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【ベトナム旅行記②】 王宮美術の記憶を辿る

 予定通り、3:40に飛び起きて空港へ向かう。小雨が降っているが困るレベルじゃない。まだ真っ暗だけれど、雷でピカピカと明るくなり、大雨になりそうな気がしたので、早歩きで。ターミナルを事前に確認し忘れて、国際線の方に向かってしまう。国内線までは歩いて500mくらいだよと教えてもらって安心したけど、歩いてみたら20分くらいかかった。聞き間違い?
 早朝なのに結構人がいて、搭乗手続き口には家族連れや団体客などがごった返していた。もう出発まで1時間を切りそうだったので、不安だったけれど、なんとか予定通り行った。キツキツの予定はこれ以降ないので、飛行機に座ってからは、かなり安心した。

 飛行機の中では爆睡。1時間なのであっという間だった。降りてからは荷物検査すらなく、出たらすぐタクシーが待ち構えていた。さすがに今日は時間重視でタクシーに直行。公式っぽいのと、メーターをちゃんと動かしたのを見て安心。(これも事前に調べていた。えらい。)
 最初の目的地は墓場のど真ん中。墓に行きたいと言っても理解されないと思ったから、その中央らへんにあるカフェに行きたいと伝えた。思った倍の時間とお金(20分、約1830円)がかかって、なんとかついたんだけど、そのカフェが無かった。ほんとにここでいいのという顔で「OK?」と聞かれたのでOKと元気よく答える。ちなみにこれがその幻のカフェ、moon coffee。満月の日にだけ現れるとか…。

フエの空港から北西に車で20分ほどの地点

 他にもショップのマークとレストランのマークがあるけれど、文字通り墓場のように閑散としていた。誰かの悪戯だろうか。
 まあ元々はこの沼のような不思議な地形にある墓場を見たかったので沒問題。満を持して墓場の真ん中に降り立つ。AM7:30、墓場を散策するのには一番良い時間帯だ(そんなものはない)。

沼みたいな墓場の風景

 ベトナムのお墓は、台湾ともつながる部分が多々あって、見どころが多かった。ジリジリと日に焼かれ、脚を生い茂る植物で傷つけながら、1時間半くらい集中して見てスケッチして、疲れた。これについては、別でまとめようと思っているので、カット。

 疲れを癒すために地元の家族経営カフェに向かった。降り立った場所から東へ徒歩10分くらい。なんとかコカコーラを12k(70円くらい。kは1000倍の意味、一番小さな単位でも必ず最後にゼロが三つつくので、省略するために使うみたい。今日はこの表記を沢山見た。)でゲット。乾いた喉が潤う。おばちゃんが気を利かせて天井の扇風機をつけてくれたり、コップに氷を沢山入れて持ってきてくれたり、ソワソワとなんか嬉しそうで、こっちまで嬉しくなる。帰り際に、英語が少しだけ話せた息子さんに初のカムオン(ありがとう)を言ってみた。お兄さんはニコリともしなかった。

 墓に戻ってスケッチを続けていたが、10時を過ぎる頃には、耐えられる暑さではなくなっていた。日が高くなるとどんどん日陰も減っていく。墓場の欠点は、日陰が殆ど無いことだ。このまま熱中症で倒れてはまずいと、街の方へ向かうことにした。お腹も空いていたし。
 朝のタクシーが思いのほか高かったこともあって、残高が心もとなく感じ、人生初のヒッチハイクでもしようかなと考えながら歩いていたら、「hey bro!」とバイクのお兄さんに声をかけられた。乗るか?みたいなことを言われたので、乗りたいけどhow much?と聞いたら、無料だと言う。すぐお金に換算しようとするのを反省した。優しさが身に染みる。お言葉に甘えて後ろに乗せてもらう。ノーヘルメット2人乗りが大丈夫なのかと心配してたけど、誰も気にしてなさそうだった。名前も知らないbrotherの後ろで、風を感じながらのドライブは最高だった。
 街の中心部まで連れてきてもらったあと、すぐにでも去ろうとするのを引き止めて、台湾の10元硬貨と、台北現代美術館のマスクと、犬のステッカーという謎3点セットをプレゼントした。お金はいらないと言いそうだったので、モノでお礼をすることに。素直に受け取ってくれて良かった。

 すごくホクホクした気持ちで歩いていると、おしゃれカフェを発見。倉庫をコンバージョンしたらしき天井の高い空間。フエにも良い建築家がいそう。おしゃれすぎて価格を警戒していたけど、驚きの安さだった。水まで無料でついてきた。Tân. 86 Đinh tiên hoàng

カフェ内観
これとアイスコーヒーで、340円くらい
どちらもすごく美味しかった

 一息ついたあと、そのカフェの目の前にある化石美術館(Trin Lãm Hoá Thch)へ。予定になかったけど、面白そうだったので。入場料は430円ほど。エアコンの効きが悪かった。圧倒的なアンモナイトの量。

展示室はこの一室のみ。ちょっと拍子抜け。
アンモナイトにキャプションがなかったので、勝手に名前をつけて遊んでいた。

 続いてそこから徒歩10分くらいのフエ宮廷美術博物館(Bo tàng C vt Cung đình)へ。本日の目玉。建築がチラ見えした瞬間に、ここに来るためにベトナムまで来たんだと思ったほどテンションが上がる。昔お寺だったものをそのまま展示室にしているっぽい。外観から感じる圧に、唐招提寺と同じものを感じる。

フエ宮廷美術博物館外観
見たことのない意匠の斗拱に興奮

 中の展示も一級品で、スケッチを描くのが楽しかった。いくつか上手に描けたものをあげておく。解説をちゃんと読んでいないから憶測だけれど、フエ王宮に捧げられた、当時の人々が腕に奮いをかけて作った品々なのだろう。温度管理も光度管理もちゃんとされていない雑な展示が、逆にそのものの魅力を引き立てていた。龍、鳳凰、亀などの中国由来っぽいモチーフだけでなく、象や蛙を模したものなどあり、中国由来の仏教建築と文化が、ベトナムの地で変化を遂げた様が、展示品という形を伴って見えてくる。(ような気がした)

展示品のスケッチ

 エアコンがないので汗だくになりながらひたすら3時間くらい眺めたり描いたりしていた。仏教系だけでなく、ヴィシュヌ神やシヴァ神など、ヒンドゥー教関連の、石造寺院の装飾美術を集めた展示室もあり、そこにも入り浸ってしまった。

こちらは少しだけ涼しかった

 朝からチョコパンを一つしか食べてなかったのに、14:30頃までここにいた。自分の集中力と体力を褒めたい。このあと、破格の60円バインミーをサッと食べて、また歩き始めた。自分は食への興味が欠けすぎているかもしれない。

 午後はフエ駅附近のお寺を二軒訪問した。一つはバオクオック寺院(Chùa Báo Quc)。日本のあまり有名じゃないお寺に雰囲気が似ていた。小さな丘の上にあり、静かで、観光客がいなくて、時が止まっているようだった。

この収納方法良いなと思って撮った写真
掃き掃除が滞りなくされていることが伝わってくる
このお寺でもお墓(廟?)のスケッチをした

 二つ目は、トゥーダム寺院(Chùa T Đàm)。天井がすごく高い空間で、お坊さんが朗々と低い声でよく響くお経を唱えていて、3人ほどの信者が静かに耳を傾けていた。俗世の暑さを忘れてしまうような雰囲気に、彼らの邪魔しないように気持ち静かにスケッチをした。

大きな阿弥陀仏は、天蓋と蓮の花に挟まれている
同寺の八角七重塔(勝手に命名)のスケッチ
同敷地内にある、ナーガ上の仏陀坐像
スケッチの出来が悪いため写真で

 なんとか体力が持ちそうだったので、大聖堂(Nhà th chính tòa Ph Cam)にも訪問したが、これが大正解。期待以上にカッコよかった。Ngô Viết Thụという、フエ出身でフランスの大学で学んだ建築家(アルネ・ヤコブセンと同時代)が設計したらしく、教会の伝統的な十字プランや、2500人を収容できるスケール感と、近代建築の良さが融合している。(参考ページ)

教会内観
壁埋めステンドグラスや窓台を突き抜けるリブなど、見所が多かった

 本日見たのは、墓、寺、教会、宗教美術など、祈りや思いを形にしたものばかりだった(予定外だった化石美術館をのぞいて)。人が美術作品や宗教建築を形作るときには、何かしらの念のようなものが含まれている気がする。それが他にはない魅力を持つ理由になると思うし、それに惹かれているのだろう。建築学科に在籍していた学生時代は、もっと積極的に現代建築を見て回っていたことを思うと、趣味が良くなったなあと感慨深い。年をとっただけとも言えるけど。

ホステルに向かう途中の景色

 流石に早朝から活動し続けて疲れたので、ホステルに向かう。安くて上手い晩飯屋を教えてくれ、と言ったらオススメしてくれたお店で晩御飯。フエのビールと共にいただいた。宿主が自転車を貸してくれて、帰りの風が気持ちよかった。

めちゃくちゃうまかった。全部で約600円

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