六月十九日・二十日@ブダペスト

六月十九日

朝は久しぶりに三マイルのジョギング。六時ぐらいに走りに行ったからそこまで陽は照っていなかったけど、でも気温が高くなってきて汗をかきやすくなる。不快であるが、まぁ走った直後は気持ちいい。

今日から二日連続で先輩たちの研究発表会が行われる。基本的に一人持ち時間二十分で、過去一〜二年に行った研究結果のお披露目会のようなもの。昔は人数が少なかったので一日で終わっていたらしいが、今年で学部も七年目と言うことで、数年前から二日に分けて行われている。

朝九時から始まり、六人ぐらい発表した後、午後十一時に一旦休憩。午前の部は発達科学系の発表であった。会場の外に出るとコーヒーが用意されている。いわゆるコーヒーブレイクである。学会でも何でもない、学部内での催しものだがこうやってちゃんとしたコーヒーブレイクがあるのが素敵だなと毎回思う。今回は昼のイベントだからコーヒーだが、夜のイベントだとワインが出てくる。こういうちょっとしたブレイクの間に研究の小話が進んだりするものだ。

休憩を挟んで再開。午後一時に終わる。午後の部は統計学習系の発表。私は聞いているだけだがやっぱり疲れる。特にこの視覚の研究室がやっている話は馴染みがないので難しい。

会場を出ると次は昼ごはんが用意されていた。ラップサンドやバケットに何か乗せた洒落たおつまみ、サラダ、フルーツ、パンなど盛りだくさんである。お昼を食べながらいろんな人と喋る。来年度から同じ部屋になる先輩と喋る。いつ移ってきてもいいよ、よろしくねと言われる。

午後は、明後日発表担当分の論文を読まなければならないが、結局ダラダラしてしまい、気づいたら夕方。ピアノの練習をする。だんだんましになっているが、まだベルガマスク組曲のプレリュードを主にする。できているところといえば二重和音の上の音を強く弾き、下の音は弱く弾くという部分。できていないところは、右手と左手を交差するところのタイミング。

六月二十日

研究発表会二日目。再び九時からだが、明らかに人が少ない。取り締まりのポスドクまで来ていない。代わりにうちのラボのポスドクが前に立ち、進行する。今日は午前午後ともに私のラボの発表。

今日もコーヒーブレイクとランチを楽しむ。その後、オフィスに戻って、今度来る新入生に送るメールをみんなで考える。毎年、その年の一年生が次の一年生に向かってメール(入学おめでとう、何か質問あったら気軽に聞いてね、そしてお互いの連絡先を共有してるのでよかったら連絡してみてねのような趣旨)を送ることになっており、毎年同じようなテンプレートでつまらないということで、今年は内容はそのままだが何か少しひねりを入れたいとのこと。

作る過程で内輪ネタを色々書いてお互い散々笑った後、結果的には一見まともな文章に見えて最後の一文。

Also, now you have each other’s emails so you can get in touch with one another before the academic year starts – this might come in handy for a number of reasons (e.g., if you want to search for an apartment together, or if you want to stalk each other on Facebook like we already did with you).

私的には真面目なトーンでここまでずっと来て、最後に落とすみたいな流れが好きだ。結局このまま送る。新入生がどう感じているのか会ったら聞いてみたい。ヨーロッパ人はジョークになれているから別に記憶に残るほどでもない気がするが。

お昼、急遽友達に会うことになり大学本部へ行く。一階のカフェで待ち合わせし、二人と合流して秘密のガーデンと言われる場所に行く(なぜか通称ジャパニーズガーデンと呼ばれている。実際一ミリも日本っぽさはない)。お互いの友人でちょっと厄介な人がおり、その話を中心に盛り上がる。人を受け入れること、逆に受け入れないことの重要さを話し合う。

夕方から恒例のコロキアム。視覚の意思決定に関して脳のノイズというか変動性(Variability)がいかに影響しているか、とくに脳が過去に下した意思決定の履歴(歴史)が脳のバイアスを作り出していることと、ノルアドレナリンの役割などをしていたが残念ながら五パーセントもわからなかった感覚である。

コロキアムの後は、自分のラボの集まりで飲み会。ちょっと大学から離れたところにある公園の中のパブに行き、飲み始める。お腹が空いていたので私はバルカンバーガーを食べる。バルカン地方でよく食べられるようなものらしい。クロアチア人の同期が「まぁ割と近い感じ」と言っていたので、間違い無いと思う。豚と牛肉のひき肉を混ぜたパテ、トマト、きゅうり、たまねぎなどと挟んだ普通のハンバーガーで何がバルカンなのかはよくわからない。

遅れて主査と副査の先生(ご夫婦)がやってきて、盛り上がる。先生にレモネード一杯奢ってもらう。その後、主査の先生と向かいになり話をした。先生が忙しくて返信もらってなかった内容のことをもう一回聞くと、あっさり返答をもらえた。その他ブダペストの暮らしの話をする。先生に「博士課程が終わった後は日本に帰りたい?ヨーロッパに残りたい?」と聞かれ、「今はヨーロッパに残りたいと思ってます。」と答えると、「イギリスとか?」というので「とか、ドイツとかですかね。コネクションが必要ですよね。」と返す。

先生のこれからのことなど聞いてみる。先生は今ウィーン在住で週に三日ほどブダペストに滞在し、行き来しながら働き、子育てをしている。ドイツやオーストリアで働きたいかと問うとそうでもないという(旦那さんがドイツ人、先生はオーストリア人)。どうも今の大学は研究環境がとてもよく、お金がそこそこあり、かつ強い競争プレッシャーが無いとのこと。金銭的に余裕のある大学は世界にいくらでもあるが、有名な大学であればあるほど業績を出せという圧力が強くなる傾向にあるようだ。その点でうちの大学は規模も小さく、大学自体がお金を持っているし、先生もヨーロッパの研究費を持っているので、ある程度自由に研究が行えるようだ。

研究をする上で、研究をする環境(国、大学、人間関係など)は非常に重要な部分を占める。日本にいた時だと、自分のやりたいことと大学名ぐらいしか考えたことがなかったが、指導教員の先生の人格や信頼性、ラボの雰囲気は自分のやりたいことと同等か、それ以上に大切な気がしてくる。博士の間に色んな人とお会いして、自分に合う場所に対するアンテナを常に張っていたいものだ。