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3月31日。
年度末。

14年ほど前、臨時職員としてお役所で働いていた。

年度末は役所にとって大きな区切りだ。

異動で、新しい職場に行く人がいる。
長い勤務を終えて、退職していく人がいる。

3月31日の午後にはちょっとしたセレモニーが行われる。
ーーー

私がいた部署は、50人ほどのメンバーがいた。
その年度で退職する人が6人。

3月31日の午後4時半過ぎ、
上長が年度末の挨拶を述べ、退職する人々をねぎらう。

残る人たちが、右側と左側に並んで、それぞれ列を作る。

退職する人たちは、その真ん中を通ってにこやかに職場をあとにする。
まるで花道のようだ。

拍手がおきる。お疲れ様でしたと送り出す。
お世話になった職員さんも退職者の中にいた。

あー、明日からこの職員さんはいないんだな。


働いてきた時間の長さが、その人の表情と重なる。
ーーー

その時、若手のFさんが

「みんな、アーチを作ってください」

と声をかけた。

左右にいた人々は、手をあげて向かいの人の手と近づけるようにした。

臨時のアーチが完成だ。

イメージ図
手はここまでは近づけなかった

人が作ったアーチなので、高さが足りない。
腰をかがめながら、通っていく形になった。

クスクス笑いがいつの間にか大きな笑いとなり。

硬い表情だった退職者も、柔らかな笑顔になった。
アーチを通り抜けたあとの
最後の拍手は盛大だった。
ーーー

その後、年度末を役所で何回か迎えたが
「退職アーチ」があったのはこの時だけだった。

笑いが、みんなの心をぐっとひとつにした。

あの時のFさん、きっと偉くなってるんだろうなぁと思うあつこである。

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