指導教員の話(学部編)

大学・大学院に入ったら、必ず一人は面倒を見てくれる先生がついて、研究や論文執筆の指導をしてくれます。いわゆる指導教員(スーパーバイザー)というやつです。大学や学部によって、自分で選べるかどうかは異なると思うのですが、大学院(特に博士課程)だと、ほぼ間違いなく自分で研究室なり指導教員なりを予め決めて、受験するようになっていると思います。

私は日本で学士号を取って、イギリスで修士号を取って、ハンガリーで博士号を取ろうとしているので、今のところ私には三人の指導教員がいます。幸い指導教員を決めるのに苦労したことも、また指導されている間に人間関係に悩んだこともないのですが、グーグルで「指導教員…」と入力すると検索候補に「指導教員 嫌い」「指導教員 合わない」と表示されたり、あるいは「どうやって指導教員や研究室を選べば失敗しないか」みたいなページがわんさか出てくるので、興味を持っている人はある程度いるのかなと思いました。私もとても個人的でゆるやかな、でも偶然の重なった先生たちとの出会いについて書いてみようかなと思います。

学部時代

大学三回生になったら、来年書く卒業論文のために指導してもらう先生を選びなさいと言われた記憶があります。当時私は教育学部教育心理学科というところにいて、分野は大きく認知心理学(実験系)と臨床心理学(心理療法系)に分かれており、三回生までは両方同じぐらい授業があって勉強していました。なので、「指導教員を選びなさい=認知心理学か臨床心理学、どちらかで卒業を論文を書くか決めなさい」という質問とほぼ同じ意味でした。

私は臨床心理学にもとても興味があったけど、カウンセリングの実習を受けるうちに心理療法に対する懐疑心みたいなのが生まれてきて(これで本当にこころの病気は治るのか?みたいな)、卒業論文は認知心理学(人を呼んで来て実験してデータを統計解析する分野)で書こうと決めていました。

学科には四人の認知心理学の先生がいて、そのころまだ卒論テーマは決まっていなかったけど、ぶっちゃけどの先生の研究分野にも興味が持てませんでした。その頃私は学生のリサーチアシスタント(心理学実験の実験者をしたり、研究の雑務をするお手伝い)をしていたので、他の研究機関にも出入りしていて、なんとなく指導教員を決めるのに悩んでいることを他分野の先生に相談しました。

その先生によれば、「分野じゃなくても、研究手法で決めるやり方もあるよ。例えばアンケート調査をしたいなと思ったら社会調査やってる先生がノウハウや外の企業とのつながりもあるし、一人一人に面接して質的な研究をしたいなら臨床系の先生が倫理的な配慮もわかってたりするし。実験をしたいなら、まずしたい実験ができる環境(設備)を持ってる先生とかね。」とのこと。ものすごく的確なアドバイスだったなと思います。

卒論テーマのない私でも、何となく神経科学とか遺伝子とか、人間の生理的指標をとって解析することをやってみたいなと思っていたので、当時学部で唯一NIRS(近赤外線分光法を使って、脳の血流変化を測る装置)を使ったり、遺伝子解析をされている先生がいたので、悩むことなくその先生の名前を書き、めでたくその研究室に配属されたわけでした。結局卒業研究ではNIRSは使わず、遺伝子も採取したけど解析まではできなかったのですが。

先生との関係は、少なくとも私が感じていたのは、いわゆる日本社会にある年上の経験者と年下の初心者(上司と部下)の関係だと思います。もちろん敬語ですし、結果が出たら定期的にお伺いして報告みたいな。幸か不幸か、その頃私は絶対大学院に行かないと固く決心していたので、先生も「好きなようにやったらいいよ」という雰囲気で、特別指図してくることもなく、さらには科研費まで使わせていただいて、何不自由なく卒業論文を提出することができました。

ほとんどの大学生がそうであるように、私は大学受験の際に「この先生のところで勉強したい」とか考えずに、大学の名前(評判と興味分野)と場所(関西)で決めたので、特に先生にこだわりもなく、また大学院そのまま上がらなかったことから先生も厳しくなかったので、穏便に終えることができたのかなと思います。例えば修士に行ってゆくゆくは博士にということだったら、卒論の研究が直後のキャリアに大きく影響を及ぼしてくるので、先生も指導も変わってたんじゃないかな。

学部時代は正直指導教員の先生自体が、というよりは指導教員の研究室にいた大学院の先輩が素敵な方々が多くて、ゆくゆく私が大学院に戻ってくる根本的な動機に繋がったのではないかなと思います。そういう素敵な場所を運営されていたという意味では、指導教員の先生の選び方に間違いはなかったなと思ったし、研究室を選ぶ際には先生だけじゃなくってその研究室のメンバーがどういう人なのかを見極めることも大切だなという教訓は、実際博士課程を受験するときに参考にしました。