屋屋根を乗せる構成の東屋を3つほど見た。真ん中だけ少し広くて、天蓋がついてたり大きな台があったりと、演者が座る場所っぽくなっている。目立つ入母屋や大仏にも通じる天蓋に、ちょっと宗教建築の香りがする。お寺の形式がそのまま小さくなったみたいだ。なぜこうなるのかを考えていたけれど、答えが出ないまま。

東屋の平面図と屋根伏図

 自転車に乗って次の目的地へ行く途中、物売りのおばさまに捕まった。10kで美味しい飲み物アルヨ、ほらそこに自転車止めて、こっちこっち!と手を引いてきたので、自分で歩けると手を払いのける。手を掴まれることに対する嫌悪感は、個人的なものだろうか。自分の行く道を人に左右されることを極端に嫌う性質が、自分には昔からある。
 ベトナム版豆花みたいな感じで、冷たい氷とレモネードに、温かい豆腐をぶち込んだドリンク(?)。ロケーションも良かったし、予想よりおいしくて一息つけた。

大きな川の前という素敵なロケーション
この写真撮ってたらおばさんに捕まってしまった

 エネルギーをチャージできたので、坂道や砂利道を漕いで、お昼前についたのは、ヴォー・チョン・ギア事務所の作品。霊園の事務所スペースとトイレの設計を見に。

流石に気持ちのいい空間だった。竹ディテールを沢山学んだ。

 着くとすぐに、またもや暇そうにしていた職員のベトナムガールズが歓迎してくれて、拙い英語で質問攻めにされた。不十分な英語力で応戦しながら、写真撮影やfacebookの交換に応じる。一通り見たので帰ろうとすると、お昼は食べたか?と聞かれる。ちょっと面倒だなと思って、「一緒に食べたいけど、電車までの時間があまりないからもう行きたいんだ」と断ろうとしたら、今すぐ出ればいいんでしょ?と言わんばかりに、弁当をそそくさと出してきてくれた。多分、二人が毎日支給されている弁当の一つを僕にくれて、残り一つを仲良く二人で分けて食べていた。三人で2個を分けよう!と提案したけれど、あっさり断られた。よほど空腹に見えたのか。

フエのランチへようこそ、とGoogle翻訳で伝えてくれた。ベトナムで初めての米料理、すごく美味しかった。
ありがとうベトナムガールズ。(と言っても二人とも子持ち)

 当然お金は受け取ってくれないので、ここでも台湾硬貨を渡す。最初怪訝そうな顔をしていたけれど、これはお金じゃないです。giftです。というと受け取ってくれた。
 帰り際になんと笠までプレゼントしてくれた。被って自転車漕いでいたけれど、頭上に常に影ができるのでだいぶ楽になった。これで屋外スケッチも捗りそう。

 帰り道でいくつかの寺院や寺院跡を見た。ベトナムの奈良と言ってもいいくらいに、ごろごろとお寺がある。現役のお坊さんが午睡してるところだったり、主屋が焼け落ちてしまったのか基壇だけが残っているところだったり、観光地化されて綺麗に整備されているところだったり、随分とヴァリエーション豊かで面白かった。

現役寺
廃墟寺
観光寺

 14:00頃に戻るという約束の時間が迫っていたので、ホステルに戻って自転車の返却と支払いを済ませる。いくらだったっけ?みたいな感じだったので、booking.comのスクショをもとに金額を伝えたら、そうそうそれで良いよみたいな感じでとても緩かった。客を信頼している雰囲気がとても良かったけど、ちょろまかされたりしないんだろうかと少し心配になる。
 電車まではまだ少し余裕があったので、カブタクシーを拾ってカフェに。50kと言われたところを、高すぎる、30k!と言ったら、最初渋っていたけど他のタクシーを探す素振りを見せたら承諾された。初値切りに成功。
 大体のカフェは高校生みたいな見た目の女の子がバイトしている(多分本当にそのくらいの年齢)。彼女たちは基本暇そうに携帯をいじっているけど、客が来たらきちんと接客してくれる。ベトナムの接客業者は基本暇そうなのが良い。英語のメニューをくれたので、指差しでベトナムコーヒーを頼むことに成功。

半屋外の気持ちいい席。必ず水かお茶がついてくる。約110円、安い!

 16:31初の夜行列車の、30分前くらいに着くように駅まで歩く。駅前の植栽のための水やりに使うホースを借りて、シャワーを浴びる。やばいやつが来たという視線を感じながら、そそくさと汗を流してシャツを替える。髪が短いと、快適に旅を続けられる。
 夜行列車待ちの間、食料を買いにでかけた。駅前のおばちゃんがやってるお店。客も多かったので信頼して行ったら、小さいコーラが30kだという。以前12kで買ったことがあったので、13kだと思い込んで20k渡したら、もう10k寄越せというので、じゃあやめる、とお金を取り返そうとすると、20kで良いとか言い出す。ちょっと怒った表情で「I don't buy.」と言ったら、不貞腐れたようにお札を返された。他の常連客らしきおじさんたちが、なんやなんや?みたいな顔で見てきて、気まずくてすぐに逃げてきた。値段を最初から書いてないところは警戒すべし。お金のやり取りってストレスめっちゃかかる。
 隣のおじちゃんのところに行ったら、「コーラ10kだよ〜ポテチもいる?15k〜」と言われた。やっぱり30kは高すぎた。

 クーラーが効いている列車待ちの部屋で待っていると、館内アナウンスで1時間遅れますの声。不安だったけど、隣にいた家族が、僕らと一緒だから安心しな、と確認してくれた。

プラットフォームと線路の間がフラットなのが良かった

 フエの駅は、列車が到着する直前までプラットフォームに入れないようになっていた。無賃乗車を防ぐためなのだろう。ホームに行くときにきちんとチケットが確認され、そのおかげか車内では、立っている人や床に座り込んでいる人を見なかった。(インドには無賃乗車が山ほどいた)
 車内販売のご飯も回ってきたけれど、景色を眺めるのに夢中で買い逃してしまった。同じ部屋の4人家族はどうしているかな?と部屋に戻ったら、お父さんがカップ麺を作ってた。「どこで買えるんですか?」と聞いたら、あげるよ、と一個くれた。はからずも昼飯、夜飯ともに無料で過ごしてしまった。もうこれらだけで、ベトナム人のことを大好きになってしまった。飯の恩は大きい。

わけわからんパッケージのカップ麺。中に折りたたみ式のフォークが入っていた
これの一番右上が僕の寝床

 立って景色を見ながらカップ麺をいただき、暗くなってきたので部屋の中に戻ると、家族は四人とも横になっていた。それぞれがイヤホンをして、何らかの動画を見ていた。不思議な光景だと思ったけど、他の部屋も大体こんな感じだろうと思う。家族旅行のあり方は随分と変わってきている。家族と一緒でも、当然一人の時間を取れるし、一人で来ていても、当然ネットの世界で誰かと繋がれてしまう。
 もう旅先でさえ、孤独感や不安感を感じることができなくなってしまったこの世界に、少しだけ残念な気持ちを感じた。かくいう僕も、日記やスケッチを書くには揺れが大きくて、結局スマホを見ていた。たまに回線の届かない場所に行くと、やることがなくなって、22:00頃には自然に寝ていた。

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