夏のゲレンデのユーザーエクスペリエンス

 この記事【日本スキー場、インスタ映えで狙う「夏でも黒字」】、古くて新しい課題、スキー場の夏場対策に、2つの切り口から迫って最後まで一気に読ませます。

その一つ目の切り口は、スキー場の夏場対策が待ったなしの課題になりつつある事です。温暖化の影響なのか、冬の降雪量が、小雪になったり大雪になったり年々不安定になっているというのです。スキー場の業績は降雪量に左右されるので、スノーシーズンの業績不安定をカバーするには、グリーンシーズンの活性化が喫緊の課題という訳です。

夏場、雄大なアルプスの空気を少しでも体感しようと、ごく軽いハイキングに行ったりすると、よく登山道の傍らにゲレンデが広がって、椅子の外された寂しげなリフトが視界に飛び込んでくることがあります。この記事を読むまで、そんなグリーンシーズンのゲレンデ活用について考えたことはありませんでした。

それではとネットサーフィンしてみると、意外にもグリーンシーズンのゲレンデ界隈は、多彩な仕掛けで賑わっています。

・・・・・・マウンテンビュー、スポーツビレッジ、マウンテンパーク、キャンプ、展望台、大パノラマ、自然体験・・・・・・そして、この記事に出てくる大型遊具、山頂テラス、雲海体験・・・・・・

 これらの仕掛けは、果たして、サービスとしてユーザーの心に届いているのでしょうか。グリーンシーズンのUX(ユーザー・エクスペリエンス)をいかにデザインするか?――全てはそこにかかっています。そこで登場するのが二つ目の切り口、『インスタ映え』でした。

記事に出てくる事例は、ロープウエーの山頂駅に設けられたテラスから眺める雲海です。ポイントは、非日常の眺望が体感できるよう、テラスが崖にせり出す形になっている点。大勢が雲海に見惚れている様を写しても良し、テラスの端から遮るもののない雲海を写しても良し、刻々と移り変わる雲海は決して同じ顔を見せません。抜群かつ非日常の『インスタ映え』と言ってよいでしょう。

私もインスタグラムをやるので、早速ページを開いてみると、「なるほど!」と思える気付きが一つ。それは、ハッシュタグ#です――

#雲海・・・・・・・・194558件#雲海テラス・・・14091件 #雲海カフェ・・・・・319件#山頂テラス・・・・・12件

――私が閲覧した時点でヒットした件数です。当然、圧倒的に多いのは『#雲海』で、次いで『#雲海テラス』、『#雲海カフェ』。試しに『#山頂テラス』で引いてみたら、件数はほんの少しで、かろうじて雲海ぽいのが1枚だけ。

雲海の写真を撮って、自分がインスタグラムに投稿する時どんなハッシュタグを付けるか、その立場になってみると、『#雲海』は絶対に外せないけれど、『#雲海テラス』という言葉を気付くかどうかは微妙な所……

 しかし、忘れてならないのは、インスタグラムは、ハッシュタグ#ごとにコミュニティーが出来ている、という点です。例えばツマグロヒョウモンという蝶が好きで、#ツマグロヒョウモンを検索してみると、6000件位ヒットするので、「うわ~、どうやってこんな綺麗に撮れたんだろ」と、感動する気持ちと、また挑戦する気持ちが湧いてくる。『#雲海テラス』などは、言葉からして、雲海+テラス、特別な造語で、明らかに『雲海テラス』というUXが確立されています。『雲海』の写真を投稿していたら、人に聞かずとも、遅かれ早かれ『雲海テラス』という存在に気付くことでしょう。そして、良くそこに出てくるテラスは、どこのテラスだ、という事になる。

 現在進行形の第4次産業革命の時代、企業が提供するサービスのUXデザインを、例えばグリーンシーズンのゲレンデのUXをどうデザインするのか、そのヒントは、ユーザーのコミュニティーの中にあります。そして、そのようなコミュニティーをインスタグラムに頼るのか、自らSNSを立ち上げるのか、いずれにしても、企業がユーザーコミュニティに積極的に関与していく事が、ヒットへの道のりの第一歩ではないでしょうか。

https://www.nikkei.com/article/DGXMZO31719310T10C18A6000000/

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