五月二十八日・二十九日・三十日@ブダペスト

五月二十八日

朝はジムを休んで、朝ごはんを食べて大学に行くことにする。

今週末は、一年の研究のまとめ(通称チャプター&レポートと呼ばれる)小論文の提出の締め切りがある。チャプターは、一年で行った実験のまとめ(できれば普通の論文のような形式、実験がうまく行っていなければ、先行研究のまとめや失敗した実験のまとめでも可)のこと、レポートは実験だけでなく、一年でどういう授業や学会に出たとか、どういう技術を取得したか、来年の計画などをまとめた報告書である。

週末の提出なので、先生に見てもらうには明日ぐらいまでには出さないといけない。一ヶ月ほど前ぐらいから書き始めたが、いまだに書き終わっていない苦しみを味わう。実験結果自体は三月末ぐらいには出ていたのに、この一ヶ月ほど分析を追加したり、整理したりしていて、目に見える進捗が何もない。本当だったら追加実験をもうはじめていると思っていたのに、まだプログラムすら書いていない。

こういうことを考えていると、自分がいかに能力がなくてこの世界が向いていないかとつくづく痛感させられる。私は自分に自信がないし、研究に対しての拠り所(例えば絶対的な研究分野への興味など)がない。いつでもやめてやると思いながら、今まだこの場所にいる。

こう書くとネガティブでどんだけ研究生活が悲惨なものかと想像する方もおられるだろうが、実際研究は(自分のペースでできている限りは)楽しい。進捗が遅いのも、博士課程の期間(うちの大学だと四、五年)と思うと今の状態ではダメだという焦りで非常に気分が悪くなるが、先行研究を読んだり、実験を計画したり、プログラミングしたり、作図したり、論文を書いたりすることは全て創造的でやりがいのあるものである。

しかし矛盾するようだが、今までにやったどんな仕事よりもやりたくないし、やり始めて心身ともに消耗することが多い。働いていた時にしていた仕事は、分量が多かったり時間がかかることも多かったが、課題(問題)は明確だし、そこまで難しいことはなかった。それに意思決定がよくも悪くも自分だけではなく、組織のものになるので、組織第一で最善を模索し、それなりに貢献をすればお金がもらえて生きていけた。

今も、別に孤独に一人で研究しているわけではないし、指導教員やラボのメンバーに囲まれているわけだが、しかし自分の研究は結局自分の研究であって、事細かな意思決定が全て自分の物事の解釈によって自分の責任で決定せざるを得ず、それが自由であり面白い部分でもあるのだが、ただひたすら疲れてしまう。いつかこの気持ちも生じないほど慣れてしまうのだろうか。

とにかくなんとか序論以外を書き上げて、家に帰る。明日の朝早く起きて序論の続きを書こうと思う。

五月二十九日

できれば朝にスピニングに行きたかったが、論文が書けていないのでキャンセルする。朝一でお隣さんの経営しているカフェに行って、サンドイッチをつまみながら続きを書く。

十一日からラボミーティングで先輩の公聴会の練習があるので、それまでになんとか無理やり序論を書き上げ、先生に提出する。先生とのミーティングは二時半からなので、先生がミーティングまでに読む時間はない。申し訳ないと思いつつ、とりあえず送っておく。

ラボミーティングでは、来週公聴会がある先輩の練習。しかしあまり用意してなかったのか、明日公聴会がある先輩の練習の時と比べて、なんだかうまく進まず、トークの途中で終わる。ポスドクを中心に改善点を提案する。私はまた聞いているだけになってしまうが、それぞれのコメントがとても(私の将来のためにも)役に立つ。

その後は先生とミーティングし、論文と報告書両方その場で見てもらう。思ったより修正が必要ではなさそうだったので、とりあえずホッとする。次の実験の教示の相談などに乗ってもらう。

午後は、私の研究分野でまあまあ有名な先生のトーク。なんでこんな先生がと思ったら、明日の先輩の公聴会の審査員で来ていたようだ。なるほど。

五月三十日

今日は朝からスピニングのクラスに行く。特にいきなり筋肉がついた実感もないが、いつもより重めのペダルでも普通に漕ぐことができた。不思議である。

大学に行くとブダペストで船が沈没したという話を日本の知り合いから聞く。ここに住んでいてもテレビなどがないので、そういう情報は入ってこない。

十時から先輩の公聴会。一番研究分野が近く、仲の良い先輩なので、公聴会がなおさら楽しみであった。既に二週間前ほどのラボミーティングで話を聞いていたのだが、明らかに目に見えた改善がたくさんあってすごいなぁと思う。後ジョークも時折入れていて、これを公聴会でするのは勇気がいるなぁと思う(ジョークはうまく働き、場を緩和させていた)。

公聴会のあとは結果(博士号授与か、博論に修正が必要か否かなど)を待ち、修正なしで合格ということであった。いつも恒例の、スパークリングワインを開けて、先輩に乾杯しに行く。喜ばしいことである。

その後は部屋に帰って、ZoteroのBetter BibTeXの使い方を読んだりファイルを整理するが、昨日のミーティングから気が抜けて全然論文の筆が進まない。書くというよりは昨日もらった修正案を確認していくだけなのだが、気が抜けてしまったようだ。明日までに提出したいのに。

朝も行ったが夜も久しぶりにジムでストレッチのクラスにいく。その後は先輩のお祝いのためにいっぱいだけビールを飲みに行こうと思う。自分が卒業する姿はまだ全然想像できない。