来店動機の探求~店が生まれ変わる時~

 この記事【ココカラF、カフェ併設店 各社、立ち寄り増やす智恵比べ】は、ドラッグストア各社が、価格・品揃えといった小売の基本要素以外の来店動機を模索しているというリポートです。そのような誘客策として、記事に出てくる事例をピックアップすると、カフェスペース、イートインスペース、コミュニティースペース、フリースペース等々、『スペース』がキーワードになっています。この記事は特段ネットとの競合に触れている訳ではありませんが、オンライン店舗にはないリアル店舗の最大の武器であるリアルの空間『スペース』の一部を敢えて売場以外の『スペース』に割くことによって、新たな来店動機を創出しようというのです。

 このようなドラッグ各社の試みを考えるに当たっては、他業種での同様の事例と比較検討することが有効と思われます。

例えば日経電子版の記事【スーパー店頭で本格料理 「グローサラント」広がる】(本稿末尾に添付)では、スーパーの食品売場で販売する食材を料理してその場で提供する『グローサラント』が取り上げられています。グローサラントの事例では、食品売場のスペースの一部をレストランのスペースに割くことによって、次のような来店動機を創り出しています――

(1)自分にパーソナライズされた情報を得ることが出来る 今までの食品売場でも、実演販売や試食販売などがありましたが、グローサラントで試したり知ったりする情報は、もっとお客に近付き寄り添った、パーソナライズされた情報にパワーアップされていると考えられます。(2)自分が思わず笑顔になるような賑わいに参加できる グローサラントの作り出す賑わいが、普段の何気ない買物を、非日常の楽しい体験へとグレードアップしています。お客が賑やかで楽しいお店に集まるのは、とても自然な事です。(3)お値打ち感を体感できる いいものをリーズナブルな価格で味わえる、購入できるというお値打ち感のUXは、小売にとって最も基本的で重要なUXデザインではないでしょうか。グローサラントが、それを実現しています。(4)気軽に飲食できる魅力 イートインの機能にグローサラントが加わることによって、お客はお店で売っている食材をより広い選択肢の中からチョイスして、ちょい飲み・ちょい食べはもちろん本格的な料理まで、気軽にその場で飲食できるようになります。

――あらゆる食材がそろった食品売場で飲食も出来るという、きわめて合理的な発想のグローサラントは、中食市場が拡大する中、確実に新しい業態として定着していくと思われます。

 もう一つ、日経電子版の記事【女性心理くすぐった吉野家カフェ】(本稿末尾に添付)では、牛丼店は女性客が入りづらいという見えない壁を、カフェ機能・キャッシュ&キャリー方式・テーブル席増設などの今までの牛丼店にはなかった施策で打ち破っています――

(1)テーブル席で友人と昼休みなど テーブル席があるだけで、店の用途が、『仲間と行く店』にバージョンアップします。(2)食後のコーヒーで眠気覚まし コーヒーも販売しているというだけで、やはり店の用途がバージョンアップし、『(食後に)少し休んで眠気覚まし』できる。

――この事例は、牛丼店にカフェ機能を持たせ、かつテーブル席という『スペース』を設けることで、女性の来店動機を見事に掘り起こしています。

 このような2つの成功事例から、『店舗のスペースを変更して新たな来店動機を創出する』施策には、いくつかのポイントがある事が浮かび上がってきます――

【1】シナジー効果があること

言うまでもなく、売場本体と新たに作った『スペース』との間に相乗効果が認められないと、意味がありません。シナジー効果のキーワードは、パワーアップ、グレードアップ、バージョンアップです。新たに作った『スペース』の効果で、売場本体にもともと備わっていた機能が強化されたり、新たな機能が付け加わる事で、店舗の魅力が増し、新たな来店動機が創出されるのです。

その機能は、情報提供、賑わいの楽しさ、お値打ち感、店舗の用途など多岐にわたります。誰のために(例えば女性客)、どのような機能を強化するのか、というポイントを押さえたUX(ユーザーエクスペリエンス)デザインが必要となりそうです。牛丼店の事例を見ても分かるように、結果だけ見ればささやかな変更のように見えて、実は絶大な効果を持った施策を発見するには、顧客に寄り添い知恵を絞る試行錯誤がありそうです。

【2】コト作りの店作り

上記の施策を見て一目瞭然なのは、すべて『モノを売る』という施策ではなく、『コトを提供する』という施策である事です。例えば、コーヒー一つとっても、コーヒーという『モノ』を売ることが目的ではなくて、コーヒーがある事によって提供できる『コト』、仲間との語らい、眠気覚ましといったことが目的なのです。

『店舗のスペースを変更して新たな来店動機を創出する』施策とは、全く新しい『コト』を作って、来店動機を創出する店作りと言い換えられそうです。誰に、どんな体験を提供するのか、やはり、徹底したUXの追求が必要そうです。

【3】イメージチェンジ

上記の事例に共通していることの一つに、新たな『スペース』を導入することによって、店舗のイメージが、外見的にも、心理的にも大きくイメージチェンジした、『店全体の雰囲気が変わった』、という点は見過ごしにできないと思います。新たな『スペース』を作ったものの、売場本体に取って付けたような感じでしかなく、店舗全体のイメージがガラッと変わったと言えないのであれば、そこには、シナジー効果も、斬新なコト作りも認められません。

モノの売れ行きは、店舗のイメージによって大きく左右される、同じモノを売っていても、店舗のイメージいかんで売り上げが左右されるという事は、女性客が入りやすい牛丼店の事例でも明らかです。『店舗のスペースを変更して新たな来店動機を創出する』施策は、店舗のイメージチェンジ、業態変更をするくらいの大胆な発想が必要かも知れません。

 ドラッグ各社の新たな来店動機の探求、『店舗のスペースを変更して新たな来店動機を創出する』施策の成否は、【1】シナジー効果、【2】コト作り、【3】イメージチェンジのUXデザインにかかっていると言えそうです。ドラッグストアに限らず、来店動機とは一体何なのか、欲しいモノを買う、賑わいの楽しさ、コミュニケーション……ネットの攻勢にさらされるリアル店舗は、お客の来店動機を掘り起こすという原点に立ち返った中から、今までにない全く新しい店に生まれ変わる、再生の時代を生きていると言えそうです。

https://www.nikkei.com/article/DGXMZO33773590T00C18A8H53A00/

https://www.nikkei.com/article/DGXMZO33540220Y8A720C1MM0000/

https://comemo.io/entries/9240

https://www.nikkei.com/article/DGXMZO33327530U8A720C1SHA100/

https://comemo.io/entries/9220

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