六月九日・十日・十一日@ブダペスト

六月九日

週末に一年の研究成果を提出しなければならない。チャプターと言って、一応博論の一部になる想定で、通常の論文のように序章から結論までまとめたものを出す。ちょうどこのチャプターの提出期限三ヶ月前ほどにコロナの影響で大学への出入り禁止(つまり実験禁止)になったので、チャプターの元になるデータがなくて困ってる人もいたと思うが、私は去年の秋にとったデータがあるので、そのことを書くことにする。正直まだこれをやってるのかという感じであるが致し方ない。

明日、先生と提出前に最後のミーティングだからなんとか終わらせようと週末頑張ろうとしたが特に何もできず、ただよくわからないが気づくと一応それなりの形の物が書き終わっていた。自分の作業ペースがよくわからない(以前提出した論文が元になってるのでほとんど骨格ができているのが大きいが)。自分のやった先行実験の追試なので、前に書いたことと全く同じ文章にならないように一から書き直すも、どの程度変えたら十分なのかよくわからない(自己剽窃を防ぐため)。

最近はブダペストにも日常生活が帰ってきつつある(皆がマスクをつけている以外は)。よくないのだろうが、コロナのことを考えることもあまりない。大学は学期末なので授業は引き続きオンラインだが、来週からは人数制限を守ればオフィスや実験室に出入りしても良いということになった。私のラボは、メンバーが全世界散り散りになってるので当分集まれそうにないが。

夜は最近散歩を続けて六キロ(一時間)ほど歩いている。雨の日が続くのでなんとなく湿っぽい匂いを嗅ぎながら、同じところをぐるぐる回って何かを考えたり考えなかったりする。

六月十日

昨日先生に原稿は送ってあるが、おそらく読む時間はなかったと思うので、このチャプター用に変更したことや追加したことなどをまとめておく。ミーティングでは思ったよりも指摘が少なくて、もうこのまま出していいよと言われる。いつもギリギリまで作業するのだが、今回は早く出せそうである。一応単位取得のために形式上提出するだけのものなので、とりあえず出してフィードバックはそれを見てやりますという感じがした。批判がありすぎても怖いが、批判がないのも怖いのがアカデミアである。

昨日買い物に行こうと思ったけど行けなかったので今日市場に行く。これまではあまり頻繁に外出しないように食品のまとめ買いをしていたが、よく考えるとあと二ヶ月で引っ越さないと行けないので、そろそろ買い溜めたものを消費していかなければならないと思い始めた。順調に行けば八月末にはウィーンに引っ越しているのかと思うとなんだか不思議だ。まだ全く想像がつかない(今のところヨーロッパ市民でなければ自由に国境は行き来できないはずなので、状況次第ではそもそも移動できるのかどうかすらわからないのだが)。

夕方はいつも通りコロキアム。ずっとサボらずに参加しているが、Zoomでのイベントも三ヶ月もやってると新鮮味も減って、なんだかめんどくさくなってきた。聞いていても聞いていなくてもどちらにせよこちらの態度はマイクとカメラをオフにすればわからない。

夜も六キロ歩く。歩き始めると長いなーと思うけどなんだかんだすぐ終わってしまう時間だ。

六月十一日

昨日先生からもらった多少のフィードバックを元にチャプターを直そうとするが、いまいち終わりきらず。締め切りは明日中なので、朝に確認して出そうと思う。なんですぐできることをすぐにやらないのかわからない。

お昼はリサーチクラブで、他のラボのポスドクの先輩が話す。心理言語学者で、人々が一緒に話してると話し方が似てくるという現象の研究についてだった。言語学者は性質上言語の色んな特徴を気にして実験を組み立てるので、方法を聞いてるだけでも結構疲れた(どういう風に実験刺激をコントロールしたかなど)。私の英語も周りの人に影響されているのだろうがどのようなのか気になる。英語のネイティブは少ないので、もしかすると指導教員のドイツ語鈍りなどを知らず知らずに習得しているのだろうか。

ラボミーティングは今日誰も発表者がいなかったので、ここ最近それぞれ何をしていたか・何か問題があるかなどを共有する。私は一応来週からラボに行って実験のセッティングなどを始めたいと言っておく。私の使ってるラボは今私しかいないので、室内の人数制限など考えなくてもよくて楽である(他にも二人共有している人がいるが、一人はオーストリア、もう一人はポーランドでしばらく国境をまたぐ予定はないようだ)。

来月の五日に切れる仕事(現在の給与元)の契約書を八月末までに延長することになったが、肝心の滞在許可証がまだこないので延長できない。既に申請が受理されてから四十五日以上経っているので、こちらから移民局に問い合わせをしてみたが返事もこない。英語で書いたから後回しにされているのか、来週大学側から直接問い合わせてもらえないか聞いてみることにする。もう間に合わない気がする。私としては最善を尽くしているのに、こういう手続きの遅さはどうにもならない。

当たり前だが外国人として住むのはいろいろ証明が必要でめんどくさい。コロナで外出規制がかかった時は万が一のために常にパスポートと滞在許可証を所持しろと言われていたし、携帯電話は一年に一回滞在許可証を見せに行かないと使えなくなるし、私の存在を証明するものが全てこの一枚のカードに集約されている。

いつまで外国人として住むのかなぁなどと最近考える。日本に帰ったらどうしていけないのかと思うが、単純に想像すると心がワクワクしないだけで、別に帰ったら帰ったでそれなりに楽しみを見つけて、それなりの生活に順応できるような気もしている。どこでも生きていける気がするし、どこにいても不満足だろう自分がわがままだなと思う。