ビーバーのアイデアの意味するもの

 この記事【会議を減らせ ビーバーが動画広告制作用ツール】、特に関心のある分野でもなく何気なく読み始めたのですが、読み進むうちに、スタートアップのアイデアとして卓越したものが見えてきました。動画広告の制作をクラウドで管理できるシステムには、アイデアとしていくつかのポイントがありそうです。

【1】社内の現場課題に対する解から出発したアイデア

記事によると、このシステムは、もともとは社内の管理システムとして改良を重ねてきたものとのことで、①社内の現場課題を放置せず改善を試み、さらには、②そこに外販しうるイノベーションの可能性を見い出した点が素晴らしいと思います。

①については、まず現場課題に気付いてそれを『共有』し、次に改善しようという具体的な『行動』を起こせる仕組みが組織に備わっていないと、口で言うほど簡単なことではないと思います。往々にしてイノベーションの種、アイデアは、灯台下暗しで社内にいくらでも転がっている可能性があるのに、自社の抱える課題すら放置され、解決への緒に就くことすらできない状態というのは意外と多いのではないでしょうか。

②については、社内にシステムを構築するスキルがあるIT企業などは、圧倒的に有利でしょう。社内の現場課題を解決するシステムを自らデザインし、汎用性のあるものに磨き上げて外販まで視野に入れる事ができるというのは、自社をイノベーションの実験場にしているという優位性に他なりません。

【2】業務の効率化に対する解としてのアイデア

動画広告の制作時間を短縮できるという事は、働き方改革という社会課題への解であると同時に、業務のスピードUPという、ユーザー企業にとって最大のニーズの一つをテクノロジーとマッチングさせたサービスです。

ヒト・モノ・カネ・テクノロジー・データという経営資源を効率的に有効活用して業績を向上させなくてはならない企業にとって、業務にかかる無駄な時間を排除できるという事は、競争、そして、作り出す商品の品質向上に割く時間を増やせるという二重の意味で大変重要なことです。

【3】しっかりした実証実験がされたアイデア

このアイデアが、有力な株主などの協力を得た、しっかりとした実証実験を経たものであるという事が、アイデアに対する信頼性を高めるのに、非常に有効に働いていると考えられます。

実証実験の精度とスピード感をどう担保するかという課題は、アジャイルな開発競争が進む中でとても大切なポイントではないでしょうか。

【4】ネットワーク効果が期待できるアイデア

『動画広告の制作をクラウドで管理できるシステム』には、ユーザー増⇒サービス価値増⇒ユーザー増という正のフィードバックによってネットワーク効果、さらにはロックイン効果をもたらすプラットフォームとしてのポテンシャルがありそうです。

記事にある料金が戦略的価格設定によるものかにわかには判別できませんが、イノベーターからアーリーアダプターへと初期採用者のクリティカルマスを超えることが出来て、さらに、攻めの戦略でアップグレードを繰り返すなどして利便性を高めることができたなら(スイッチングコスト)、デファクトスタンダードへとつながる可能性もあります。

【5】拡大する市場でのタイムリーなアイデア

TVのみならず、ネット、デジタルサイネージ等で市場が急拡大し、動画制作にかかる無駄な時間の抑制が避けて通れない課題となりつつあるタイミングでのスタートアップ・アイデアには大いに期待が持てます。

【6】会議(ミーティング・打ち合わせ)の合理化として応用可能なアイデア

会議の検討対象である開発中の商品・サービスをクラウド上で共有して時間を節約する、というアイデアは、動画広告だけでなく、このシステムに親和性のあるあらゆる開発現場に応用できそうです。

 このように、ビーバーの動画広告制作用ツールは、スタートアップのアイデアとして大切なポイントをいくつも押さえており、かなり有望な成長材料だと考えました。何と言っても、動画広告制作の会議に要する膨大な時間を、仕事の質を落とさず、むしろ上げながら抑制しようとした出発点が卓抜だと思いました。

https://www.nikkei.com/article/DGXMZO31268960R00C18A6FFR000/

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