四月二十九日・三十日・五月一日@ブダペスト

四月二十九日

最近ドーパミンファスティングのことを考えていて、なるべくいったん始めてしまうと執着するような行動のトリガーを減らすことを心がける。

神経科学的な知見からみてどこまで正しいのか調べていないが、人間が生きていて刺激(報酬)となるものにはドーパミンか何かしらの神経伝達物質が放出されて、それが行動の原動力になるらしい。確かに欲がないと頑張ろうと思わないし、基本的な部分でもご飯を食べたいとも思わなくなれば死んでしまう。生きていくためには刺激が必要だ。

ただ刺激にも強度があって、より刺激の強い方へ強い方へと求めてしまうのが動物の性らしい。薬物などは物理的な依存だが、そうでなくても日常のいろんな行動に精神的な依存をしている。私だったらSNS、ニュース、太る食べ物(炭水化物+油とか)を摂取することによって刺激を受け、もっと刺激が欲しいからひたすら続けるみたいな感じである。

そしてどんどん刺激の強いものに慣れていくと、普段の行動が刺激が弱すぎて全く魅力がなくなってしまい、やる気が出なくなるようだ。この話は前も貼ったYouTubeで説明されている。

ドーパミンの量を調整するみたいなことは実際できるのかどうかわからないらしいが、トリガーとなるものを排除することは日常の行動を変えることによってある程度達成できる。そして動画によればトリガーを減らした生活はつまらないらしい。私はそのつまらない生活を始めてみることにした。

ということで最近はまず朝にチェックしていたニュースを見ることを止める。最初は一日の始まりにチェックして、その後見ないのがいいかと思っていたが、やっぱり見始めると日中も気になって見てしまうので夜に見ることにした。夜は意外と見る気にならない(つまり私はニュース自体に興味があるわけではなさそう)。いろんな情報がどんどんアップデートされるのが好きなだけで、夜の寝る前にそういうものを見たいとは思わないようだ。

SNSも日々の食事も同じような感じで、物事はバランスなのでうまくいく日もあったりなかったりだが、最近はつまらない日々に慣れてきた。空き時間にはポッドキャストやラジオを聞いていたのもやめ、最近はLofiとかクラシック音楽とかを聞いている。

昨日の夜、教授の先生から学部全員に向けて、秋から大学がウィーンに移行した後、ポスドクの職位が変わることについて議論のメールなどが届いていた。ポスドクは通常二、三年で他の場所に移るので、(日本の言い方だと)常勤ではなく非常勤であり、ウィーンに移った後は何故か「滞在研究者(Visiting research fellows)」に変わってしまう規定になっており、これでは困るということ。

どうも学部によってポスドクの貢献度が違うようだが、うちの学部は間違いなく一番手を動かして業績を出しているのがポスドク、ついで博士学生なので、今回の変更(予定)はポスドクを軽んじているようなものだと思った。そしてこういうことに対して教授の先生から声が上がるのはいいなぁと思った(というかそれが仕事といえば仕事なのかもしれないが)。

夜のコロキアムも定例のZoomミーティングになった。今日はジョンホプキンス大学の先生。こちらの学会によく来ているので今までにも見たことがあるが、こうやってアメリカにいる先生も気軽に呼べるのはオンラインミーティングの良いところである。

四月三十日

今日は九時から先生とミーティングで、論文の最終チェックをする。特に問題なさそうなので、明日の朝投稿することにして早く切り上げる。

十時からは最後の朝のZoomミーティングの会だった。最初こそみんな来てくれたが最後の方は誰も来なくなった。それぞれの生活が形作られていったのであろう。私も外出規制から毎日月〜木まで、一日も欠かさず決まった時間にパソコンを開けて、コーヒーを飲みながらLofiを流し一日を始めれたことは嬉しい。

午後は久しぶりに大学に行って、ラボマネージャーに手伝ってもらいながら自宅まで電子ピアノを運ぶことになっている。オフィスに行っていた時よく通っていたコーヒー屋さん(Espresso Embassy)がコーヒーのテイクアウトだけでなく牛乳、ヨーグルト、手作りパスタなど色々売り始めたと噂で聞いたので、行ってみると開いていた。同じところにたまたま来ていた学部の後輩と会ってびっくり。

三時にラボマネと合流して久しぶりにラボに入る。ピアノが思ってたより重くて、手伝ってもらって良かったと思う。久しぶりにラボマネにも会えて嬉しかった。元気そうだった。

帰ってくると移民局からメールが来ている。月曜日に移民局に行って指紋と顔写真を提出できたので、これでオッケーかと思いきや今年の収入証明が足りないと言われて今持っている雇用契約書を出す。これでいいのかわからないが悪かったらまた連絡がくるのだろう。

論文投稿に向けて読み直しはもちろんガイドラインなども読んで疲れる。まだ最初の段階なのでそこまで気を張らなくてもいいのかもしれないが、何せ初めてのことなので加減がわからない。

SNSもニュースも見ないし、バックグラウンドは静かな音楽だけなのでつまらないが、多少一日が長くなって生活してるなぁという感覚が戻りつつある。

五月一日

今日は労働の日で祝日ということをすっかり忘れ、外に出るが全て閉まっている。まぁどうせ明日は市場もやってるだろうからと思い家に帰る(なんで三連休ずっと閉めないのかは不思議である)。

朝、論文の諸々をチェックして投稿する。特に何も困らなかったし、変にソワソワしない。投稿しただけなのに疲れてしまって、今日は一日ボーッと過ごすことに決める(課題の締め切りがあるのでボーッとしてる場合ではないのだが)。

昨日生活費が入ったので、昨日行ったコーヒー屋さんの前売りコーヒー券的なものを買うことにする(詳しくはこちら)。パンデミックでカフェをオープンできないので、オープンできた時に飲む分を先に買って欲しいということであった。こういう風にわかりやすく支援方法を書いてくれる店はありがたいと思う(他にも支援したいところがいっぱいあるが、オンラインのものを買うぐらいしかできないので、オンライン上で何もない場合はどうしようもない)。

毎日の運動 、同じものを一ヶ月以上して飽きてきたので、今日から運動の種類を変えてみた。

ビギナー用と書いてあるのにめちゃくちゃしんどくて汗が出た。これは良い運動だなぁと思う。いつか慣れればいいなと思いつつ、明日の筋肉痛を予期する。

昼は音楽の輪読会で、リズムと記憶の神経科学(脳波)の論文を読む。リズムと同期して提示された視覚刺激の方が、リズムと非同期で提示された視覚刺激より、後々覚えているという話だったが、びっくりするぐらい個人差が大きくて、全く逆のパターンを示している人もいた。特定の人にとってはリズムと非同期の視覚刺激の方が覚えやすいのは一体どうしてだろうと考えたりする。

夜は読書会で、今日は先輩が「オフィスが恋しいから」といって選んだ八分で読めるオフィスでのあれこれのショートストーリーを読む(八分ではとても読めなかったが)。その中でペンギンのグッズはなんでも揃えるおばさん(おねえさん?)がいて、妙に親近感を感じるといったらみんなわかると言っていた。次はカフカの『判決』を読む予定。日本語で無料のものが見つかったので、日本語で読んでみようかと思う(そもそもカフカは英語が原文でもないし)。

読書が苦手で、さらに英語だとやる気がなくなるが、原文が英語じゃないものは日本語でもいいから読み始めてみようかなと考えたりする。最近気になるのはこのご時世なのでカミュの『ペスト』である。